【完結】花に祈る少女

まりぃべる

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31. 突然の申し出

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 すっかり話し込んでしまい、昼食も一緒に食べてお茶も少しだけ飲んでからイリニヤと別れたスティーナは、自身のあてがわれた部屋に戻る為に、王族居住区との境目である扉に来た時に懐かしい顔を見つけて声を掛けた。


「あら?テレサ?」

「あ!お姉さま!随分とお久しぶりですわね!」


 扉に近い部屋から少しだけ廊下へと顔を出し、キョロキョロと辺りを見渡していたテレサに声を掛けるスティーナ。
昔懐かしい声で返事をされたスティーナは、しかしなぜここにいるのだろうと思った。


「テレサ、どうしたの?どなたかとお会いになるの?」

「えぇ、ラーシュとね!
でも私を呼んだくせに、この部屋で待っていてと言われて、ずっと待っているのよ。」

「え?ラーシュ様とお知り合いだったの?」

「まぁね!
私がお世話になっているカトリ先生の屋敷が、軍学校の隣にあったのよ。それが縁なの。」

「そうだったの…。」


 スティーナは、テレサが師であるカトリの屋敷へと行ってしまってからずっと会ってはいなかったので、成長しても変わらず可愛らしいテレサともう少し話をしたいと思った。
 それにラーシュと知り合いだったという話も、もう少し掘り下げて聞きたいなとも思ったのだ。軍学校が隣だからというだけで、ラーシュと知り合いになれるのなら、ヴァルナルとも会ったりしたのだろうか…と気にもなったからだ。

 しかし、スティーナが会話を続けようとしたところで、スティーナの後ろから声が聞こえる。


「おう、テレサ!良く来てくれたな!
さ、来いよ!…ん?花姫もいるのか?ちょうどいい、お前も来い。」


 そのように話し掛けて来た人物は、ラーシュであった。
スティーナは、話が見えないので思わず疑問で聞いてみた。


「え?ラーシュ様、どういう事でしょうか。」

「うーん、説明するのは面倒なんだよ、だから付いて来てくれれば分かるから。なぁに、時間は取らせねぇよ。」


 そう言ったラーシュは、元来た道をさっさと戻り、扉から王族居住区へと入ってほど近い部屋の前で止まり、振り向いた。


「おい、早くしろよ!」

「ラーシュ様、言葉遣いを丁寧にされませんと。」

「はぁ?仕方ないだろ、遅いんだから。
おい、待たせてるんだから早く来いよ!」


 ラーシュの後ろから、咎める言葉を言ったのは常に付いている側近のトムである。だが、ラーシュはいつものように反抗し、テレサとスティーナへそのように急かした。


「もう、ラーシュってせっかちなのよね!
お姉さま、ほら、行きましょ!」


 そう言ってテレサは進み出したので、スティーナも良く分からないが行ってみる事とした。


 意外にもテレサとスティーナがたどり着くまで待っていたラーシュは、二人が来ると扉に手を掛けようとする。が、ラーシュが開けるよりも素早く動いてトムが扉を叩き、来た事を知らせた。


 すると中から扉は開けられ、ラーシュは当然のように部屋へと入っていく。


(ええと…誰かしら?ソファに座っているわ。)


 スティーナは、開けられた扉から部屋を見ると、正面にあるソファに座っている人物が見えた。スティーナよりも少し年上に見える男性が座っている。肌は、バートのように褐色だと思ったスティーナであった。


「ボトヴィッド殿、お連れしました!
彼女が、テレサです。と、そこで会ったのでついでに連れて来た、花姫のスティーナです。」

「初めまして、テレサと申します。」

「初めまして。」


 ラーシュがソファまで行くと、そのようにボトヴィッド王子と言われた人物へと紹介し、テレサとスティーナも傍に来るように視線で促す。
テレサはラーシュの傍まで行き、スティーナも少し考えたが、ラーシュとスティーナが座る横に長いソファではなく、斜めにある一人用のソファへと向かった。


「なるほどね。
テレサ嬢、スティーナ嬢初めまして。ボクはイェブレン国のボトヴィッドというよ、よろしく。
それで、朝食の時に話していた話は本当なのかな?」

「はい、もちろんです!
ボトヴィッド殿が準備してくれるのであれば、彼女が祈ってくれます!」

「ねぇ、ラーシュ。私何の事か良く分かってないんだけど、何の話?」


 ボトヴィッドの出身はイェブレン国で、アールンダ国の隣にある。そこは、このウプサラ国よりも気温は熱く、砂や岩が多い国である。
 ボトヴィッドとラーシュの間では話がされているようだが、良く分からなかった為にテレサが口を挟んだ。口振りからするに、テレサはラーシュと仲が良いのだとスティーナは感じた。


「あぁ、テレサ。お前には前から話していただろ?オレはいつかラクダが飼いたいって。
それを叶えてくれる国はないかと、今日の朝食会で聞いてみたんだ。せっかくラクダを所有している国の王子も集まったからさ。そしたら、ある対価と引き換えならっていう条件を言われたんだよ。ボトヴィッド殿の願いを叶えられるなら、って。」

