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8. 結婚に至る経緯
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「我がアーネムヘルム帝国の皇帝は、何歳か知っていますか?」
え!?幾つ…?そこまで聞いてない…。
と思ったけれど、私が答える間もなくすぐに次の言葉を繋いでくれる。
「二十四歳です。帝国は広い。なのに、若いと思いませんか?」
「そう言われると…。」
「巨大な帝国を統べるには若い年齢です。それほどまでに素晴らしい人物かといえば…まぁ、そうなのかもしれないですが実のところ、なる…成られる方が居なかったのもあります。
先代皇帝は、ディーデリック様。ゆくゆくは、その長男マルニクス様が皇帝に成られる予定だった。だが、マルニクス様は生きていれば二十五歳だが、一年前に事件を起こされた。プリスカという、街の踊り子。その娘に傾倒し、皇后にしたいと皇帝に報告するがけんもホロロだったそうです。それで、なぜ認めてくれないのかとカッとなったマルニクス様は、皇帝を…討ち取りました。」
「え!?」
私はそこまで聞くと、息を飲み、さすがにルドの方へと振り向いてしまった。
でもまた、やはり顔が近かった為に恥ずかしくなりすぐに前を向き直す。
「大丈夫ですか?豪傑だと聞いていたから、普通に話しましたが…。やはり一般的な令嬢のように、あまりこのような話は避けるべきでしたか?」
「い、いえ、大丈夫です。すみません、続けて下さい。」
私は、討ち取ったと聞いたので驚いてしまった。この世界では、そういうのが普通にある事なのかと。
でも胸に手を充て、すぐに呼吸を整えて続きを聞こうと促した。
「そうですか。では。
…それをしてまで、マルニクス様は踊り子のプリスカと一緒になりたかったのでしょう。それからはマルニクス様が後継者だった事もあり、承認も無く戴冠式も行う事もなくすぐにご自分で皇帝だと宣言し、皇帝と皇后として宮廷の玉座に居座るのですが、重鎮達がこれを善しとしなかった。
マルニクス様の弟が擁立されたのです。マルニクス様とプリスカは即日地下牢へと入れられ、数日の内に刑が執行され、今の皇帝が成られたんですよ。
そんな事があった後の皇帝を支えるには、素晴らしい女性がいいと重鎮達はこぞって意見を言い合い推薦され、議会で決まったのが、我がアーネムヘルム帝国の東隣にある、小国のドルトムンボン国の国境に住むデューレンケルン辺境伯令嬢、そなたです。マルニクス様が幾度と無くそちらへ独断で出兵した際の事を、皆聞かされていたから、強く逞しいだろうと選ばれました。
先代皇帝の指示も無く勝手に出兵さた際は申し訳ないです。毎回完膚無きまでに打ちのめされていたから、そちらの被害は特に無いと言われていたのが幸いですが。」
壮大な話であったから呆気に取られるが、反応をしなければと思い、なんとか振り絞って言葉を発する。
私の顔を見られていなくて良かった。多分真っ青かもしれない。だって、重鎮達がこぞって推薦した!?でも実際には、私、本物の〝エルヴィーラ様〟ではないのよ。
「そ、そんな事が…。」
「ここまで詳しい話は公にされていないけれど、変な噂で聞かされるより、真実を知っていた方がいいと思うので先にお伝えしました。」
「私、そんなお偉い様達に果たして認められるのかしら…。」
知らず、呟いてしまう。
「大丈夫ですよ。プリスカは酷いもんでしたから。マルニクス様の恋人だと言っては、街の衣装店でツケで買い物していたり、何か言われるとすぐに『マルニクス様に言いつけます!処分してもらうわ』と言われていたのだとか。そんな事がまかり通れば、民衆は納得しませんし国が乱れてしまいます。プリスカに比べたら、大抵の女性は皆合格点になれますよ。」
と、戯けながら慰めてくれた。
「…ありがとう。でも、いきなり皇帝になって下さいと言われたルドフィカス様も大変だったでしょうね。」
だから私も、少し平静を取り戻して言葉を繋いだ。
「え!?」
ルドがなぜだかとても驚いたようで、聞き返してきた。
「だって、家族が立て続けに亡くなったわけでしょう?それも…壮大な事件。きっと、ご自身も皇帝になるなんて思われてなかったでしょうし。」
