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17. テレサとのゆっくりとした時間
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翌日。
朝食を共に摂った後ヴァルナルは帰っていった。学校へと通う為だ。
男子は十二歳から、十八歳になるまで軍学校もしくは士官学校で寮生活をしながら通う。その為、来年からマルメの祭りには来れないかもしれないと心底悲しそうにヴァルナルはスティーナへと告げた。
スティーナもそれを聞き、心に重い衝撃が走ったように淋しく思ったが、知識を得る為には必要な事だと思う事にし、ヴァルナルへ手紙を書くわと伝えたのだった。
祭りには、次の日イロナと出掛けたがすぐに帰って来てしまった。イロナは元々人混みが苦手だそうで、ちらりと街中を見たくらいですぐに馬車へ戻ると言ったからだった。
スティーナには護衛が付いているのだから一人で出掛ければいいと言われたが、スティーナはそれを断った。今まではヴァルナルと出掛けていた為に、一人で賑やかな場所へ行っても楽しめるか不安であったのだ。
なのでそれからは、イロナと共にゆっくりと屋敷で過ごしたのだった。
☆★
そして、一週間が過ぎ、マルメからオーグレンの屋敷へと帰った。
「お姉さま。どちらへいらしてたの?」
ちょうど、二階の廊下でテレサに会ったスティーナは、そのように声を掛けられた。
テレサも少しずつ、言葉遣いなどを学んでいた為、丁寧に話せるようにもなっていた。
「テレサ、ただいま。
マルメへ行っていたの。」
「マルメ…?
いいわね、お姉さまばかり出掛けられて!私も出掛けたいわ!」
「そうね…じゃぁ、テレサも学べばいろいろと出掛けられるのではないかしら。ほら、イロナ様が前言われていたじゃない、読み書きが出来れば言ってねって。」
「…そういえばそんな事を言っていたわね。でも、それじゃあの人に教わるって事でしょ?私、嫌だわ。」
テレサは唇を尖らせながら言った。てっきりテレサにも優しく接してくれると思っていたのに、勉強しなさいと冷たくあしらわれた為に根に持っているのだった。
「テレサ…失礼よ?
それでも、読み書きくらいは覚えたのでしょう?最近、本を読んでいるみたいだから。」
「だって、やる事がないのだもの。かといって難しい事は苦手だし。
あ、お姉さま!私刺繍をやり始めたのよ?凄いでしょ?」
少し誇らし気に言ったテレサに、スティーナもまた嬉しそうに言葉を掛ける。
「まぁ!テレサ、凄いじゃない!」
「スティーナ様、こちらは廊下ですから…よろしければ、テラスか、お部屋にお話の場を設けては如何でしょうか。」
「あ!…そうね。」
テレサと話していると、普段は割って入って来ないヤーナが声を落として提案した為に、スティーナも声を落としてそのように言った。
「なによ!ここじゃダメなわけ!?」
「テレサ様、確かに廊下では…」
テレサの後ろにいた、侍女のキルシもそう声を上げた時。
ガチャーン!
一番奥の部屋から、何かが割れる音がして、大きな張り上げるような声が聞こえた。
「え!?なに!?」
テレサは一人、訳が分からない様子で、驚き音のする方を見やる。
「テレサ。とりあえず私の部屋に行きましょうか。」
「う、うん…」
スティーナとテレサは、母親が部屋からは出て来ない為この屋敷に二人でいるようなもの。だから時間が合えばしばしば、紅茶を一緒に飲む時もあったので普段のように、スティーナが少し怯えた様子のテレサを優しく声を掛けゆっくりと部屋へと誘った。
部屋へ入ると、ようやく声は少し聞こえなくなった。
スティーナは、窓際のソファへとテレサを促すと、ヤーナと一緒に衣装部屋に一度入った。そこで、余所行きの服装から少し動き易い服装へと着替えてからテレサの対面の席に座った。
衣装部屋で、着替えの途中ヤーナに母の事はテレサが知っているかと確認すると、多分知らないだろう、と言っていた。
その事を踏まえてスティーナは、テレサへ説明しようとした。
その間に、ヤーナはキルシの元へ行き少し話をすると、キルシは頷いて部屋を出て行った。紅茶とお菓子を持ってくる為だ。
「テレサ。私もつい最近知った事なのだけれど…お母様、心のご病気なのですって。」
「え!?」
「驚いたわよね…私も、とても驚いたの。」
「だから会えないのね。」
「そうみたい。この前、私お母様に呼び出されて、その…普通じゃなかったのよ。」
「ちょっと!お姉さまはお母様に会ったの!?」
「この前よ?初めてね。」
「酷い!私なんてまだ会った事ないのに!」
「や、でも…」
「テレサ様。私からご説明してもよろしいでしょうか。」
「なによ、ヤーナ!」
テレサがスティーナへと声を荒げた為に、敢えて割って入ったヤーナは、ゆっくりと落ち着いた口調でテレサへと話し出した。
「ありがとうございます。
リンネア様は、最近やっと人とお話し出来るようにまで回復してきたのです。ですから、テレサ様ともお会いになりたいと思われているはずです。」
「嘘じゃないでしょうね!?」
「はい。ただ、体調に波がございまして、先ほどのように感情のコントロールが上手く出来ないご様子ですので、それを見計らってお会いになられると思うのです。
スティーナ様も、リンネア様が感情の抑制が上手くお出来になれずに心無い言葉をかけられてしまわれました。今はタイミングを見ていると思います。」
「感情のよくせい…?」
「はい。リンネア様のお側にいるシエナが言うには、物を投げたりされるそうです。」
「!そ、そう…じゃあ仕方ないわね。会えても、物を投げられたんじゃたまらないわ。」
「はい。ですので、もう少しお待ちいただけるとよろしいかと。」
「分かったわ。
それよりお姉さま、私も屋敷の中だけじゃなくて他の街へ行ってみたいです。だから、あの人に聞いてみてほしいの。」
「あの人?イロナ様ね?分かったわ。次に来た時に聞いてみるわ。」
「よかった!
