上 下
6 / 32

6. 次の日は王宮の前で

しおりを挟む
 翌日も、エイダは靴磨きをしに行くというのでレナは一緒について来た。


 今日は、政を行ったり王族が住む建物があるという王宮の近くまで足を伸ばすとエイダは言った。
 ここまで来るのにかなり歩いたので、レナはハァハァと肩で息をしていた。荷物も途中まで持っていたからだ。

「ハハハハ!レナにはちょっと遠かったかな、ごめんね。ここなら、昨日よりも儲かるかと思ってね。ハサミを買ってレナが仕事に就けるかはわからないけれど、とにかくお金は貯めれるに越した事はないからね!」

 エイダは、全く疲れた素振りも見せずにレナへとそう言って、人の往来の邪魔にならない場所をと探し、エイダは王宮の門が見える向かい側に腰を下ろし荷物を広げ出した。


 昨日靴磨きをした場所よりも二十分ほど歩くとあるそこは、王宮を囲む城壁がそびえ立っていた。
その城壁に沿って左右に道も広くなっており、遥か彼方にまた門があり、そこからも街の外へと出られるようだった。


 エイダの家からこの街に入ってきた南門から真っ直ぐ進んだ中央に、またえらく仰々しい門があり、門番が左右に二人ずつ立っていた。
門のすぐ内側には関所みたいなものがあり、そこで受付をして中に入って行く人や追い返されたりする人がいる。

(王宮に来ても、絶対に入れるわけじゃないのね。)

 レナは、肩をがっくりと落として王宮に入れず帰って行く人を見て思った。


「さぁ、レナもよろしく頼むよ!」

「はい!」

 エイダにそう声を掛けられ、王宮へと入る門から視線を外し、人の往来を見る。
 昨日いた馬車乗り場よりもたくさん人は行き来しているけれど、王宮へ用事がある人は急いでいるのかこちらへと見向きもせずに門へと入っていってしまう。
誰に声掛けすればいいかと迷ったが、こうなったらと思い切って声を張り上げた。

「王宮に入る前に、靴磨きしていきませんか?時間は掛かりませんよ!綺麗な身なりにすぐになれますよー!」

 そうレナが声を掛けると、チラチラ見ていく人が何人かいる。

(もうひと声かな?)

「どうぞー!ものの五分ですよ。まさに職人技ですよー!」

「お嬢さん、本当にそんな短い時間で綺麗に仕上がるのかい?」

 鞄を手にした男性が、レナへと声を掛ける。

「はい!今から王宮に入るなら余計、やっていくといいと思います!どうぞ!」

 そう言ってレナは、エイダの前へと男性を促すと、その男性もその気になったようで、

「そんな短い時間で出来るのか心配だが、じゃあお願いするよ。」

 と言って足を台に乗せる。

「はい。では失礼しますよ。」

 エイダも素早く左右の靴を磨き上げると、客の男性は驚くように声を上げた。

「もう終わったのか!?しかも靴が光っとるわ!!まさに職人技だな!ありがとうよ!」

 そして、気前よく代金を支払っていった。
 それを皮切りに、

「私もお願いしよう。」
「わしもお願いするよ。」
「お願いします。」

 と、どんどんと列を成していく。しかしエイダも、ものの五分ほどで磨き上げるものだから、じきにその列も捌けていった。


「ふぅ…レナ、あんたすごいよ。ありがとうね。まだお昼にもなっていないのに、昨日一日分よりも稼げたよ。ちょっと早いが休憩にしようか。」

 エイダもひっきりなしに靴を磨いたから疲れたのだろう。汗をひと拭いすると、荷物から水の入った瓶とコップを取り出してレナにも分けた。

「レナ、本当すごいよ。珍しい容姿をしているからか目を惹くからかね。」

 エイダはそう言ってから、コップに注いだ水を飲んでからレナへと声を掛けた。

 確かに皆、歩いている人は茶色や赤い髪、王宮へと入って行く人は金髪やそれに近い髪色で黒い髪の人はいないし、見た目はみなヨーロッパ系の外国人のようだとレナは思った。

(私みたいな見た目の人はいないのかなぁ。)

 とレナがそう思っていると、エイダが水の入った瓶とコップをしまって言った。

「今日はもう終わろうか。それで、ハサミを見に行くかい?」

「え?でも…」

(確かに、今日は昨日よりもすごい行列が出来たけれど、終わってしまっていいの?)

「店に行ってすぐに購入出来るわけではないけれどね。値段が幾ら位かわからないからね。」

 エイダはそう言うと荷物を素早く纏めて手に持った。
どちらにしても、昼休憩になったら暫くここ辺りの人通りも少なくなるだろうとのエイダとの見立てだ。
そこでずっといるよりも、客足が減った今、レナに目標を持たせる為に金額を見ようとハサミの値段を見に行くのがいいと思ったのだ。

(どのくらいの金額かなぁ?あまり高すぎないといいなぁ。)

 レナはそう思いながら、エイダの後を追って歩みを進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...