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32. ラーシュの処遇
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「戯けた事を申すか、ラーシュ!
いや、夢やさまざまな気持ちを持ち続けるのは大事だが、お前は人を巻き込み過ぎる!しかも、他国の王族にまで迷惑を掛けおって!」
部屋に入って来たのは、そのように叱咤したドグラスと、数歩後ろに立つヴァルナルであった。
「ち、父上…」
「少し前から会話は聞かせてもらった。
ラクダが欲しいという気持ちは充分分かった。昔から言っておったものな、しかしそれがまた今になって…。
ラーシュよ、お前には重大な任務を申しつける。イェブレン国へ行き、ラクダを育てる技術を教わってくるのだ。」
「えー!!ち、父上!ちょっと待って下さい!
半分嬉しいけど、半分は嫌です!
オレは、この温暖な過ごしやすいウプサラ国で、ラクダを育てたい!イェブレン国は、すごく暑いって聞くし、行きたくない!」
「ラーシュよ。詳しくはイェブレン国と話し合って決めねばならんが、もうわしは決めた。
…そして、テレサと言ったか。ここ数年、ラーシュが世話になったようだな、礼を言う。」
「え!い、いいえ…!」
「テレサは、ラーシュの事をどう思う?
ラーシュについて行ってくれるのであれば、それもまた良し。
ラーシュとは金輪際縁を切るのであれば、そうしてくれ。」
「え…そ、そんな…」
「ちょうどイェブレン国の国王もこの宮殿に滞在されているからな。今日中にはイェブレン国と話し合い、早い内にラーシュをイェブレン国へと向かわせる。
ラーシュの出発までには、答えを出してくれるか。」
「わ、分かりました…。」
テレサは、急に国王に話し掛けられた為に極度に緊張し、礼儀を考える暇もなく答えた。
ラーシュはといえば、頭を抱えながらもブツブツと言っている。ラーシュは今までも嫌な事からは逃げて来た人生であった。
ウプサラ国は、年中過ごしやすい気候ではあるが稀に気温が上がり過ぎる日や、雨が土砂降りになる日もある。
そのような時、ラーシュは暑いと思えば予定を取り止めにしたり、雨が降れば予定を理由をつけて延期したりしてきた。
それが、イェブレン国という砂と岩の国へ行けと言われたのである。
今までのラーシュの考えで言えば、予定を取り止めていた気温よりもさらに暑い気候なのだ。そこでしばらく暮らせとは、しかも技術を学んでこいとは苦痛でしかないと思った。
けれども同時に、ラーシュが昔マルメの祭りで見た時から欲しいと思っていたラクダの世話が出来るのだ。正確に言えば、世話は使用人にやってもらいたかったのだが、触れ合う事が出来るというのは、単純に嬉しいと思った。
「して、イェブレン国の王子、ボトヴィッド殿。」
「…はい。」
「悪いが、事の顛末は君のお父上である国王へ話させてもらうよ。」
「分かっております。」
「場合によったら国王が、君へ処分を下すかもしれん。
我が愚息から言い出した事であるだろうが、君にも迷惑を掛けて申し訳ない。」
「いえ。断る事も出来たのに、話に乗ったのはボクですから。」
「そうか…。さすがは王族、自分の行動に責任を持つとは。何かあれば力になろうぞ。
それからスティーナよ、迷惑を掛けて済まなかったね。」
「い、いえ。」
「では、わしは先に戻るよ。これからの対応を早々に決めねばならんからな。
あとはヴァルナル、頼んだぞ。」
「分かりました。
スティーナ、大丈夫だったかい?」
そう言ったドグラスは、振り返りヴァルナルに声を掛け部屋を去って行く。
ヴァルナルは、それと入れ替わりに部屋へと入ってきて、スティーナの元へ向かいながら言葉を掛けた。
「ええ、大丈夫よ。いろいろと驚いたけれど。
