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密談 ー交流会の前にー
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「どうだ?大丈夫だろうな?」
今日呼び出した面々が席に座るとすぐ、ヘルベルトはぐるりと見渡してそう言った。
「大丈夫ってなによ、お父様。」
ボニファース=クリムシャという侯爵家長男の元に嫁ぎ、子宝にも恵まれた二女バーラは乳飲み子を腕に抱えながらそう声を返す。その上の子は男の子で、ヨチヨチと歩き回る年頃。連れて行くと大変だろうと義両親が見てくれている為助かっている。
「ルジェナがここに来ないかって事?それとも、交流会に行く事がかしら?」
ダミアンという、商家の一人息子の元へと嫁いだ長女アルビーナも、赤い髪を後ろに手で払ってからそう言葉を繋ぐ。アルビーナも二人の子宝に恵まれ、連れて来るか迷った。
だが、家族の一大事であるなら一人で向かった方が良いだろうとダミアンや義理の両親や商家に働きに来ている従業員が見てくれている。
「まぁ…そのどちらもだな。」
その声に呟くように言ったのは、この密談を開く事に決めた主催者の、ヘルベルトだ。
ここは、工房の一室。
普段であればここは、ブドウの加工をする作業場でもある。しかし、今は父から呼び出されてルジェナ以外の家族が揃っている。
三女ビェラも、ちょうど近くの街に来ていたとかで劇団の許可を得て駆けつけていた。勝手に押しかけのように入団しついて行った身で許可とはとも思うが、置いていかないでという意味で、団長や皆に伝えてから来たのだ。
屋敷ではなく工房にしたのは、ルジェナに聞かれない為。ここには、滅多にルジェナはやって来ないからだ。
「それで?お父様。手紙にはルジェナの一大事としか書かれてなかったけれど、どういう事なのです?」
アルビーナが屋敷ではなく、直接工房に来て欲しいと書かれた内容から、ルジェナに聞かれたくない話なのだとは薄々気づいてはいたが、はっきり内容が書かれていなかった為にそう口火を切った。
「うむ…それなんだがな……」
モゴモゴと口をすぼめてなかなか先を言わないヘルベルトに、バーラは焦れたように先ほどよりも少しだけ声を強める。
「何?はっきり言ってくれないと、不安になるわよ?お父様。」
「そうね、お父様。ルジェナに何かありましたのぉ?」
おっとりとしたビェラも、劇団について行って半年。その稽古は華やかな舞台とは裏腹に思いのほか凄まじく、今はまだ裏方の手伝いをするにすぎないけれどビェラは荒波にいいように揉まれたのか、妄想する癖はだいぶ落ち着いたように思われた。
「もう!みんな忙しいのよ?こうやって駆け付けてくれたけれど、悠長にはしていられないのではなくて?
三人共呼び立てでごめんなさいね。実はね、ルジェナが、交流会に行きたいって言い出したのよ。」
なかなか話を進めないヘルベルトに代わり、妻のアレンカが駆け付けてくれた娘達の顔を順に見ながら言った。
「ええ!?」
「はぁ!?」
「まぁ!!」
すると一斉に、姉妹は驚きの表情を見せる。三人共、交流会の存在は知っている。だからこそなぜ、ルジェナがそこに行きたいと言い出したのか疑問だと、聞き間違いではないのかと声を上げた。
「え?お母様、それどういう事?」
「なんで?ルジェナ、一体どうしたの?」
「そんな不埒な…」
アルビーナとバーラは学院を卒業してすぐに結婚した為、交流会に参加はしていない。しかし、その存在は学院でも話が上がる為知っていた。
ビェラは、学院に通ってはいなかったが、劇団で団員と毎日顔を突き合わせて生活する為、自然と知らなかった話をいろんな人から耳にした。ビェラは〝交流会は男女の出会いの場〟と聞いていたが、〝遊び相手を探す場所〟とも教えてもらっていたのだ。『もちろん、僕ら演者はそういう足が付きやすい所には行かないよ。商売人は商売人と遊ぶのが一番!素人と遊ぶと後々面倒な事になるからね。』なんていう団員の言葉も聞いた。
「不埒!?ビェラ、なにを言う!ルジェナはそんな…!!」
そんな慌てふためくヘルベルトを見、ふぅと大きく息を吐いてからダリミルは言った。
「父上、いい加減心を落ち着けて下さい。
毎日毎日、僕らに何かいい案は無いかと聞いてくるし。
ルジェナ姉さんにいってらっしゃい、と言ったでしょう?撤回する気ですか?姉さん、さぞがっかりするでしょうね。」
「うぐっ…!」
「まぁ!」
「そんな事言ったの?お父様。」
「出会いの場なのよねぇ?大丈夫なのですかぁ?」
ダリミルの言葉に加え、娘達の言葉が胸にグサグサと刺さり、ヘルベルトは頭を抱える。
そんなヘルベルトの代わりに、アレンカが言葉を繋いだ。
「だってせっかくルジェナが、同年代の子と交流したいと思ったのよ?そんな事今まで一度も無かったものね。だから、反対するのは無粋だと思ったの。」
「だからって…ルジェナが心配だわ!
