上 下
8 / 27

8. 結婚に至る経緯

しおりを挟む
「我がアーネムヘルム帝国の皇帝は、何歳か知っていますか?」

 え!?幾つ…?そこまで聞いてない…。
と思ったけれど、私が答える間もなくすぐに次の言葉を繋いでくれる。

「二十四歳です。帝国は広い。なのに、若いと思いませんか?」

「そう言われると…。」

「巨大な帝国を統べるには若い年齢です。それほどまでに素晴らしい人物かといえば…まぁ、そうなのかもしれないですが実のところ、なる…成られる方が居なかったのもあります。
先代皇帝は、ディーデリック様。ゆくゆくは、その長男マルニクス様が皇帝に成られる予定だった。だが、マルニクス様は生きていれば二十五歳だが、一年前に事件を起こされた。プリスカという、街の踊り子。その娘に傾倒し、皇后にしたいと皇帝に報告するがけんもホロロだったそうです。それで、なぜ認めてくれないのかとカッとなったマルニクス様は、皇帝を…討ち取りました。」

「え!?」

 私はそこまで聞くと、息を飲み、さすがにルドの方へと振り向いてしまった。
 でもまた、やはり顔が近かった為に恥ずかしくなりすぐに前を向き直す。

「大丈夫ですか?豪傑だと聞いていたから、普通に話しましたが…。やはり一般的な令嬢のように、あまりこのような話は避けるべきでしたか?」

「い、いえ、大丈夫です。すみません、続けて下さい。」

 私は、討ち取ったと聞いたので驚いてしまった。この世界では、そういうのが普通にある事なのかと。
 でも胸に手を充て、すぐに呼吸を整えて続きを聞こうと促した。

「そうですか。では。
…それをしてまで、マルニクス様は踊り子のプリスカと一緒になりたかったのでしょう。それからはマルニクス様が後継者だった事もあり、承認も無く戴冠式も行う事もなくすぐにご自分で皇帝だと宣言し、皇帝と皇后として宮廷の玉座に居座るのですが、重鎮達がこれを善しとしなかった。
マルニクス様の弟が擁立されたのです。マルニクス様とプリスカは即日地下牢へと入れられ、数日の内に刑が執行され、今の皇帝が成られたんですよ。
そんな事があった後の皇帝を支えるには、素晴らしい女性がいいと重鎮達はこぞって意見を言い合い推薦され、議会で決まったのが、我がアーネムヘルム帝国の東隣にある、小国のドルトムンボン国の国境に住むデューレンケルン辺境伯令嬢、そなたです。マルニクス様が幾度と無くそちらへ独断で出兵した際の事を、皆聞かされていたから、強く逞しいだろうと選ばれました。
先代皇帝の指示も無く勝手に出兵さた際は申し訳ないです。毎回完膚無きまでに打ちのめされていたから、そちらの被害は特に無いと言われていたのが幸いですが。」

 壮大な話であったから呆気に取られるが、反応をしなければと思い、なんとか振り絞って言葉を発する。
私の顔を見られていなくて良かった。多分真っ青かもしれない。だって、重鎮達がこぞって推薦した!?でも実際には、私、本物の〝エルヴィーラ様〟ではないのよ。

「そ、そんな事が…。」

「ここまで詳しい話は公にされていないけれど、変な噂で聞かされるより、真実を知っていた方がいいと思うので先にお伝えしました。」

「私、そんなお偉い様達に果たして認められるのかしら…。」

 知らず、呟いてしまう。

「大丈夫ですよ。プリスカは酷いもんでしたから。マルニクス様の恋人だと言っては、街の衣装店でツケで買い物していたり、何か言われるとすぐに『マルニクス様に言いつけます!処分してもらうわ』と言われていたのだとか。そんな事がまかり通れば、民衆は納得しませんし国が乱れてしまいます。プリスカに比べたら、大抵の女性は皆合格点になれますよ。」

 と、戯けながら慰めてくれた。

「…ありがとう。でも、いきなり皇帝になって下さいと言われたルドフィカス様も大変だったでしょうね。」

 だから私も、少し平静を取り戻して言葉を繋いだ。

「え!?」

 ルドがなぜだかとても驚いたようで、聞き返してきた。

「だって、家族が立て続けに亡くなったわけでしょう?それも…壮大な事件。きっと、ご自身も皇帝になるなんて思われてなかったでしょうし。」

「……そうですね。それまでは、軍人として国を支えると思っていたそうですよ。だから周りも、しっかりと支えてくれる女性がいいと推薦されたのでしょうね。」

「まぁ!それは失礼ですね!勝手に皇帝陛下になられる事もですし、それに加えて結婚のお相手までも勝手に決められたという事ですか?」

「まぁ皇帝には好きな人はいなかったですし、勝手に決められるのは国の事を思ってなのですから仕方ありません。皇帝の妻となる方とはつまり皇后陛下となるのですから。それに、帝王学をじっくり学んできていない弟をいきなり皇帝と担ぎあげたのですから、頼りないと思っての事なんじゃないですか?…あ、すみません、なんだか余計な事まで…。」

 なんだか、ルドの声が投げやりな感じに聞こえたのは気のせいかしら。軍にいたというから、きっと知り合いなのかもしれないわね。

「いいえ、余計ではないわ。そんなんじゃ皇帝陛下が可哀想よ!勝手に担ぎあげたくせに、妻になる人まで勝手に決められて。…て、妻は私ですね…余計可哀想……。」

 勢い余って、感情移入してしまったけれどよく考えたら、〝エルヴィーラ様〟が選ばれたんだけど今はなんだわ、と気づいて尻すぼみになる。

「そんな事はありません!あなたは…!噂とは違い、心優しい人です。皇帝が可哀想、などと言ってくれるのですから。今まで、誰もそんな風に言う人はいませんでした。あなたはとても素敵な人です!」