それより、ヴァルナルもドグラス様も、どうしてここに?」
スティーナは、ドグラスやヴァルナルが入ってきて本当に良かったと思った為になぜ来てくれたのかが気になった。今日は一日忙しいから会えなくてごめん、と聞いていたからだ。
「いや、それがね。俺と父上がスティーナの話をしている時に、兵士が血相を変えて伝えに来てくれてね、だから二人でこちらへ来たのだよ。
廊下からラーシュ兄さんの大きな声も聞こえていたし。でも何もなく、間に合って良かった!」
「私の話?それに、兵士?」
「あぁ。スティーナはもう、今は花祈りとして国の重要人物だからね。宮殿内で警備している兵士達には、スティーナに何かあれば伝える事となっているんだ。あの兵士は、居住区域と政務区域との境目である扉で警備していた者だ。
彼が、スティーナがラーシュ兄さんに捕まったと知らせに来てくれたんだよ。」
「そうだったの…」
スティーナは知らずに守られていた事を知ってなんだか申し訳なく感じる。それと同時に、だから特にどこへ行ってはいけないと規制されていないのだと知った。一人で出掛けないように、とはヤーナから言われていたので、それはきちんと守っていたが、兵士が知らず気に掛けてくれていたのだと知った。
「あぁ、それから父上にスティーナの事を話していたのはね、スティーナと結婚したいと伝えたんだ。父上は喜んでくれたよ。だから、申し訳ないんだけど、部屋をまた移動してもらうからね。」
「まぁ…!え、移動?」
「そう。これからは、王族専用の居住区へようこそ!ってね。
あとで、一緒に行こう、案内するよ。
あ、ヤーナ!スティーナの部屋へ行ってくれる?荷物を運び出すのを指示して欲しい。」
「!
はい、承知致しました。」
ヴァルナルは壁際に控えていたヤーナへとそう伝えると、ヤーナはそう言って部屋へ戻っていった。普段はスティーナの影のように後ろにいるヤーナであるが、ヴァルナルが言う時には大抵スティーナを見守ってくれると思っているので安心してその場を去っていったのだ。
「今日から俺の隣の部屋ね。」
そう言ってヴァルナルはスティーナへと嬉しそうに笑ってから、表情を戻して未だ放心状態の三人に順に声をかけていった。
「ボトヴィッド殿、兄が申し訳ありませんでした。
どうぞ部屋にお戻り下さい。」
「あぁ、分かった。
レディ達、済まなかったね。失礼するよ。」
ボトヴィッドはヴァルナルに声を掛けられると一つ頷いてからそう言って、部屋を出て行った。
「ラーシュ兄さん…は、彼らに連れて行ってもらおう。ラーシュ兄さんの部屋までよろしく頼むよ。」
続いて、ヴァルナルはラーシュの方を見てから、国王と共についてきた兵士に向かってそう言うと、兵士達は返事をしてラーシュに声を掛け、やや強引に歩かせ進ませる。
「あ、ラーシュ!」
慌ててテレサが声を掛けると、ラーシュは少し振り向いたが、兵士はそのまま促したので歩みを止めずに部屋の扉から出て行ってしまった。
「テレサ…。」
その姿を見て、スティーナが呟いたので、ヴァルナルはスティーナを見てからテレサを見やり、スティーナへと言葉を告げる。
「スティーナ、新しい部屋を案内するよ。準備が出来たらおいで。ゆっくりでいいよ。」
そう言って、ヴァルナルはスティーナに笑顔を向け、歩き出し部屋の扉を閉める。
(準備が出来たら、って…テレサと話してもいいって事かしら。ゆっくり、とも言ってくれたもの。)
スティーナはヴァルナルの気遣いを有難く思い、テレサへと話し掛けた。
「テレサ、ラーシュ様と親しかったのね。」
接し方が初対面のそれではなく、お互いに敬称も付けずに話している事もあり、またよく会っていたとも言っていた為にそのように聞いた。
「お姉さま…えぇそうよ。
私、ラーシュについて行こうかな。
お姉さま、どう思う?」
「え!
…どうって、テレサはその…ラーシュ様の事が好きなの?