年の割に知識が豊富だからって、男女の交流の場では何の役にも立たないわ!!」
バーラが鼻息荒くそう言うと、アルビーナも続けて言った。
「そうね…だったら交流会なとではなくてガーデンパーティーとかを開くとかはどう?」
それを聞いてすぐにバーラは頷き、同調する。
「お姉様、いいですわね!なんなら、私が開くわ!うちで販売している商品のお披露目パーティという名目はどう?」
「あらぁ?でもさっきダリミルが、お父様はもう参加していいって許可を出したと言われていたわぁ。
それで頭を抱えているのではなくてぇ?」
「あ…」
「そうだったわね」
ビェラの落ち着いた言葉に、バーラとアルビーナは顔を見合わせて渋い顔をする。
「そうなんです。父上は許可を出したけれども心配だと言うものだから、僕が交流会に参加しようかと言ったのですが、まだ早いと言われまして。」
「まぁそうね。」
「確かに既婚者の私やバーラが行くと良くない噂が立ってしまうし、ダリミルじゃぁいくら何でもまだ早いわよね。」
ダリミルの言葉に、バーラもアルビーナも、ふうとため息を吐く。
そしてこの中で一番参加出来そうなのは未婚のビェラだと思うが、行った事もない交流会という場にビェラまで行かせていいものかと誰もその事を言い出さない。
「ルジェナを助けてくれる王子様がいればいいのに!そんな出会い、素敵よねぇ…!」
ビェラの突拍子も無い言葉に一堂がビェラへと視線を向ける。
「野蛮な方と出会うのではなくて王子様と出会えれば、万事丸く収まるのでしょう?
それに、そんな事が本当に起こればとってもロマンチック…!!」
ビェラはそう言って、両手を胸の前で組み目をキラキラと輝かせる。…妄想の癖は、治りきったわけではなかった。
それを聞き、バーラとアルビーナは顔を見合わせて苦笑いをする。
「久々のビェラの妄想が始まったのね。」
「本当に。そんな王子様がいれば、ルジェナも幸せだけれど、そう簡単に王子様が現れるなんて…」
「いる!いるぞ!王子様が!!」
今まで気が抜けたようであったヘルベルトが、大きな声を出して言った。
「あなた!びっくりするわ。」
「そうですよ、父上!一体どうされたんですか!?」
「あぁ、済まん!だが、居るぞ王子様が!いや、分からんが頼んでみるとする!
ビェラ、さすがだ!良い案をありがとう。アルビーナもバーラも、ルジェナの為にありがとう。
ダリミルもアレンカも、心配掛けて済まなかった。もう大丈夫だ!」
膝を叩き、途端に笑顔でそう言ったヘルベルトに、アレンカは不思議そうに声を掛ける。
「頼むって、どなた?あなたのお友達に、お年頃の男の子なんていらして?」
「あぁ。きっと彼の息子なら素晴らしい王子様となろう!」
ヘルベルトはそう言って、不安の種は無くなったと大きな声で笑った。
それを見て、他の面々は顔を見合わせ首を傾げるのだった。
今日呼び出した面々が席に座るとすぐ、ヘルベルトはぐるりと見渡してそう言った。
「大丈夫ってなによ、お父様。」
ボニファース=クリムシャという侯爵家長男の元に嫁ぎ、子宝にも恵まれた二女バーラは乳飲み子を腕に抱えながらそう声を返す。その上の子は男の子で、ヨチヨチと歩き回る年頃。連れて行くと大変だろうと義両親が見てくれている為助かっている。
「ルジェナがここに来ないかって事?それとも、交流会に行く事がかしら?」
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だが、家族の一大事であるなら一人で向かった方が良いだろうとダミアンや義理の両親や商家に働きに来ている従業員が見てくれている。
「まぁ…そのどちらもだな。」
その声に呟くように言ったのは、この密談を開く事に決めた主催者の、ヘルベルトだ。
ここは、工房の一室。
普段であればここは、ブドウの加工をする作業場でもある。しかし、今は父から呼び出されてルジェナ以外の家族が揃っている。
三女ビェラも、ちょうど近くの街に来ていたとかで劇団の許可を得て駆けつけていた。勝手に押しかけのように入団しついて行った身で許可とはとも思うが、置いていかないでという意味で、団長や皆に伝えてから来たのだ。
屋敷ではなく工房にしたのは、ルジェナに聞かれない為。ここには、滅多にルジェナはやって来ないからだ。
「それで?お父様。手紙にはルジェナの一大事としか書かれてなかったけれど、どういう事なのです?」
アルビーナが屋敷ではなく、直接工房に来て欲しいと書かれた内容から、ルジェナに聞かれたくない話なのだとは薄々気づいてはいたが、はっきり内容が書かれていなかった為にそう口火を切った。
「うむ…それなんだがな……」
モゴモゴと口をすぼめてなかなか先を言わないヘルベルトに、バーラは焦れたように先ほどよりも少しだけ声を強める。
「何?はっきり言ってくれないと、不安になるわよ?お父様。」
「そうね、お父様。ルジェナに何かありましたのぉ?」
おっとりとしたビェラも、劇団について行って半年。その稽古は華やかな舞台とは裏腹に思いのほか凄まじく、今はまだ裏方の手伝いをするにすぎないけれどビェラは荒波にいいように揉まれたのか、妄想する癖はだいぶ落ち着いたように思われた。
「もう!みんな忙しいのよ?こうやって駆け付けてくれたけれど、悠長にはしていられないのではなくて?
三人共呼び立てでごめんなさいね。実はね、ルジェナが、交流会に行きたいって言い出したのよ。」
なかなか話を進めないヘルベルトに代わり、妻のアレンカが駆け付けてくれた娘達の顔を順に見ながら言った。
「ええ!?」
「はぁ!?」
「まぁ!!」
すると一斉に、姉妹は驚きの表情を見せる。三人共、交流会の存在は知っている。だからこそなぜ、ルジェナがそこに行きたいと言い出したのか疑問だと、聞き間違いではないのかと声を上げた。
「え?お母様、それどういう事?」
「なんで?ルジェナ、一体どうしたの?」
「そんな不埒な…」
アルビーナとバーラは学院を卒業してすぐに結婚した為、交流会に参加はしていない。しかし、その存在は学院でも話が上がる為知っていた。
ビェラは、学院に通ってはいなかったが、劇団で団員と毎日顔を突き合わせて生活する為、自然と知らなかった話をいろんな人から耳にした。ビェラは〝交流会は男女の出会いの場〟と聞いていたが、〝遊び相手を探す場所〟とも教えてもらっていたのだ。『もちろん、僕ら演者はそういう足が付きやすい所には行かないよ。商売人は商売人と遊ぶのが一番!素人と遊ぶと後々面倒な事になるからね。』なんていう団員の言葉も聞いた。
「不埒!?ビェラ、なにを言う!ルジェナはそんな…!!」
そんな慌てふためくヘルベルトを見、ふぅと大きく息を吐いてからダリミルは言った。
「父上、いい加減心を落ち着けて下さい。
毎日毎日、僕らに何かいい案は無いかと聞いてくるし。
ルジェナ姉さんにいってらっしゃい、と言ったでしょう?撤回する気ですか?姉さん、さぞがっかりするでしょうね。」
「うぐっ…!」
「まぁ!」
「そんな事言ったの?お父様。」
「出会いの場なのよねぇ?大丈夫なのですかぁ?」
ダリミルの言葉に加え、娘達の言葉が胸にグサグサと刺さり、ヘルベルトは頭を抱える。
そんなヘルベルトの代わりに、アレンカが言葉を繋いだ。
「だってせっかくルジェナが、同年代の子と交流したいと思ったのよ?そんな事今まで一度も無かったものね。だから、反対するのは無粋だと思ったの。」
「だからって…ルジェナが心配だわ!
年の割に知識が豊富だからって、男女の交流の場では何の役にも立たないわ!!」
バーラが鼻息荒くそう言うと、アルビーナも続けて言った。
「そうね…だったら交流会なとではなくてガーデンパーティーとかを開くとかはどう?」
それを聞いてすぐにバーラは頷き、同調する。
「お姉様、いいですわね!なんなら、私が開くわ!うちで販売している商品のお披露目パーティという名目はどう?」
「あらぁ?でもさっきダリミルが、お父様はもう参加していいって許可を出したと言われていたわぁ。
それで頭を抱えているのではなくてぇ?」
「あ…」
「そうだったわね」
ビェラの落ち着いた言葉に、バーラとアルビーナは顔を見合わせて渋い顔をする。
「そうなんです。父上は許可を出したけれども心配だと言うものだから、僕が交流会に参加しようかと言ったのですが、まだ早いと言われまして。」
「まぁそうね。」
「確かに既婚者の私やバーラが行くと良くない噂が立ってしまうし、ダリミルじゃぁいくら何でもまだ早いわよね。」
ダリミルの言葉に、バーラもアルビーナも、ふうとため息を吐く。
そしてこの中で一番参加出来そうなのは未婚のビェラだと思うが、行った事もない交流会という場にビェラまで行かせていいものかと誰もその事を言い出さない。
「ルジェナを助けてくれる王子様がいればいいのに!そんな出会い、素敵よねぇ…!」
ビェラの突拍子も無い言葉に一堂がビェラへと視線を向ける。
「野蛮な方と出会うのではなくて王子様と出会えれば、万事丸く収まるのでしょう?
それに、そんな事が本当に起こればとってもロマンチック…!!」
ビェラはそう言って、両手を胸の前で組み目をキラキラと輝かせる。…妄想の癖は、治りきったわけではなかった。
それを聞き、バーラとアルビーナは顔を見合わせて苦笑いをする。
「久々のビェラの妄想が始まったのね。」
「本当に。そんな王子様がいれば、ルジェナも幸せだけれど、そう簡単に王子様が現れるなんて…」
「いる!いるぞ!王子様が!!」
今まで気が抜けたようであったヘルベルトが、大きな声を出して言った。
「あなた!びっくりするわ。」
「そうですよ、父上!一体どうされたんですか!?」
「あぁ、済まん!だが、居るぞ王子様が!いや、分からんが頼んでみるとする!
ビェラ、さすがだ!良い案をありがとう。アルビーナもバーラも、ルジェナの為にありがとう。
ダリミルもアレンカも、心配掛けて済まなかった。もう大丈夫だ!」
膝を叩き、途端に笑顔でそう言ったヘルベルトに、アレンカは不思議そうに声を掛ける。
「頼むって、どなた?あなたのお友達に、お年頃の男の子なんていらして?」
「あぁ。きっと彼の息子なら素晴らしい王子様となろう!」
ヘルベルトはそう言って、不安の種は無くなったと大きな声で笑った。
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