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11. 小さな集落

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「ここを野営地としよう。」

 そう言ってまた、開けた場所に素早く手分けして野営地を作ってくれる。私とインサはまた、敷物の上に座らせてもらった。

「ねぇインサ。〝エルヴィーラ様〟は、馬を自在に操っていたのよね?」

 私は、インサと二人きりなのでまた〝エルヴィーラ様〟の情報を得る為に話しかける。

「はい、そうですね。幼い頃より乗っておりましたから。」

「そうなのね。先ほど、ルドから明日、この先の渓谷の場所で駆歩になるかもしれないと言われたの。〝エルヴィーラ様〟も、駆歩で駆け回っていたという事なの?」

「そうですか…明日駆歩を…。確かにそうですね。よく、警備隊の者達から『馬で走らせたらエルヴィーラ様の右に出る者はいない』と言われていましたよ。だからでしょうね。も、警備隊が逃げられたと言っておりましたし。」

 そうだったわね。鎧を着た体格の良い厳つい男性達がそう言っていた。
 …皇帝から、馬で出掛けようなどと言われたらどうしよう!?咄嗟にインサが落馬したと設定を作ってくれて本当に良かったのかもしれないわ。言い訳が出来るものね。…言い訳になるわよね?

「それにしても、どうして駆歩を?急いでらっしゃるのですか?」

「ヘルムグマが出るそうよ」
「えっ!」

 インサが少し大きめの声で驚いているので、私の方がびっくりしたので聞いてみる。

「ど、どうしたの?」

「ヘルムグマですか…それは厄介ですね。とても大きいと聞いています。デューレンケルンでも野生動物は出ますが、ヘルムグマはおりません。けれども、獰猛だと聞き及んでおります。」

「そうなの…。でもルドは体が大きいから動きが鈍いと言っていたわ。だから、馬のが速いのですって。」

「そうでしたか。では私も心しておきます。」

「駆歩って、やっぱり速い?」

「それはそうですね。私も侍女ではありますがあのような土地柄ですから、馬は乗れますし、経験があります。風を切って走るのは気持ち良いですけれど、振り落とされないよう気を付けて下さいね。」

 確かに。
ここの馬は足が長いし、景色もいいものね。気持ち良いのね。よし、そう思えばきっと楽しめるはずね!

 そうインサと話していると、準備が出来たようで、ルドが呼びに来てくれる。

「終わったので来て下さい。長老が挨拶されたいようですよ。」

 呼ばれた先は、火が焚かれた簡易かまどを囲んで敷物が引いてあるところだった。
そこに、白い髪をした腕の筋肉がムキムキとしたお爺さんが座っていて、この集落の長老だと紹介される。

 そして、集落の人達も一緒にどうやら宴を開いてくれるそうだ。
 何だか、家が今にも風が吹けば崩れて飛びそうな建物で、言ってはいけないかもしれないが家も直せないような貧しそうな人達に宴を開いてもらうってとても申し訳ないのだけど…。

 と、思っていたけれど。

 意外にも、様々な種類の川魚、色とりどりの花で飾り付けられた山菜、パン、果物など、この近辺で採れた食べ物をたくさん提供してくれた。そして、集落の人達は意外にも屈強な体つきの人も多くて。
私の隣に座ったルドが教えてくれた。

「ここの集落は、一見今にもすぐに陥落しそうな場所でしょう?でも、実は屈強な砦なんですよ。」

「砦?」

「そう。彼ら集落の人達は、皆体つきがいいでしょう?元は軍人や、その家族なんです。ここにもし、悪い輩が来たとしても家屋を見てきっと廃れた村だと油断しているでしょうし、彼らは強いので一瞬で相手が降参してしまいますよ。まぁ、ここはドルトムンボン国側ですし、デューレンケルンの人達もこちらへ攻め入ろうなんてされてなかったので、彼らは良い意味で役目を果たしていないですけれどね。」