だって、ついて行くってきっとそれは想像も出来ないほど大変だと思うわよ。」
スティーナは、ラーシュの口調はかなり強めで、怖いと思うほどであった。だが、テレサは慣れているのかそれほど怖がっているようには見えなかったとスティーナは思った。
それに、ラーシュは遠く離れたイェブレン国へ行くのだ。それは、ここウプサラ国とは気候も生活環境も違う場所であり、毎日過ごす生活は過酷だと言える。それに敢えてついて行こうと考える事は、それほどラーシュの傍にいたいのかとスティーナは思ったのだ。
「だからよ。
ラーシュって、口調はあんなだけれど、案外優しいのよ。そんなラーシュが、一人でなんて可哀想だもの。」
「…テレサの気持ちが固まっているなら、いいとは思うけれど、大変よ?」
「ラーシュとなら、どんな事だって楽しいわ!
それに、ラーシュは私の〝王子様〟なのだもの!」
スティーナは、テレサの師であるカトリが住む屋敷へと引っ越してからずっと会う事はなかった。その為、どのように過ごしていたのか、全く分からなかった。けれど、テレサの目は以前よりも力があるようにスティーナは思った。宮殿の近くの街に移り住み、さまざまな事を体験したり学んだりしたからだろう、スティーナはテレサを頼もしいと感じた。
「それはいつか言っていた〝王子様〟ね?」
「ええ!
…お姉さまは第二王子と結婚するの?幸せにね!
あまり、第二王子を待たせてはいけないわよね?お姉さま、そろそろ行かないとでしょ?
またね!」
先ほどのヴァルナルとの話が少し聞こえていた為、テレサはそう言って笑って、手を振った。
「ありがとう。
テレサも、頑張ってね。」
そう言い合うと、スティーナは部屋を出る為に扉を開ける。と、すぐヴァルナルが立っていた。
「準備が出来た?じゃあ行こうか。
あ、テレサ嬢。君は一度屋敷に帰るといい。ラーシュ兄さんの処遇が決まったら、君にも伝えに行くようにするから。その時にどうするか返事をくれるかな?」
「分かりました。」
テレサの返事を聞くとヴァルナルは一つ頷き、それからスティーナの顔を見て微笑むと、スティーナの手を掴んで優しく握りしめるとスティーナの歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
いや、夢やさまざまな気持ちを持ち続けるのは大事だが、お前は人を巻き込み過ぎる!しかも、他国の王族にまで迷惑を掛けおって!」
部屋に入って来たのは、そのように叱咤したドグラスと、数歩後ろに立つヴァルナルであった。
「ち、父上…」
「少し前から会話は聞かせてもらった。
ラクダが欲しいという気持ちは充分分かった。昔から言っておったものな、しかしそれがまた今になって…。
ラーシュよ、お前には重大な任務を申しつける。イェブレン国へ行き、ラクダを育てる技術を教わってくるのだ。」
「えー!!ち、父上!ちょっと待って下さい!
半分嬉しいけど、半分は嫌です!
オレは、この温暖な過ごしやすいウプサラ国で、ラクダを育てたい!イェブレン国は、すごく暑いって聞くし、行きたくない!」
「ラーシュよ。詳しくはイェブレン国と話し合って決めねばならんが、もうわしは決めた。
…そして、テレサと言ったか。ここ数年、ラーシュが世話になったようだな、礼を言う。」
「え!い、いいえ…!」
「テレサは、ラーシュの事をどう思う?