「……そうですね。それまでは、軍人として国を支えると思っていたそうですよ。だから周りも、しっかりと支えてくれる女性がいいと推薦されたのでしょうね。」
「まぁ!それは失礼ですね!勝手に皇帝陛下になられる事もですし、それに加えて結婚のお相手までも勝手に決められたという事ですか?」
「まぁ皇帝には好きな人はいなかったですし、勝手に決められるのは国の事を思ってなのですから仕方ありません。皇帝の妻となる方とはつまり皇后陛下となるのですから。それに、帝王学をじっくり学んできていない弟をいきなり皇帝と担ぎあげたのですから、頼りないと思っての事なんじゃないですか?…あ、すみません、なんだか余計な事まで…。」
なんだか、ルドの声が投げやりな感じに聞こえたのは気のせいかしら。軍にいたというから、きっと知り合いなのかもしれないわね。
「いいえ、余計ではないわ。そんなんじゃ皇帝陛下が可哀想よ!勝手に担ぎあげたくせに、妻になる人まで勝手に決められて。…て、妻は私ですね…余計可哀想……。」
勢い余って、感情移入してしまったけれどよく考えたら、〝エルヴィーラ様〟が選ばれたんだけど今は私なんだわ、と気づいて尻すぼみになる。
「そんな事はありません!あなたは…!噂とは違い、心優しい人です。皇帝が可哀想、などと言ってくれるのですから。今まで、誰もそんな風に言う人はいませんでした。あなたはとても素敵な人です!」
いきなり大きな声で言われたから、驚いてしまったけれど、力説されたからかなんだか心がじんわりとした。
「買いかぶりすぎよ…でも、ありがとう。皇帝陛下にお会いしたら、それは結婚生活の始まりなのよね。支えられるように頑張るわ。」
その言葉には、ルドからの返事は聞こえなかったけれどそれでいいと思った。この言葉は、私の新たなる決意表明みたいなものなのだもの。
☆★
「そろそろだな。ここで今日は野営地としましょう。」
あれから少しお互い黙って進んでいたけれど、気になった景色の話をしたり、飛び出してきた小動物の話をしたりして進んでいった。
そして日が暮れ始めた頃にそう言ったルドは、先に降りてから私も降ろしてくれて、野営地を作る為に準備をしだした。
え!?幾つ…?そこまで聞いてない…。
と思ったけれど、私が答える間もなくすぐに次の言葉を繋いでくれる。
「二十四歳です。帝国は広い。なのに、若いと思いませんか?」
「そう言われると…。」
「巨大な帝国を統べるには若い年齢です。それほどまでに素晴らしい人物かといえば…まぁ、そうなのかもしれないですが実のところ、なる…成られる方が居なかったのもあります。
先代皇帝は、ディーデリック様。ゆくゆくは、その長男マルニクス様が皇帝に成られる予定だった。だが、マルニクス様は生きていれば二十五歳だが、一年前に事件を起こされた。プリスカという、街の踊り子。その娘に傾倒し、皇后にしたいと皇帝に報告するがけんもホロロだったそうです。それで、なぜ認めてくれないのかとカッとなったマルニクス様は、皇帝を…討ち取りました。」
「え!?」
私はそこまで聞くと、息を飲み、さすがにルドの方へと振り向いてしまった。
でもまた、やはり顔が近かった為に恥ずかしくなりすぐに前を向き直す。
「大丈夫ですか?豪傑だと聞いていたから、普通に話しましたが…。やはり一般的な令嬢のように、あまりこのような話は避けるべきでしたか?」
「い、いえ、大丈夫です。すみません、続けて下さい。」
私は、討ち取ったと聞いたので驚いてしまった。この世界では、そういうのが普通にある事なのかと。
でも胸に手を充て、すぐに呼吸を整えて続きを聞こうと促した。
「そうですか。では。
…それをしてまで、マルニクス様は踊り子のプリスカと一緒になりたかったのでしょう。それからはマルニクス様が後継者だった事もあり、承認も無く戴冠式も行う事もなくすぐにご自分で皇帝だと宣言し、皇帝と皇后として宮廷の玉座に居座るのですが、重鎮達がこれを善しとしなかった。
マルニクス様の弟が擁立されたのです。マルニクス様とプリスカは即日地下牢へと入れられ、数日の内に刑が執行され、今の皇帝が成られたんですよ。
そんな事があった後の皇帝を支えるには、素晴らしい女性がいいと重鎮達はこぞって意見を言い合い推薦され、議会で決まったのが、我がアーネムヘルム帝国の東隣にある、小国のドルトムンボン国の国境に住むデューレンケルン辺境伯令嬢、そなたです。マルニクス様が幾度と無くそちらへ独断で出兵した際の事を、皆聞かされていたから、強く逞しいだろうと選ばれました。
先代皇帝の指示も無く勝手に出兵さた際は申し訳ないです。毎回完膚無きまでに打ちのめされていたから、そちらの被害は特に無いと言われていたのが幸いですが。」
壮大な話であったから呆気に取られるが、反応をしなければと思い、なんとか振り絞って言葉を発する。
私の顔を見られていなくて良かった。多分真っ青かもしれない。だって、重鎮達がこぞって推薦した!?でも実際には、私、本物の〝エルヴィーラ様〟ではないのよ。
「そ、そんな事が…。」
「ここまで詳しい話は公にされていないけれど、変な噂で聞かされるより、真実を知っていた方がいいと思うので先にお伝えしました。」
「私、そんなお偉い様達に果たして認められるのかしら…。」
知らず、呟いてしまう。
「大丈夫ですよ。プリスカは酷いもんでしたから。マルニクス様の恋人だと言っては、街の衣装店でツケで買い物していたり、何か言われるとすぐに『マルニクス様に言いつけます!処分してもらうわ』と言われていたのだとか。そんな事がまかり通れば、民衆は納得しませんし国が乱れてしまいます。プリスカに比べたら、大抵の女性は皆合格点になれますよ。」
と、戯けながら慰めてくれた。
「…ありがとう。でも、いきなり皇帝になって下さいと言われたルドフィカス様も大変だったでしょうね。」
だから私も、少し平静を取り戻して言葉を繋いだ。
「え!?」
ルドがなぜだかとても驚いたようで、聞き返してきた。
「だって、家族が立て続けに亡くなったわけでしょう?それも…壮大な事件。きっと、ご自身も皇帝になるなんて思われてなかったでしょうし。」
「……そうですね。それまでは、軍人として国を支えると思っていたそうですよ。だから周りも、しっかりと支えてくれる女性がいいと推薦されたのでしょうね。」
「まぁ!それは失礼ですね!勝手に皇帝陛下になられる事もですし、それに加えて結婚のお相手までも勝手に決められたという事ですか?」
「まぁ皇帝には好きな人はいなかったですし、勝手に決められるのは国の事を思ってなのですから仕方ありません。皇帝の妻となる方とはつまり皇后陛下となるのですから。それに、帝王学をじっくり学んできていない弟をいきなり皇帝と担ぎあげたのですから、頼りないと思っての事なんじゃないですか?…あ、すみません、なんだか余計な事まで…。」
なんだか、ルドの声が投げやりな感じに聞こえたのは気のせいかしら。軍にいたというから、きっと知り合いなのかもしれないわね。
「いいえ、余計ではないわ。そんなんじゃ皇帝陛下が可哀想よ!勝手に担ぎあげたくせに、妻になる人まで勝手に決められて。…て、妻は私ですね…余計可哀想……。」
勢い余って、感情移入してしまったけれどよく考えたら、〝エルヴィーラ様〟が選ばれたんだけど今は私なんだわ、と気づいて尻すぼみになる。
「そんな事はありません!あなたは…!噂とは違い、心優しい人です。皇帝が可哀想、などと言ってくれるのですから。今まで、誰もそんな風に言う人はいませんでした。あなたはとても素敵な人です!」
いきなり大きな声で言われたから、驚いてしまったけれど、力説されたからかなんだか心がじんわりとした。
「買いかぶりすぎよ…でも、ありがとう。皇帝陛下にお会いしたら、それは結婚生活の始まりなのよね。支えられるように頑張るわ。」
その言葉には、ルドからの返事は聞こえなかったけれどそれでいいと思った。この言葉は、私の新たなる決意表明みたいなものなのだもの。
☆★
「そろそろだな。ここで今日は野営地としましょう。」
あれから少しお互い黙って進んでいたけれど、気になった景色の話をしたり、飛び出してきた小動物の話をしたりして進んでいった。
そして日が暮れ始めた頃にそう言ったルドは、先に降りてから私も降ろしてくれて、野営地を作る為に準備をしだした。
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