「すごい!ラーシュ、よかったわね!
…ん?願い?どんな?」

「ボク、愛する人が出来ちゃってね。その人と結婚したいんだけど、彼女は身分が無いんだよ。だから、花祈りは万能だと聞き及んでいるから、今回の祝いの招待を受けたついでにその事をお願いに来たのさ。
でもさ、いざとなるとどう頼めばいいのか悩んでね。だって、下手な行動をしたらさすがに捕まるだろう?
けれど幸運なことに、彼が僕に願いを言ってきたから、ボクも願ったってわけさ。」


 そう言ったボトヴィッドはひどく当たり前のように言った。
だが、それを聞いたテレサは少し考え、口を開いた。


「私を呼んだって事は、私にそれをさせようって思ったの?ラーシュ。」

「あぁ。だってオレとテレサとの仲だろ?
でも、ちょうどそこで会ったから、花姫がやってくれてもどちらでもいいぜ。」


 そう言ったラーシュも、さも当然のような口振りで答える。
すると、テレサはスティーナを見て言った。


「お姉さま、どう思う?
私的な事に使う場合は、あまり影響が出そうな願いはだめなのでしょ?」


 そう聞かれたスティーナは、初めて口を開いた。


「そうね…。この場合は…考えが私的過ぎます。
ええと、まずそもそもですが。ラーシュ様のラクダが欲しいという願いですけれども、良くお考えになって下さい。大切な家畜…」

「うるせぇなあ!いいからさっさとやれよ!
花姫がやらないなら部屋から出ていけ!ちっ、連れて来なきゃ良かったぜ。
テレサ、お前だけが頼りだ。やってくれるな?」


 スティーナが丁寧に説明をしようとした時、ラーシュは顔を真っ赤にさせ、大きな声で怒鳴った。その為、スティーナは体をビクリと強張らせた。


「えー…うーん…。
私さぁ……」

「テレサ、乗ってはダメよ。
というか、あなた…」


 スティーナはテレサにそのように言うが、そういえばテレサも花祈りが出来るのかと尋ねたかった。幼い頃に自分に祈りを込めたと言っては花をくれたテレサだったが、今思えば花の力花言葉と想いがチグハグであったのだが、それはしっかりと師について学んでいなかったからだと思っていた。
師であるカトリから、花にはそれぞれにがあるのだと教わっているのか、そのように聞きたかったのだが、それはまたしてもラーシュに遮られた。


「うるせぇって言ってんだろ!?早く出てけよ!
おい!ボケッと突っ立って見てないで、トム、花姫を部屋からつまみ出せや!」

「ラーシュ様、ごろつきのような話し方はお止め下さい!女性達にそのような口調は御法度といつも申しております。
そもそも、お呼びになったのはラーシュ様ですよ。」

「分かってる!
だからもう用が無くなったのだから出てけと言ったんだよ!」

「はーうるさいのはどっちだよ…。
ねぇ、ボクの願いを叶えてくれるの?無理なの?」


 大きくため息を吐いてそのように言ったボトヴィッドは、ギャンギャンと喚くラーシュに呆れていた。自分の願いが叶えられるならとラーシュの話に乗ったのだが、ラーシュは礼儀に欠ける人物だとボトヴィッドも気づいていたのだ。


「ボトヴィッド様。大変申し訳ありませんが、王子で在られるボトヴィッド様のその願いは、花祈りをするのは難しいと思います。
それよりも、まずイェブレン国の国王にはお話になられましたか?」

「スティーナ嬢、ボクの国の事は知ってる?イェブレン国はね、厳しいんだよ。資源があまりない砂の国であるからというのもあるけれど、国を存続し繁栄させる為だけを考えている。だから、王族に生まれてもを第一に考えないといけないんだ。国の前では、ボクの意思なんて簡単に踏みにじられるんだよ。
だから、すがれるものなら、不可思議な異国の魔術にも似た、花祈りの力を試したいと思うのは必然とも言えるのではないかな?」

「…ですが……」

「分かってはいるよ、王族に生まれたからには、その責務を果たすべきだって事はね。
でもさ、恋に落ちてしまったんだよ。
それって、人としての気持ちで、一番大事だと思わないかい?」

「でしたらなおさら、国王様にご自身のお気持ちを吐露してみては如何でしょうか。
人として大切な事を忘れてしまっては、国を背負って立つ事は出来ないと、ボトヴィッド様のお気持ちをお伝えするべきです。」

「…そうだね。それが出来ればね……」


 ひどく哀しそうなボトヴィッドは肩を落としそのまま口を開かなかった。
というより、またもラーシュが口を開いたからでもあった。


「いやいや!ボトヴィッド殿の願いを叶えなければ、ラクダが手に入らないだろうが!
テレサ、やってくれるな?」

「いい加減にせい!!」


 ほんの少しだけ開いていた部屋の扉が大きく開き、部屋に響き渡るほどの大きな声で一喝した為に、部屋にいた者達は誰が来たのかと皆そちらへと視線を向け、その場が静まり返った。
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