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23. ネコの毛色

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 その日の午後。
サーザから教養を教わって一段落し、紅茶を入れてもらって休憩をしていると、部屋の扉を叩かれた。

「私、動物の理髪師さんに用があって来たのよ。開けていただけます?」

 と、扉の向こうから可愛らしい子供の声がした。

「?はい、どうぞ。」

(また誰かが言いに来たのかな。苦言じゃないといいけど。)

 と、レナはそう思いながら扉を見つめた。


 入ってきたのは、金髪を背中まで伸ばしたお人形のような目がくりくりとした女の子だった。

「失礼致します。」

 レナがサーザに教わったばかりの〝淑女の礼〟をその彼女は完璧にすると、レナがいるソファまでトコトコと入ってきた。

 レナは一度立ち上がり、ソファへとその美少女を促した。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 そう言って座ると、レナも隣に腰掛けた。

「あの!あなたが、リプリーを洗ってくれたのかしら?」

(リプリー?また、ネコかイヌかなぁ?)

 とレナは思いながらもそれに答える。

「ごめんなさい。名前を言われてもどの子か私には区別がつかなくて。でも、ネコかイヌだったら、そうかもしれないわ。」

 と、申し訳なさそうに言うと、その美少女は花が咲くように笑って、

「やっぱりそうだったのね!ありがとう!リプリーはね、小さな頃は真っ白なネコだったのよ!でもね、大きくなるといつの間にか茶色になってたの。仕方ないけど残念だと思ったのよね。でも可愛いから、うちに来る時はとびっきりのご飯を用意させてたのよ。そしたら、この前、リプリーが小さな頃に戻っように真っ白になってうちに遊びに来たでしょう?もう、嬉しくって!!」

 と、さも嬉しそうに飛び跳ねんばかりの姿勢で美少女は話し掛けている。

 レナは、

(真っ白なネコ…あぁ、きっとあの見た目に反して声がだみ声の子ね。それにしても、なんて返事をしようかしら。サーザから、初対面でお会いした時の作法を学んだのだけど、どうすればいいのかしら。)

 と、困り顔で、うんうんと頷いて見せる。

 それを傍で見ていたサーザは、

「ブライズ様。初対面の方にお会いされましたらまずは自己紹介からでございますよ。」

 と、声を掛ける。
 ブライズと呼ばれた、その美少女はハッとして背筋を伸ばして座り直し、

「ごめんなさい…。私、ブライズ=グリフィスと申します。この度は、リプリーを綺麗にして下さった動物の理髪師さんにお礼を申し上げたくて参りましたの。」

 と言われた。
 レナはホッとして、サーザに視線を向けて頭を少しだけ下げると、ブライズに向かって自身も自己紹介をする。

「私はレナ=オオハシと申します。ご丁寧にもご足労頂きましてありがとうございます。」

「どう?サーザ。私にだってもう、これ位は出来るのよ!お姉さまは出戻って来てしまったのだもの。私がグリフィス家の更なる繁栄の為に素晴らしいご縁を繋ぐのよ!」

 お互いの挨拶を終えると、顎を上げて得意そうにブライズはサーザへと言葉を投げかける。

(なるほど…ブライズ様も、アルバータ様の妹なのね。って、なぜ姉妹揃って私に会いに来るの?ウィンフォード様のご家族は動物が好きなのね。だから私にも、きっと優しくしてくれたのね。)

 と、レナは思った。
でも、レナはこれだけはしっかりと伝えとこうと思い、ブライズに言葉を発する。

「ブライズ様。リプリー様は、茶色になったのでは無くて、土などの汚れです。ですから傍に置くのでしたら、洗ってあげないといけませんよ。」

「まぁ!そうだったの?土!?可愛くて、一緒に寝ていたのだけど、だからシーツがいつも汚れるのね。」

(あんな土や泥で汚れて、真っ白でフワフワな毛がゴワゴワの茶色い毛になった子を同じベッドで!?)

「いけませんよ!ブライズ様がご病気になってしまいます!ネコの細い毛には、ホコリや細菌などがくっつきやすいのです。もし、あの綺麗な毛並みの子を傍に置くのでしたら、綺麗にしてあげて室内飼いにする方がいいですよ。もしくは、ベッドで一緒に寝るのは止めた方が良いですね。」

(確かにネコちゃんやワンコと一緒に寝るのって至福なのよ!分かるわ!でもここの衛生環境は、一緒に寝るのはちょっと良くないわ!)

「え…だから私、よく咳をしたり鼻が詰まったりするのかしら。」

(…それって、ネコアレルギーじゃないわよね!?)

「分かりませんが、その可能性はありますよ。ですので、気をつけて下さい。可愛いのは分かりますが、ネコにもイヌにも意思はあるのですよ。玩具では無いのですからね。」

「そう…そうね。おままごと相手にするといつも居なくなっていたのは、嫌だったのかしら。」

(…おままごと相手にされてたのね。あの子も大変だったのね。)

「そうかもしれませんね。でもそれでもまた、ブライズ様に会いに来るですから、ブライズ様がお好きなのですね。」

「まぁ!そうよね!嫌だったら来ないものね!ありがとう、レナお姉さま!では、私そろそろ帰ります、ごきげんよう!」

 レナが言った、心温まる言葉を聞いたブライズは、嬉しそうに微笑んでスキップをしながら帰って行った。

(お、お姉さま!?)

 レナはというと、驚いていた。



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