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30. 二人の時間

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 少し紅茶を飲んだ後、ウィンフォードがレナへ屋敷の者達を紹介し、部屋へと案内した。
タウンハウスとは言っても公爵家所有であるから部屋数が多く、この屋敷は庭が特に広かった。


 レナの宛がわれた部屋は客間で、落ち着いた雰囲気で王宮の部屋とは違ってこじんまりとしていたからレナはそれがとても気に入った。


 今は、レナの部屋のソファに座り、ウィンフォードと話している。

「俺の部屋の隣にしたかったんだけど、一応まだ夫婦ではないからダメだと言われたよ。でも、これで一緒の時間が取り易くなる。食事も、時間が取れる時は一緒にしよう。」

「まぁ!でも、一緒の時間が過ごせるのは嬉しいです。ウィンフォード様の事を知れますし。」

「あぁ、早く結婚したい!あ、伝え忘れる所だったよ、午後から両親がレナに会いたくてカントリーハウスに引き籠もってたくせに来るから。」

「え!」

(ご両親なんて!緊張する…大丈夫かな、反対されたりしないかな。あ、それに私が顔を見せに行かなくて良かったのかなぁ?)

「大丈夫だよ、俺が愛する人が出来たと言ったら、やっと結婚してくれる!って喜んでいて、いつになったら会わせてくれるとやきもきしてたし、レナがオーリスやリプリーを綺麗にしたと知っているから、お礼も言いたいといっていてね。」

「私は、自分のしたい事動物の手入れをしただけで…。」

「レナ…!あぁ、本当に君は…!!可愛過ぎる!自分のした事をおごり高ぶらない所が、本当に素晴らしい。私の自慢の愛する人だよ。」

「もう!ウィンフォード様ったら!」


 レナはすぐにウィンフォードの言葉攻めに顔を赤らめてしまい、未だに慣れない。
 けれど周りの使用人達は、ウィンフォードは普段の仕事では決して見せない優しい表情をしていて、グリフィス公爵家の嫡男が、やっと身を固めてくれるのだと微笑ましく見ていた。


「ウィンフォード様、レナ様、そろそろ昼食にされた方が…。」

 いつまでも終わらない二人の時間に、サーザが見かねて声を掛ける。公爵夫妻が来る為、それまでにお仕度もあるから早めにして欲しいからだ。

「そうだったね。レナ、今日はどうする?庭で食べるかい?」





☆★

 屋敷の談話室と応接室からも外に出られるようになっていて、そこから庭へと歩いて行く。手前には花が咲き乱れ、レンガ造りの小道を進むと四阿があった。


 小道では、ネコが日なたぼっこしているのか、寝ころんでいて、人に慣れているようで二人が通っても耳をピクピクと動かすだけだった。


 そこで、軽く食事をしながらウィンフォードは話し出した。

「ここによく、イヌやネコが訪れるんだ。どこからかリスなんかも走って来たりするね。ここは塀もしっかりとした造りで外からは中の様子が見えないように幾重にも生け垣や木を植えていてね。だから、間近に動物がいるからか屋敷の者達も動物好きが多い。料理人達はよく、残飯を与えているみたいだ。それで、朝や夜、餌をやらない俺にまで足に纏わり付いてくるんだよ。可愛いのはいいんだが、食事をしている時なんか靴の上に寝そべったり、枕にされたりしているよ。」

「あ、それで靴磨きをよくされていたのですか?」

「そうだね。あの時は地方へ馬車に乗って出掛けるのが続いた時だったな。でもそれでレナに会えた。レナの透き通るような声に導かれるようにそちらを向いたら目を惹くレナがいたんだ。もうあれは運命の出会いだな。」

「もう!何度も言わないで!」

 レナは、恥ずかしくてウィンフォードとは反対の方を向く。

「ダメか?レナの事が好きだから、想いは言わないと伝わらないと思ったからね。いや、姉上を見て反面教師ってわけだよ。ここだけの話だけどね、姉上は気になる言葉は止められないのに、肝心の言葉は言わないんだ。愛しているとか、淋しいとかね。だから元夫にも愛想を尽かされたんだと思う。」

「そうなんですか?アルバータ様は、ツンデレなのね。そこも可愛らしいですのに。」

「ん?つんでれ?いや、姉上は本当に面倒…いやいや、まぁなんというか…でも、レナがオーリスの手入れをして救ってくれたおかげで、姉上もあれでかなり丸くなったんだ。使用人達も手をこまねいていたから、君はオーリスだけではなく姉上や使用人まで救ってくれたんだよ。もちろん、ブライズも、それに俺もね!」

「ウィンフォード様ったら…買いかぶり過ぎよ!」


 だんだんとレナも、ウィンフォードに心を開き、二人で話す時の緊張も解れていく。

 二人の仲は、日に日に深まっていった。
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