 いきなり大きな声で言われたから、驚いてしまったけれど、力説されたからかなんだか心がじんわりとした。

「買いかぶりすぎよ…でも、ありがとう。皇帝陛下にお会いしたら、それは結婚生活の始まりなのよね。支えられるように頑張るわ。」

 その言葉には、ルドからの返事は聞こえなかったけれどそれでいいと思った。この言葉は、私の新たなる決意表明みたいなものなのだもの。



☆★

「そろそろだな。ここで今日は野営地としましょう。」

 あれから少しお互い黙って進んでいたけれど、気になった景色の話をしたり、飛び出してきた小動物の話をしたりして進んでいった。
 そして日が暮れ始めた頃にそう言ったルドは、先に降りてから私も降ろしてくれて、野営地を作る為に準備をしだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗婚約者の私よりも、ご自分の義妹ばかり優先するあなたとはお別れしようと思います。

藍川みいな
恋愛
婚約者のデイビッド様は、とても誠実で優しい人だった。義妹の、キルスティン様が現れるまでは。 「エリアーナ、紹介するよ。僕の義妹の、キルスティンだ。可愛いだろう?」 私の誕生日に、邸へ迎えに来てくれたはずのデイビッド様は、最近出来た義妹のキルスティン様を連れて来た。予約していたレストランをキャンセルしたと言われ、少しだけ不機嫌になった私に、 「不満そうだね。キルスティンは楽しみにしていたのに、こんな状態では一緒に出かけても楽しくないだろう。今日は、キルスティンと二人でカフェに行くことにするよ。君は、邸でゆっくりすればいい」そう言って、二人で出かけて行った。 その日から、彼は変わってしまった。私よりも、義妹を優先し、会うこともなくなって行った。 彼の隣に居るのは、いつもキルスティン様。 笑いかけてもくれなくなった彼と、婚約を解消する決意をする。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。感想ありがとうございました。 嬉しい感想や、自分では気付かなかったご意見など、本当にいつも感謝しております。 読んでくださり、ありがとうございました。

〖完結〗あなたに愛されることは望みません。

藍川みいな
恋愛
ブルーク公爵家の長女に生まれた私は、幼い頃に母を亡くした。父に愛されたことなど一度もなく、父が後妻を迎えると、私は使用人用の住まいに追いやられた。 父はこの国で、一番力を持っていた。一国の王よりも。 国王陛下と王妃様を殺害し、王太子であるアンディ様を国王に据えた。両親を殺され、12歳で国王となったアンディ様は、父の操り人形だった。 アンディ様が18歳になると、王妃になるように父に命じられた。私の役割は、アンディ様の監視と彼の子を産むこと。 両親の仇であるブルーク公爵の娘を、愛することなど出来るはずがない。けれど、私はアンディ様を愛していた。自分が愛されていないことも、愛されない理由も、愛される資格がないことも分かっている。愛されることなど、望まない。 父親がどんな人間かは、私が一番良く分かっている。父は母を、殺したのだから……。 彼に愛されなくても、彼を守るために私は王妃となる決意をする。王妃となってまもなく、アンディ様は愛する人を見つけたからと側室を迎えた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】キミの記憶が戻るまで

ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた 慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で… しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい… ※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。 朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2 朝陽-1→2→3 など、お好きに読んでください。 おすすめは相互に読む方です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】無罪なのに断罪されたモブ令嬢ですが、神に物申したら上手くいった話

もわゆぬ
恋愛
この世は可笑しい。 本当にしたかも分からない罪で”悪役”が作り上げられ断罪される。 そんな世界にむしゃくしゃしながらも、何も出来ないで居たサラ。 しかし、平凡な自分も婚約者から突然婚約破棄をされる。 隣国へと逃亡したが、よく分からないこんな世界に怒りが収まらず神に一言物申してやろうと教会へと向かうのだった… 【短編です、物語7話+‪α‬で終わります】

妹がいらないと言った婚約者は最高でした

朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。 息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。 わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea
恋愛
最近のこの国の社交界では、 叙爵されたばかりの男爵家の双子の姉弟が、珍しい髪色と整った容姿で有名となっていた。 そんな双子の姉弟は、何故かこの国の王子、王女とあっという間に身分差を超えて親しくなっていて、 その様子は社交界を震撼させていた。 そんなある日、とあるパーティーで公爵令嬢のシャルロッテは婚約者の王子から、 「真実の愛を見つけた」「貴様は悪役のような女だ」と言われて婚約破棄を告げられ捨てられてしまう。 一方、その場にはシャルロッテと同じ様に、 「真実の愛を見つけましたの」「貴方は悪役のような男性ね」と、 婚約者の王女に婚約破棄されている公爵令息、ディライトの姿があり、 そんな公衆の面前でまさかの婚約破棄をやらかした王子と王女の傍らには有名となっていた男爵家の双子の姉弟が…… “悪役令嬢”と“悪役令息”にされたシャルロッテとディライトの二人は、 この突然の婚約破棄に納得がいかず、 許せなくて手を組んで復讐する事を企んだ。 けれど───……あれ? ディライト様の様子がおかしい!?

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...