4 / 41
4. 花祈りの師
しおりを挟む
「まあ…!スティーナは本当に素晴らしいね。偉いわよ!」
スティーナは、花祈りのやり方や、極意を教えてもらう師であるイロナからそのような褒め言葉をいつももらっていた。褒めて伸ばす教え方なのか、怒られた事はなかった。
☆★
初めてイロナと会った日は、スティーナは胸が張り裂けそうな程にドキドキとしたものだった。
「今日から、花祈りの先生が参ります。教えていただきましょうね。」
ヤーナに言われ、中庭にと連れて来られたスティーナは顔が強張り緊張していた。
まだ七歳のスティーナには、それまで自分を訪ねて来た人は居なかったからだった。
(先生、ですって。どんな方かしら。)
それまでにはスティーナは、六歳の頃から読み書きや足し引きをヤーナから教わっていたが、花祈りの事はまだ誰からも教わってはいなかった。
花祈りの事は、花祈りをする人にしか分からない事も多くある為に、経験者から引き継がれ教わるのが常であったのだ。
そして相手の言うことが理解出来ると思われる年頃になると、初めて教わる事が出来るのだ。
「スティーナです。よろしくお願いします。」
その師は、イロナと言って年齢は五十歳に手が届くほどだった。髪は全体的に白く、長い髪を首辺りで一つにまとめ上げていた。
中庭を一望出来る、少し高台になった四阿にイロナは座っていた。スティーナに姿勢を向けたイロナに、そのように挨拶をした。
「まぁ!可愛らしいお嬢さんだ事!私はイロナと言うわ。
…いい?スティーナ。たった今から私はあなたの師であり、祖母よ。分かった?」
そう言ったイロナは、席を立ってスティーナの元まで歩み寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「スティーナ。あなたはこれから、数奇な運命を背負う事となるでしょう。辛い事も苦しい事もあるかもしれませんが、信頼出来る味方に頼りなさい。
もちろん私もあなたの味方ですよ。」
そう言って、スティーナの頭をゆっくりと撫でる。
スティーナは今までそんな事をされた記憶が無かったので驚いたが、とても心地良く、胸が温かくなってイロナの体に手を回した。
「はい…!」
言っている事はあまり良く分からなかったスティーナであったが、それでも頭を撫で続けられたスティーナはとても嬉しく感じたのだった。
「さ、こちらへいらっしゃい。
まずは大切なお話をするわ。」
そう言って、スティーナの手を持って四阿の椅子に座らせたイロナは、隣に座ってスティーナの顔を覗き込んで手を握りながら話し出した。
「私達〝花姫〟は、真っ直ぐな心を持たなければなりません。邪な考えの願いは、断固として拒否しなければ成りませんよ。私達の力は、間違った使い方をすれば世界を壊しかねませんからね。」
「真っ直ぐな心…」
「スティーナなら大丈夫。あなたは心優しい子だと聞いているわ。
けれどね、これから大きくなるにつれて、様々な誘惑もある事でしょう。それに負ける事のないように。
それから、全ての人の願いは叶えられないと覚えておきましょうね。」
「はい…。」
「さ、今日の座学はこれでおしまい!
喉が渇いちゃったわね。
スティーナ、紅茶を一緒に飲みましょう。あなたの事を教えてくれる?」
そう言ったイロナは、傍に控えている使用人に目配せをして、紅茶の準備をさせたのだった。
スティーナは、花祈りのやり方や、極意を教えてもらう師であるイロナからそのような褒め言葉をいつももらっていた。褒めて伸ばす教え方なのか、怒られた事はなかった。
☆★
初めてイロナと会った日は、スティーナは胸が張り裂けそうな程にドキドキとしたものだった。
「今日から、花祈りの先生が参ります。教えていただきましょうね。」
ヤーナに言われ、中庭にと連れて来られたスティーナは顔が強張り緊張していた。
まだ七歳のスティーナには、それまで自分を訪ねて来た人は居なかったからだった。
(先生、ですって。どんな方かしら。)
それまでにはスティーナは、六歳の頃から読み書きや足し引きをヤーナから教わっていたが、花祈りの事はまだ誰からも教わってはいなかった。
花祈りの事は、花祈りをする人にしか分からない事も多くある為に、経験者から引き継がれ教わるのが常であったのだ。
そして相手の言うことが理解出来ると思われる年頃になると、初めて教わる事が出来るのだ。
「スティーナです。よろしくお願いします。」
その師は、イロナと言って年齢は五十歳に手が届くほどだった。髪は全体的に白く、長い髪を首辺りで一つにまとめ上げていた。
中庭を一望出来る、少し高台になった四阿にイロナは座っていた。スティーナに姿勢を向けたイロナに、そのように挨拶をした。
「まぁ!可愛らしいお嬢さんだ事!私はイロナと言うわ。
…いい?スティーナ。たった今から私はあなたの師であり、祖母よ。分かった?」
そう言ったイロナは、席を立ってスティーナの元まで歩み寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「スティーナ。あなたはこれから、数奇な運命を背負う事となるでしょう。辛い事も苦しい事もあるかもしれませんが、信頼出来る味方に頼りなさい。
もちろん私もあなたの味方ですよ。」
そう言って、スティーナの頭をゆっくりと撫でる。
スティーナは今までそんな事をされた記憶が無かったので驚いたが、とても心地良く、胸が温かくなってイロナの体に手を回した。
「はい…!」
言っている事はあまり良く分からなかったスティーナであったが、それでも頭を撫で続けられたスティーナはとても嬉しく感じたのだった。
「さ、こちらへいらっしゃい。
まずは大切なお話をするわ。」
そう言って、スティーナの手を持って四阿の椅子に座らせたイロナは、隣に座ってスティーナの顔を覗き込んで手を握りながら話し出した。
「私達〝花姫〟は、真っ直ぐな心を持たなければなりません。邪な考えの願いは、断固として拒否しなければ成りませんよ。私達の力は、間違った使い方をすれば世界を壊しかねませんからね。」
「真っ直ぐな心…」
「スティーナなら大丈夫。あなたは心優しい子だと聞いているわ。
けれどね、これから大きくなるにつれて、様々な誘惑もある事でしょう。それに負ける事のないように。
それから、全ての人の願いは叶えられないと覚えておきましょうね。」
「はい…。」
「さ、今日の座学はこれでおしまい!
喉が渇いちゃったわね。
スティーナ、紅茶を一緒に飲みましょう。あなたの事を教えてくれる?」
そう言ったイロナは、傍に控えている使用人に目配せをして、紅茶の準備をさせたのだった。
2
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい
今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。
父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。
そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。
しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。
”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな”
失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。
実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。
オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。
その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる