上 下
7 / 17

7. 父に会う

しおりを挟む
 月夜会での出来事は、夢のようだった。

 月夜会は夜が深まるまで行われ、その後はたいてい王都にある宿屋や、別邸、近い人は自分の屋敷へと帰る。
私達は今朝泊まっていた宿に帰ろうと思っていた。が、何かあるといけないからと、ルドヴィーク様が高級宿に手配し直してくれたとカリツが言った。


 そして、翌日、ルドヴィーク様がその宿に迎えに来てくれた。
なんと、お父様に直接挨拶したいからと言って下さった。

 なのでうちの馬車は、空のまま一足先に帰ってもらって、それを伝えてもらう事とした。


 うちの馬車もそんなに乗り心地は悪くはなかったのだけれど、ルドヴィーク様が乗って来られた馬車は外見は質素であったのに、中にクッションが幾つもあり、とても馬車に乗っているとは思えないほど居心地がよかった。

 行きは、私とカリツで一緒に馬車に乗ってきたけれど、ルドヴィーク様と乗る事は畏れ多くて出来ないとカリツは従者が乗る席に座った。私は、むしろ一緒に乗って欲しかったのだけれど…。
だからせめて、カリツにもクッションを渡そうとしたけれど、従者用の席もそれなりにクッションが敷いてあったので大丈夫だとお断りされた。



「はぁ…やっと、エミーリエとゆっくり出来るね。やっとだ…。本当に嬉しいよ。」


 ルドヴィーク様は私の隣に座り、そう言って頭を何度も何度も撫でてくれていた。
私は、ものすごく緊張していたけれど、同時にとても懐かしく、嬉しく感じてしまった為されるがままだった。



 ソベレツ領の屋敷に着くと、お父様と、義理の弟であるダーヴィズが久し振りに帰って来ていた。いつくらいから会っていないか覚えていないくらいだ。
きっと、一足先に帰った御者が内容を執事に伝え、お父様がいる辺境の砦に伝えに行ってくれたのだろう。

 南北に長いソベレツ領の、北の国境沿いには高く真っ直ぐ伸びた壁が作られていて、砦も幾つもその壁沿いにある。好戦的なセンプテン国が、幾度となく侵入しようとしてくるから、対策としてそれらを作ったらしい。
西隣のバウツェン国へ通じる国境沿いには壁なんてないから、センプテン国に近い方はいつも緊張感漂っているのだとか。


「ルドヴィーク様、これはこれは…!十数年振りですな。」

 お父様が、ダーヴィズと共に玄関ホールで出迎えてくれた。

「キーベック辺境伯殿。いろいろと話したい事はありますが…よろしいでしょうか。」

「は、はい。よろしければ、応接室へ案内します。どうぞこちらへ。」



 応接室へ付いて、ルドヴィーク様と私が奥のソファに、お父様と義弟のダーヴィズが扉に近いソファへと座り終わると早々にお父様が話し出した。

「ルドヴィーク様、それで…話とは一体…?」

「キーベック辺境伯殿。ユスティーナ様が亡くなられて以来ですね。あなたは、ユスティーナ様が亡くなって一月もしない内に、再婚なされた。」

「え?は、はい…エミーリエが淋しいと思ったからです。まだ、母親を必要とする四歳の年齢でしたから。」

「本当にそれだけですか?…まぁ、それはこの際どうでもいい。それ以来、エミーリエが蔑ろにされていた事はご存じでしたか?まさか、キーベック辺境伯殿も一緒になって…」

「ちょ、ちょっとお待ちください!蔑ろ?いや、私がセンプテン国への対応に忙しい最中、家の事を全てヨハナに任せておりまして、エミーリエにも良くしていると…!」

 やっぱりお父様には全く伝わっていなかったのね…お父様にまで嫌われていたわけではなかっただけ、良かったと思いましょうか。けれど、もう少し気に掛けて下さると有り難かったのですけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた公爵令嬢は辺境の吸血伯に溺愛される

束原ミヤコ
恋愛
マリスフルーレ・ミュンデロットはミュンデロット公爵家の一人娘だった。 ベッドに伏せがちな母親が亡くなったのは十歳の時。 別邸に入りびたり愛人と暮らしていた父親は、マリスフルーレと同じ年の妹と、愛人を連れて帰ってきた。 その日からマリスフルーレの居場所は、失われてしまった。 家の片隅でひとりきりだったマリスフルーレは、デビュタントの日をきっかけに第二王子の婚約者となる。けれど妹のクラーラの罠にはまり婚約を破棄され醜聞に晒されることになる。 行き場をなくしたマリスフルーレを貰うと求婚してきたのは、敵兵の血を飲むと噂され、吸血伯という二つ名がついているルカ・ゼスティア辺境伯だった。 虐げられた少女が残虐性を内に秘めた義兄に囚われる話です。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。 そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。 しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。 また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。 一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。 ※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される

やまぐちこはる
恋愛
 伯爵家の二人目の後妻の息子ビュワードは、先妻の息子で嫡男のトリードに何かにつけ虐められている。  実の母ヌーラはビュワード出産とともに鬼籍に入り、ビュワードもトリードとも血の繋がりのない3人目の後妻アニタは、伯爵に似た容姿の人懐こい嫡男トリードを可愛がり、先妻に似たビュワードを冷遇している。  家庭教師からはビュワードがとても優秀、心根も良いと見做されていたが、学院に入学してからはトリードとアニタの策略により、ビュワードは傲慢でいつも屋敷で使用人たちを虐めており、またトリードのテキストやノートを奪うためにトリードはなかなか勉強に専念できずに困っていると噂を流され、とんでもない性悪と呼ばれるようになっていた。  試験の成績がよくてもカンニングや兄の勉強の成果を横取りしていると見做されて、教師たちにも認めてもらうことができず、いくら訴えても誰の耳にも届かない。屋敷の使用人たちからも目を背けられ、その服は裾がほつれ、姿は汚れていた。  最低のヤツと後ろ指を指され、俯いて歩くようになったビュワードは、ある日他の学院で問題を起こして転入してきたゴールディア・ミリタス侯爵令嬢とぶつかってしまう。  ゴールディアは前の学院を虐めで退学させられた、所謂悪役令嬢であった。 ∈∈∈∈∈∈∈ 設定上こどもの虐待シーンがあります。直接的な表現はなるべく避けていますが、苦手な方はご注意ください。 ※設定は緩いです。 ※暫くお返事ができないため、コメント欄を閉じています。 ※全60話を一日一話、朝8時更新予定です。見直しで話数が前後するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

処理中です...