だってそろそろ、屋敷にずーっといるのも飽きてきたのよね。さすがに私も、少しは淑女の嗜みを学んでいかないと、結婚してここから出て行けないもの。早く格好いい王子サマ、現れないかしら!」
「テレサったら…。え?王子様って、ラーシュ様?それともヴァルナル様の事?」
「は?嫌だわ、例えよ例え!
最近よく読む物語には、格好いい王子サマが現れて、求婚してくれるの!別に本当にどこかの国の王子サマじゃなくてもいいのよ、運命の人っていうの?」
テレサは、一年ほど前からようやく読み書きを覚え始めた。それまでは小さな子供が読む絵本を眺めていたが、やはりもう少し簡単でいいから本を読んでみたいと思うようになり、今では小さな子供向けの童話やむかし話を読めるまでになったのだ。そして、今のテレサのお気に入りは、王子サマがお姫さまを迎えに来てくれる流れの話であった。
「…そう。」
(なぁんだ…テレサが読んでいる物語の話なのね。てっきり、ヴァルナルと知り合いなのかと思ってしまったわ。…やだ!なんで?別に知り合いでもいいのに、どうしてヴァルナルだったらどうしよう、嫌だわなんて考えたのかしら!?)
スティーナは、テレサの言葉に胸がドキリと跳ねたのだ。しかしまだ、その理由には気づいてはいなかった。
そして、そのうちにキルシがワゴンに乗せた紅茶とお菓子を運んできた。それをキルシと部屋にいたヤーナで準備をすると、しばらく二人は、テレサのお気に入りの物語の話をしながらゆっくりと過ごしていた。
朝食を共に摂った後ヴァルナルは帰っていった。学校へと通う為だ。
男子は十二歳から、十八歳になるまで軍学校もしくは士官学校で寮生活をしながら通う。その為、来年からマルメの祭りには来れないかもしれないと心底悲しそうにヴァルナルはスティーナへと告げた。
スティーナもそれを聞き、心に重い衝撃が走ったように淋しく思ったが、知識を得る為には必要な事だと思う事にし、ヴァルナルへ手紙を書くわと伝えたのだった。
祭りには、次の日イロナと出掛けたがすぐに帰って来てしまった。イロナは元々人混みが苦手だそうで、ちらりと街中を見たくらいですぐに馬車へ戻ると言ったからだった。
スティーナには護衛が付いているのだから一人で出掛ければいいと言われたが、スティーナはそれを断った。今まではヴァルナルと出掛けていた為に、一人で賑やかな場所へ行っても楽しめるか不安であったのだ。
なのでそれからは、イロナと共にゆっくりと屋敷で過ごしたのだった。
☆★
そして、一週間が過ぎ、マルメからオーグレンの屋敷へと帰った。
「お姉さま。どちらへいらしてたの?」
ちょうど、二階の廊下でテレサに会ったスティーナは、そのように声を掛けられた。
テレサも少しずつ、言葉遣いなどを学んでいた為、丁寧に話せるようにもなっていた。
「テレサ、ただいま。
マルメへ行っていたの。」
「マルメ…?
いいわね、お姉さまばかり出掛けられて!私も出掛けたいわ!」
「そうね…じゃぁ、テレサも学べばいろいろと出掛けられるのではないかしら。ほら、イロナ様が前言われていたじゃない、読み書きが出来れば言ってねって。」
「…そういえばそんな事を言っていたわね。でも、それじゃあの人に教わるって事でしょ?私、嫌だわ。」
テレサは唇を尖らせながら言った。てっきりテレサにも優しく接してくれると思っていたのに、勉強しなさいと冷たくあしらわれた為に根に持っているのだった。
「テレサ…失礼よ?
それでも、読み書きくらいは覚えたのでしょう?最近、本を読んでいるみたいだから。」
「だって、やる事がないのだもの。かといって難しい事は苦手だし。
あ、お姉さま!私刺繍をやり始めたのよ?凄いでしょ?」
少し誇らし気に言ったテレサに、スティーナもまた嬉しそうに言葉を掛ける。
「まぁ!テレサ、凄いじゃない!」
「スティーナ様、こちらは廊下ですから…よろしければ、テラスか、お部屋にお話の場を設けては如何でしょうか。」
「あ!…そうね。」
テレサと話していると、普段は割って入って来ないヤーナが声を落として提案した為に、スティーナも声を落としてそのように言った。
「なによ!ここじゃダメなわけ!?」
「テレサ様、確かに廊下では…」
テレサの後ろにいた、侍女のキルシもそう声を上げた時。
ガチャーン!