ラーシュについて行ってくれるのであれば、それもまた良し。
ラーシュとは金輪際縁を切るのであれば、そうしてくれ。」
「え…そ、そんな…」
「ちょうどイェブレン国の国王もこの宮殿に滞在されているからな。今日中にはイェブレン国と話し合い、早い内にラーシュをイェブレン国へと向かわせる。
ラーシュの出発までには、答えを出してくれるか。」
「わ、分かりました…。」
テレサは、急に国王に話し掛けられた為に極度に緊張し、礼儀を考える暇もなく答えた。
ラーシュはといえば、頭を抱えながらもブツブツと言っている。ラーシュは今までも嫌な事からは逃げて来た人生であった。
ウプサラ国は、年中過ごしやすい気候ではあるが稀に気温が上がり過ぎる日や、雨が土砂降りになる日もある。
そのような時、ラーシュは暑いと思えば予定を取り止めにしたり、雨が降れば予定を理由をつけて延期したりしてきた。
それが、イェブレン国という砂と岩の国へ行けと言われたのである。
今までのラーシュの考えで言えば、予定を取り止めていた気温よりもさらに暑い気候なのだ。そこでしばらく暮らせとは、しかも技術を学んでこいとは苦痛でしかないと思った。
けれども同時に、ラーシュが昔マルメの祭りで見た時から欲しいと思っていたラクダの世話が出来るのだ。正確に言えば、世話は使用人にやってもらいたかったのだが、触れ合う事が出来るというのは、単純に嬉しいと思った。
「して、イェブレン国の王子、ボトヴィッド殿。」
「…はい。」
「悪いが、事の顛末は君のお父上である国王へ話させてもらうよ。」
「分かっております。」
「場合によったら国王が、君へ処分を下すかもしれん。
我が愚息から言い出した事であるだろうが、君にも迷惑を掛けて申し訳ない。」
「いえ。断る事も出来たのに、話に乗ったのはボクですから。」
「そうか…。さすがは王族、自分の行動に責任を持つとは。何かあれば力になろうぞ。
それからスティーナよ、迷惑を掛けて済まなかったね。」
「い、いえ。」
「では、わしは先に戻るよ。これからの対応を早々に決めねばならんからな。
あとはヴァルナル、頼んだぞ。」
「分かりました。
スティーナ、大丈夫だったかい?」
そう言ったドグラスは、振り返りヴァルナルに声を掛け部屋を去って行く。
ヴァルナルは、それと入れ替わりに部屋へと入ってきて、スティーナの元へ向かいながら言葉を掛けた。
「ええ、大丈夫よ。いろいろと驚いたけれど。
それより、ヴァルナルもドグラス様も、どうしてここに?」
スティーナは、ドグラスやヴァルナルが入ってきて本当に良かったと思った為になぜ来てくれたのかが気になった。今日は一日忙しいから会えなくてごめん、と聞いていたからだ。
「いや、それがね。俺と父上がスティーナの話をしている時に、兵士が血相を変えて伝えに来てくれてね、だから二人でこちらへ来たのだよ。
廊下からラーシュ兄さんの大きな声も聞こえていたし。でも何もなく、間に合って良かった!」
「私の話?それに、兵士?」
「あぁ。スティーナはもう、今は花祈りとして国の重要人物だからね。宮殿内で警備している兵士達には、スティーナに何かあれば伝える事となっているんだ。あの兵士は、居住区域と政務区域との境目である扉で警備していた者だ。
彼が、スティーナがラーシュ兄さんに捕まったと知らせに来てくれたんだよ。」
「そうだったの…」
スティーナは知らずに守られていた事を知ってなんだか申し訳なく感じる。それと同時に、だから特にどこへ行ってはいけないと規制されていないのだと知った。一人で出掛けないように、とはヤーナから言われていたので、それはきちんと守っていたが、兵士が知らず気に掛けてくれていたのだと知った。
「あぁ、それから父上にスティーナの事を話していたのはね、スティーナと結婚したいと伝えたんだ。父上は喜んでくれたよ。だから、申し訳ないんだけど、部屋をまた移動してもらうからね。」
「まぁ…!え、移動?」
「そう。これからは、王族専用の居住区へようこそ!ってね。
あとで、一緒に行こう、案内するよ。
あ、ヤーナ!スティーナの部屋へ行ってくれる?荷物を運び出すのを指示して欲しい。」
「!