 なるほど…だからあんな、風が吹いたら飛んでいきそうな家の見た目だったのね。私も失礼ながら、騙されてしまったわ。

「まぁ、普段は鍛錬がてら、畑仕事に精を出してくれているのですけれどね。」

 そう教えてもらっていると、先ほど長老だと紹介された男性が私の元へ来て、コップへと注いでくれるという。

「ご婚約、おめでとうございます。ささ、ここで作った新鮮なビアです。どうぞ。」

「ビア?」

「ここの畑で作られる大麦を使ったお酒ですよ。お酒、良く飲まれると聞きましたが、ビアは飲んだ事ありますか?」

 そうなの!?〝エルヴィーラ様〟は良く飲むのね…私、飲めたかしら。外見は同じだけれど、きっとエルヴィーラ様は逃げたと言っていたから、〝エルヴィーラ様〟の体ではないもの。
 多分…飲んでいたとは思うわ。舞台がうまくいった日は、ぷはーって飲んでいた気がするもの。ただ、何をかは覚えていないのだけれど。


 でも、どんな味なのか飲んでみたいわ。

「そうなのですね。ありがとう、頂くわ。」


 注いでもらうと、白い泡がシュワシュワとしていて美味しそうに見える。

「では。乾杯!」

 グイッと飲んでみると、のどに当たるようにシュワシュワとくる。美味しいというか…苦いわ。でも皆美味しそうに飲んでいる。飲み込むと確かにさっぱりとする気はするけれど、味は少し苦くて…。でもなんだか懐かしい。

「ささ、どうぞどうぞ。」

 まぁ、皆楽しそうだし。
私もしばしこの世界へ来た不安を忘れられるかともう一杯、もう一杯と頂く事にした。


 隣のルドと、長老と一緒に飲みながら食べながら話をする。

 今日も、男女二人組が通ったが怪しくは無かったので放っておいただのなんだのと話していた。
どうやら、見るからに怪しい人が通らない限りは黙認しているのだそう。この先の渓谷や森を抜けると帝都があり、そこではきちんとした警備もしているからだそうだ。


 数年前はマルニクス様率いる軍がここを通ってデューレンケルンに攻め入っていたと言っていた。マルニクス様が率いる軍といっても、父のディーデリック皇帝陛下に正式に依頼された軍ではないので統制がいつも取れていない感じだったと言っていた。

「私達がお止め出来れば良かったのでしょうが、さすがに難しくて。武力で戦えば我々が勝つと思ってはいましたが、先代皇帝陛下のご子息と戦うなんて…いつも歯がゆい思いで見ておりました。」

 と言われ頭を下げられたから、

「過ぎた事です。あなた達には、あなた達の立場がありますから。そう思ってくれていただけで充分ですわ。」

 と微笑んでおいた。あまり数多く語るのも良くないわよね、私はそれと戦っていた〝エルヴィーラ様〟ではないのだもの。さすがに嘘をペラペラと話すのは気が引けるわ。


 そう思ってふと簡易かまどの方を見ると、隊員が集落の人と一緒になって輪になり踊っていた。どんな踊りなのかは分からないけれど、とても楽しそう。

 見ていたら、私も体がうずうずとして一緒に踊りたくなってきた。
 この世界へ来る前、役者を目指していて、大きな声を出して身振り手振り演じていた事が少しだけ頭をかすめたの。もうどんな台詞とか、歌とかは覚えていないのだけれど。

「エルヴィーラ様も、どうぞ!」

 私がじっと見ていたからか、踊っている人に手招きして言われたの。だからなんとなく、立ち上がって近寄っていったのよ。

 周りを見ながら体を少し真似て動かしてみる。するとなんだか楽しくって!
皆も楽しいのね。笑いながら掛け声もかけながら体を動かしているの。



 …のだけれど。何だか…頭が痛くなってきたような…

 私は、慌てて先ほど座っていた場所へ戻った。

「エルヴィーラ様、大丈夫ですか?お顔が…」

 インサが、近くへと来て心配してくれているようだけど、何だか顔が熱くなってポワポワとして…眠くなって……

「……!………!!」

「…!………!!」

 何か、体を揺すられている気がするけれど、眠くなってきて私はそこで意識を手放した。
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