上 下
12 / 32

12. やっぱり癒される

しおりを挟む
 二時間ほどしてエイダさんの仕事が終わり、食堂へ寄ってからレナが使っていいと言われた店舗へエイダとレナは向かった。

 エイダは今までは、質素な生活をしていたのだそうだ。でも、レナが客寄せをしているから儲けが格段に増えたと言って、少し贅沢だけど栄養も摂らないとねと言って店舗の隣の食堂で食べるのだった。


 営業している店は、扉を開け放しておくようで近隣の営業している店は皆、入り口扉が空いていた。なので、レナもそれに倣って扉を開け放った。

 と、先ほどの毛の塊のようなイヌが店の中に入って来た。

「おやまぁ!食堂でもたまにネコが入ってきたりもしたけれど、どうやって追い返せばいいんだろうね。シッシッ!」

「あ、待って!」

 エイダが善かれと思って追い払おうとすると、レナはそれを止めて入って来たイヌを抱きかかえた。

「レナ!?」

 レナがいきなり抱きかかえたのでエイダは慌てて驚いている。が、レナはと言うと、

「エイダさん、扉閉めてもらっていいですか?あ、もし関わりたくなければ、その…すみませんがお出掛けしてもらっていても。」

 と、エイダへと冷静に声を掛ける。
エイダが、初日に言っていた〝動物とはあまり関わらない〟というのを守らない事になってしまうので、エイダに迷惑は掛けられないと思ってそう言ったのだ。

「なに言ってんだよ!んもう!あれだけ言ったのに仕方ないねぇ!!で?私は何か手伝うかい?」

 しかしそう言われたエイダは、若干怒りつつもしっかりと扉は閉め、レナに寄り添おうとしてくれる。
あれだけ忠告をしたのに動物と関わりを持ってしまうレナを心配しているのだ。

「え?…すみません、ありがとうございます。でも、引っ掻いたりするといけないので、離れていて下さいね。」

 そうレナはエイダへと声を掛けると、今度は抱き上げたままのイヌへと声を掛ける。

「なんでここに入って来たの?私がカットするって分かったのかな?でもまずは綺麗にしてあげるからね。」

(こんな泥や薄汚れたままだと、衛生的にも良くないと思うわ。だって、さっきもエイダさんが言ってた。店に入ってくる野良もいるって。)

 そうレナは思い、洗面台へと連れて行く。中が深いので、洗面台へと入れてもそのイヌはすっぽり入ってしまうので、動物を洗うには少し低いが逃げなくてちょうど良いと思った。
 水も、アイビーが、昨日のうちに出せるようにしてくれていたのだ。

(あ!でも水じゃあさすがに冷たいわよね…。)

「エイダさん!」

「なんだい?」

「お湯が欲しいんですけど…ここでは沸かせられませんか?」

「んー、ここはかまどもないし。あ!じゃあ隣の食堂でお湯を沸かしてもらってくるよ!どのくらいいるんだい?」

「え!?え、えーと…鍋一つ分?」

(隣の食堂で!?でも、いいのかな?確かに有難いけど…。ちょっとその辺りも考えないとね。)

 水道は通っているが、ガスはないのでエイダも毎回、湯を沸かすのに火打ち石で擦っているのだ。

(それに…シャンプーなんてないし。)

 使い古しの固形石鹸が置きっぱしてあったので、とりあえずはこれで洗ってみようとレナは思う。が、果たして上手くいくのだろうか。

「くうん…」

「あ、ごめんね、不安だよね。そうそう、毛をまず梳かすからね。ちょっと良い子にしててね!」

 そう言ってレナは引き出しを覗き櫛と、ハサミを取り出す。

(人に使う用と、動物用と分けないとね。)

 ここのものは好きに使っていいと言われ、壊れても請求なんてしないとまで言われているので存分に使わせてもらおうと思って、イヌの元へと戻り毛を梳かそうとして手を止める。

(これは…毛玉になっているのは可哀想だけど先に切ってからね。)

 そう思いレナは手入れをしていく。その際も、そのイヌは暴れる事もなくとても気持ち良さそうにしていた。

「いい子ね、いい子いい子!」

 レナはそう声を掛けながら、優しく手入れをしていった。

(はぁ…これよ、これ!可愛いなぁ…!癒されるわ。野良でも人に撫でてもらいたい子もいるよね。この子はきっとそうなのね。フワフワになるといいなぁ!)


「もらってきたよ!」

 ややもすると、エイダが入って来た。鍋を持ったエイダに、扉を開けた隣の女将さんまでも中に入ってきて言った。

「あんた!本当に綺麗にするのかい?」

 隣の食堂の女将さんが、腰に手をあてながらレナに聞いた。

「ええ。衛生的にも良くないと思いまして。」

「なるほどねぇ…よし、決めた!湯が欲しい時はうちに言いな!たんと沸かしてやるよ!うちにもよく店に入ってくる野良がいるんだよ。可愛い子達だけど、でもなんとなく手を出しづらくてねぇ。残飯をこっそりと裏手に置いとくので精一杯さ!あんたのその心意気に、陰ながら応援するよ!」

 そう言って、お代わり欲しかったらまたおいで!とまた言いながら扉に向かう。

「ありがとうございます!」

 レナは、気持ち大きな声を出して言うと、食堂の女将は振り返り手を振って出て行った。

「よかったね、レナ!支援者が出来て。お礼は、今度髪切ってやってくれるかい?さっき言われちゃってね。」

「はい!」

 心強い味方が出来たと思いながら、その湯を洗面台にあったコップに分けて水を足したりしてちょうどいい温度にし、手順を進めていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

処理中です...