はい、承知致しました。」
ヴァルナルは壁際に控えていたヤーナへとそう伝えると、ヤーナはそう言って部屋へ戻っていった。普段はスティーナの影のように後ろにいるヤーナであるが、ヴァルナルが言う時には大抵スティーナを見守ってくれると思っているので安心してその場を去っていったのだ。
「今日から俺の隣の部屋ね。」
そう言ってヴァルナルはスティーナへと嬉しそうに笑ってから、表情を戻して未だ放心状態の三人に順に声をかけていった。
「ボトヴィッド殿、兄が申し訳ありませんでした。
どうぞ部屋にお戻り下さい。」
「あぁ、分かった。
レディ達、済まなかったね。失礼するよ。」
ボトヴィッドはヴァルナルに声を掛けられると一つ頷いてからそう言って、部屋を出て行った。
「ラーシュ兄さん…は、彼らに連れて行ってもらおう。ラーシュ兄さんの部屋までよろしく頼むよ。」
続いて、ヴァルナルはラーシュの方を見てから、国王と共についてきた兵士に向かってそう言うと、兵士達は返事をしてラーシュに声を掛け、やや強引に歩かせ進ませる。
「あ、ラーシュ!」
慌ててテレサが声を掛けると、ラーシュは少し振り向いたが、兵士はそのまま促したので歩みを止めずに部屋の扉から出て行ってしまった。
「テレサ…。」
その姿を見て、スティーナが呟いたので、ヴァルナルはスティーナを見てからテレサを見やり、スティーナへと言葉を告げる。
「スティーナ、新しい部屋を案内するよ。準備が出来たらおいで。ゆっくりでいいよ。」
そう言って、ヴァルナルはスティーナに笑顔を向け、歩き出し部屋の扉を閉める。
(準備が出来たら、って…テレサと話してもいいって事かしら。ゆっくり、とも言ってくれたもの。)
スティーナはヴァルナルの気遣いを有難く思い、テレサへと話し掛けた。
「テレサ、ラーシュ様と親しかったのね。」
接し方が初対面のそれではなく、お互いに敬称も付けずに話している事もあり、またよく会っていたとも言っていた為にそのように聞いた。
「お姉さま…えぇそうよ。
私、ラーシュについて行こうかな。
お姉さま、どう思う?」
「え!
…どうって、テレサはその…ラーシュ様の事が好きなの?
だって、ついて行くってきっとそれは想像も出来ないほど大変だと思うわよ。」
スティーナは、ラーシュの口調はかなり強めで、怖いと思うほどであった。だが、テレサは慣れているのかそれほど怖がっているようには見えなかったとスティーナは思った。
それに、ラーシュは遠く離れたイェブレン国へ行くのだ。それは、ここウプサラ国とは気候も生活環境も違う場所であり、毎日過ごす生活は過酷だと言える。それに敢えてついて行こうと考える事は、それほどラーシュの傍にいたいのかとスティーナは思ったのだ。
「だからよ。
ラーシュって、口調はあんなだけれど、案外優しいのよ。そんなラーシュが、一人でなんて可哀想だもの。」
「…テレサの気持ちが固まっているなら、いいとは思うけれど、大変よ?」
「ラーシュとなら、どんな事だって楽しいわ!
それに、ラーシュは私の〝王子様〟なのだもの!」
スティーナは、テレサの師であるカトリが住む屋敷へと引っ越してからずっと会う事はなかった。その為、どのように過ごしていたのか、全く分からなかった。けれど、テレサの目は以前よりも力があるようにスティーナは思った。宮殿の近くの街に移り住み、さまざまな事を体験したり学んだりしたからだろう、スティーナはテレサを頼もしいと感じた。
「それはいつか言っていた〝王子様〟ね?」
「ええ!
…お姉さまは第二王子と結婚するの?幸せにね!
あまり、第二王子を待たせてはいけないわよね?お姉さま、そろそろ行かないとでしょ?
またね!」
先ほどのヴァルナルとの話が少し聞こえていた為、テレサはそう言って笑って、手を振った。
「ありがとう。
テレサも、頑張ってね。」
そう言い合うと、スティーナは部屋を出る為に扉を開ける。と、すぐヴァルナルが立っていた。
「準備が出来た?じゃあ行こうか。
あ、テレサ嬢。君は一度屋敷に帰るといい。ラーシュ兄さんの処遇が決まったら、君にも伝えに行くようにするから。その時にどうするか返事をくれるかな?」
「分かりました。」
テレサの返事を聞くとヴァルナルは一つ頷き、それからスティーナの顔を見て微笑むと、スティーナの手を掴んで優しく握りしめるとスティーナの歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
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