上 下
26 / 32

26. 気持ちに応えたあとは

しおりを挟む
 あれから少ししてウィンフォードが声を出し、ゆっくりとレナの体を引き離した。

「はぁ…。ずっとこうしていたいけれど、そろそろかな。サーザ!」

「はい。」

「レナを連れて行ってくれ。俺はもう少しやる事がある。」

「ウィンフォード様…。」

「あぁ、レナ。勘違いしないでくれよ、今からでも一緒に連れ帰りたいくらいなんだからね。だけど、手順を踏まないといけないから。ゆっくりおやすみ。」

 サーザが扉を開け、まだ夢見心地のレナを連れて部屋へと戻った。



☆★

「レナ様、ウィンフォード様のお気持ちに応えて下さってありがとうございます。」


 部屋に戻ったレナへと、サーザは言葉を掛ける。

「え…?」

「ウィンフォード様は公爵家の嫡男として、また国の政を動かす要人として日々忙しくしておりました。二十五歳になるのにまだ婚約者もおりませんでした。それが、共に歩みたいと想う方を見つけられ、無事に気持ちを伝えられて、しかも了承していただけるなんて…!」

 レナは、話を聞かれていたのかと酷く恥ずかしくなり、顔を真っ赤にさせた。

「あ、勘違いなさらないで下さいね。部屋に入った時のウィンフォード様の顔を見て、最後の仰ったお言葉を聞いてそう思ったまでですよ。」

 とサーザは釈明する。

「ウィンフォード様は、もしも想いが儚く散ってしまった時でも私をレナ様付きとして生涯お守りするようにと言われておりましたのです。もし想いが通い合えばそのまま私もグリフィス家へと戻れますし。そういう点で、ウィンフォード様はレナ様の事を想い、考えられていたのですよ。」

 レナの侍女が王宮に仕えている者が配置されたのであったなら、ウィンフォードと結婚となれば当然、レナからは離れてしまう。レナが王宮から出て行くからだ。
ウィンフォードとしたら、傍にいる侍女がころころと代わる事はレナが淋しく思うだろうと考えたのだ。
それならいっその事自分の手のうちにいる侍女を付ければ、レナの事が知れるしレナも侍女が変わらない方が良いだろうとの配慮だったのだ。
 もちろん、レナが断ってくる事も考えていた。断られたら何度も想いを伝え、いつか振り向いてもらおうと思っていたのだ。

「そう…。」

(ウィンフォード様って、本当いろいろと考えてくれているのね。)


 レナはその日、ウィンフォードの事を考え、なかなか眠る事が出来なかった。





☆★

 翌日。

 いつもより眠いと目をこすりながらも朝食を終えたレナに、

「さぁ今からお仕度をしましょう。」

 とサーザが言った。

「え?今日の予定は?いつもは食べても着がえないわよね?」

 と、レナは疑問をぶつける。

「はい、ウィンフォード様がお休みをもらえたそうで、お出掛けのお誘いがありました。よろしいですか?」

「そうなの!?ええ、お願いするわ。」

(また会えるのね。貴重なお休みなのにいいのかな?でも嬉しい!)

 レナは、顔を綻ばせてサーザが向かったウォークインクローゼットについて行った。




☆★

「入っていいか?」

 着替えが終わってすぐに、扉を叩く音とウィンフォードの声が聞こえた。

(来たわ!)

 レナはワクワクしながら出迎えた。

「レナ…素敵だよ、珍しい黒い髪が引き立つようだよ。」

 ウィンフォードはレナの姿を見て、褒めたたえた。いつも言いたくても言えなかった言葉を、気持ちが通じ合ったからこれからたくさん言おうと思っているのだ。
 レナはそうやって言われるのに慣れていない為、顔を赤くして俯いてしまった。

「あ、ありがとうございます…。ウィンフォード様も素敵です。いつもですけど。」

「な…!」

 レナは俯いたままで言ったので、ウィンフォードがどんな表情をしているかなんて見えなかった。だが、そう言わたウィンフォードもまた、顔を赤くし、それを悟られないように顔を逸らした。

「じゃ、じゃあ行こう。」

 そう言って、ウィンフォードはレナの手を繋いだ。
 お互いに顔は真っ赤なままだった。

「いってらっしゃいませ。」

 サーザはそんな二人を微笑ましいと思いながら見送った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

処刑される未来をなんとか回避したい公爵令嬢と、その公爵令嬢を絶対に処刑したい男爵令嬢のお話

真理亜
恋愛
公爵令嬢のイライザには夢という形で未来を予知する能力があった。その夢の中でイライザは冤罪を着せられ処刑されてしまう。そんな未来を絶対に回避したいイライザは、予知能力を使って未来を変えようと奮闘する。それに対して、男爵令嬢であるエミリアは絶対にイライザを処刑しようと画策する。実は彼女にも譲れない理由があって...

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

婚約解消と婚約破棄から始まって~義兄候補が婚約者に?!~

琴葉悠
恋愛
 ディラック伯爵家の令嬢アイリーンは、ある日父から婚約が相手の不義理で解消になったと告げられる。  婚約者の行動からなんとなく理解していたアイリーンはそれに納得する。  アイリーンは、婚約解消を聞きつけた友人から夜会に誘われ参加すると、義兄となるはずだったウィルコックス侯爵家の嫡男レックスが、婚約者に対し不倫が原因の婚約破棄を言い渡している場面に出くわす。  そして夜会から数日後、アイリーンは父からレックスが新しい婚約者になったと告げられる──

地味すぎる私は妹に婚約者を取られましたが、穏やかに過ごせるのでむしろ好都合でした

茜カナコ
恋愛
地味な令嬢が婚約破棄されたけれど、自分に合う男性と恋に落ちて幸せになる話。

【完結】研究一筋令嬢の朝

彩華(あやはな)
恋愛
研究二徹夜明けすぐに出席した、王立学園高等科、研究科卒業式後のダンスパーティ。そこで、婚約者である第二王子に呼び出された私こと、アイリ・マクアリス。婚約破棄?!いじめ?隣の女性は誰?なんでキラキラの室長までもが来るの?・・・もう、どうでもいい!!私は早く帰って寝たいの、寝たいのよ!!室長、後は任せます!! ☆初投稿になります。よろしくお願いします。三人目線の三部作になります。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします

水都 ミナト
恋愛
 伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。  事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。  かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。  そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。  クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが… ★全7話★ ※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

処理中です...