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22. 帽子を被った人

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 次の日。

 朝、レナが目が覚めるとまだサーザは起こしに来ない為、体を起こしカーテンを少し開けた。
太陽の光が少し入ってきて、レナは眩しそうに目を細め、それから目を開けると、視界の隅で動く人影を見つけた。

 下に見える庭の、生け垣の向こうでしゃがみ込み、帽子を被った人が何かをやっている。

(あれ?あの帽子…見たことあるような……あ!あの時の!)

 レナが、アモリーと馬車に乗った時に、一緒に乗っていた男性もあのような帽子を被っていた。つばが長めのハンチング帽だ。

 ガサガサと生け垣の辺りを屈み込んで動いていると思ったら、少しして何かが走り去った。

(ネコ?)

 その帽子を被った男性は立ち上がり、何だかとても悔しそうに地団駄を踏んでいる。

(分かりやすい…きっと逃げられて残念がっているのね。そういえば、バリウェリーに行った時にも野良を愛でるって言っていたもの。本当にあの人も好きなんだ。でも、このスウォンヒル国の決まり事で無闇に触れ合うのはダメだとあるから、ああやってこっそり触れ合っているのかな。あ、手に持っているのは…おやつ?)

 帽子を被った男性が何を持っているのかまでは見えなかったが、朝の人が少ない時間にきっとおやつを持って行って食べさせ、愛でているのかとレナは想像した。

 と、部屋の扉を叩く音がし、サーザが入ってきた。

「おはようございます。お早いですね。」

 そう言ってウォークインクローゼットへと入っていき、今日着る服を持ってきた。
 初日にレナは、サーザに身支度をと言われた時に、『サーザのお薦めを持ってきて。たくさんあるから迷ってしまうから。』と伝えたのだ。自分で出来る、と言ったが、『いえ、私の仕事ですのでやらせて下さいませ。』とサーザに言われたし、意外と一人では着にくいものばかりだったので仕方なくお願いする事にしたのだ。

 ウォークインクローゼットには、様々な物が入っていて全て使っていいと言われている。ドレスやワンピースなど、レナが今まであまり着ていない格好の物が多く、自分では良く分からないからだった。


「そういえば、私の仕事って、どうすればいいの?」

 身支度を終え、朝食の準備をサーザがしてくれている時にレナは聞いた。

「まだ準備があるそうで、申し訳ありませんがすぐには出来ないそうです。でも、準備が出来ましたら、その時はすぐにお伝え致しますね。」

「そう。それまでは、こんなダラダラと過ごしていいの?」

「レナ様はダラダラとなんて過ごしておりませんよ。朝もきちんと早起きされますし、夜だって早く寝られます。貴族のお嬢様方は太陽が真上にくる頃にようやく起きる人だっているのですよ。それにレナ様はまだこの国に慣れていないのですから、ゆっくりでいいのですよ、先は長いですからね。」

「そう…そうね。」

「あぁ、ウィンフォード様より伝言です。『昨日は姉が突撃して済まなかった。でも姉を元気にしてくれて本当に感謝している。』だそうですよ。本当でしたら、こちらへご自分の口から言いたかったそうですが、忙しくて来られなかったそうです。」

「そうなの?わざわざそんな…」

「あ、それから『あきびと商会のアスガーにもちゃんと伝えといた。残念がっていたが、気に病まない様に。レナにはレナの好きな事が出来るように手配をしているから、済まないがもう少し待って欲しい』との事です。」

 サーザは、ウィンフォードの声を真似て言うのでレナはフフフフと笑いながら聞いていた。

「申し訳ないわ。わざわざ…でも嬉しい。」

「レナ様、もし良ければ、レナ様がウィンフォード様の仕事部屋に行かれますか?それなら会えますよ。直接お礼を申し上げたら、ウィンフォード様も喜びます。」

「ウィンフォード様が喜ぶ事はないと思うけれど、私が行って、仕事の邪魔にならないの?」

「とんでもない!むしろ、休ませないと体が持ちませんから。陛下も、仕事が出来るからとウィンフォード様に頼り過ぎなのですよ!あ、ここだけの話ですよ?」

 時折サーザは、こうして楽しくレナへと会話をするのだった。

「では、夕食の後にでも、ウィンフォード様の元へ行けるように手配しておきますね。」

「ありがとう、よろしくね。」

 レナは、

(ウィンフォード様にまた会えるなんて!なんだか嬉しいわ!気も遣ってくれて優しいし。ま、仕事だからなのでしょうけどね。)

 と、少しだけ会えるのを嬉しく思った。



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