一番奥の部屋から、何かが割れる音がして、大きな張り上げるような声が聞こえた。
「え!?なに!?」
テレサは一人、訳が分からない様子で、驚き音のする方を見やる。
「テレサ。とりあえず私の部屋に行きましょうか。」
「う、うん…」
スティーナとテレサは、母親が部屋からは出て来ない為この屋敷に二人でいるようなもの。だから時間が合えばしばしば、紅茶を一緒に飲む時もあったので普段のように、スティーナが少し怯えた様子のテレサを優しく声を掛けゆっくりと部屋へと誘った。
部屋へ入ると、ようやく声は少し聞こえなくなった。
スティーナは、窓際のソファへとテレサを促すと、ヤーナと一緒に衣装部屋に一度入った。そこで、余所行きの服装から少し動き易い服装へと着替えてからテレサの対面の席に座った。
衣装部屋で、着替えの途中ヤーナに母の事はテレサが知っているかと確認すると、多分知らないだろう、と言っていた。
その事を踏まえてスティーナは、テレサへ説明しようとした。
その間に、ヤーナはキルシの元へ行き少し話をすると、キルシは頷いて部屋を出て行った。紅茶とお菓子を持ってくる為だ。
「テレサ。私もつい最近知った事なのだけれど…お母様、心のご病気なのですって。」
「え!?」
「驚いたわよね…私も、とても驚いたの。」
「だから会えないのね。」
「そうみたい。この前、私お母様に呼び出されて、その…普通じゃなかったのよ。」
「ちょっと!お姉さまはお母様に会ったの!?」
「この前よ?初めてね。」
「酷い!私なんてまだ会った事ないのに!」
「や、でも…」
「テレサ様。私からご説明してもよろしいでしょうか。」
「なによ、ヤーナ!」
テレサがスティーナへと声を荒げた為に、敢えて割って入ったヤーナは、ゆっくりと落ち着いた口調でテレサへと話し出した。
「ありがとうございます。
リンネア様は、最近やっと人とお話し出来るようにまで回復してきたのです。ですから、テレサ様ともお会いになりたいと思われているはずです。」
「嘘じゃないでしょうね!?」
「はい。ただ、体調に波がございまして、先ほどのように感情のコントロールが上手く出来ないご様子ですので、それを見計らってお会いになられると思うのです。
スティーナ様も、リンネア様が感情の抑制が上手くお出来になれずに心無い言葉をかけられてしまわれました。今はタイミングを見ていると思います。」
「感情のよくせい…?」
「はい。リンネア様のお側にいるシエナが言うには、物を投げたりされるそうです。」
「!そ、そう…じゃあ仕方ないわね。会えても、物を投げられたんじゃたまらないわ。」
「はい。ですので、もう少しお待ちいただけるとよろしいかと。」
「分かったわ。
それよりお姉さま、私も屋敷の中だけじゃなくて他の街へ行ってみたいです。だから、あの人に聞いてみてほしいの。」
「あの人?イロナ様ね?分かったわ。次に来た時に聞いてみるわ。」
「よかった!
だってそろそろ、屋敷にずーっといるのも飽きてきたのよね。さすがに私も、少しは淑女の嗜みを学んでいかないと、結婚してここから出て行けないもの。早く格好いい王子サマ、現れないかしら!」
「テレサったら…。え?王子様って、ラーシュ様?それともヴァルナル様の事?」
「は?嫌だわ、例えよ例え!
最近よく読む物語には、格好いい王子サマが現れて、求婚してくれるの!別に本当にどこかの国の王子サマじゃなくてもいいのよ、運命の人っていうの?」
テレサは、一年ほど前からようやく読み書きを覚え始めた。それまでは小さな子供が読む絵本を眺めていたが、やはりもう少し簡単でいいから本を読んでみたいと思うようになり、今では小さな子供向けの童話やむかし話を読めるまでになったのだ。そして、今のテレサのお気に入りは、王子サマがお姫さまを迎えに来てくれる流れの話であった。
「…そう。」
(なぁんだ…テレサが読んでいる物語の話なのね。てっきり、ヴァルナルと知り合いなのかと思ってしまったわ。…やだ!なんで?別に知り合いでもいいのに、どうしてヴァルナルだったらどうしよう、嫌だわなんて考えたのかしら!?)
スティーナは、テレサの言葉に胸がドキリと跳ねたのだ。しかしまだ、その理由には気づいてはいなかった。
そして、そのうちにキルシがワゴンに乗せた紅茶とお菓子を運んできた。それをキルシと部屋にいたヤーナで準備をすると、しばらく二人は、テレサのお気に入りの物語の話をしながらゆっくりと過ごしていた。
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