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6. 乗っていくものは
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「では、私の事はどうぞアルヤンと呼び捨てて下さい。さぁ、こちらへ。」
そう言って手を差し出されたけれど、私は敢えてその手には自分の手を乗せずににっこりと微笑んで言葉を返した。
「ありがとう。でも、副隊長という地位をお持ちでしょう?アルヤン副隊長とお呼びしても?私は一人でも大丈夫ですわ。」
「…承知しました。では、エルヴィーラ様とお呼びします事をお許し願えますか?」
「ええ。」
そう答え、私は自分でスタスタと屋敷の門の外まで一人で行く。
これが〝エルヴィーラ様〟として合っているかは分からない。だって、先ほど手を差し伸べられたのはきっとエスコートする為だと思うの。だけど、〝エルヴィーラ様〟は豪傑だと言っていたし、〝男だったら幸せだっただろう〟とも言われていたもの。きっと、男の人に軽々しくエスコートさせなかったのではないかしら?
それにしても。
帝国と言われ、先ほどから野蛮だの恐ろしいだのと言われていたから、どんな恐そうな人かと思ったが、物腰が柔らかい人で良かったと思った。お迎えの人だからなのかもしれないけれど。
門の外では、私の身長よりも大きな馬が何頭もいた。その横にはアルヤン副隊長と同じ軍服を着た人達がいた。
(もしかして…馬に乗るのかしら!?)
馬の顔はくりくりとした黒い黒曜石のような瞳がこちらをジッと見つめていて睫毛も長くて可愛いのだけれどとても体長が大きくて、足が長いから下手に近づくと蹴られそう…。
私がそこで足を止めると、
「どうかされました?いつも乗っている愛馬は連れて来ないのですか?」
と、先頭にいる、赤茶色の毛並みの馬の横に立ち、馬の顔を撫でている人が声を掛けてきた。
その人は、太陽の光に当たると少し青っぽく見える黒い髪を肩まで伸ばし、この方も黒曜石のような綺麗な瞳で、私を見つめている。目鼻立ちがくっきりとしていて、格好良く見えた。
「あ、いいえ…。」
どうしよう、なんて答えようかと躊躇うとすぐに、
「お、恐れながら!エルヴィーラ様は先日、落馬して頭を酷く打ちつけまして、記憶があやふやな部分があります!」
インサが慌てて口を開く。
落馬…きっと私の設定ね。
ん?でも、私…馬乗った事あったかしら。
…あったわ!
頭を捻ると僅かながらに乗馬教室に通っていた事をなんとなく思い出した。
これもいつか、演じる役柄で馬に乗る役とか来たらすぐにでも役に立つと思っていたのだと思う。
でも、教室でのコーチの顔とか教えられた言葉とか細部まで覚えていないけれど、これって乗れるって言えるの?乗ったら思い出すのかしら。体が勝手に覚えているといいのだけれど。
だって馬以外は見当たらない。きっと、〝エルヴィーラ様〟は愛馬を自在に操っていたと言ったから、当然ながら馬で移動するのよね?きっと。
大丈夫かしら…。
だって、馬って、こんなに大きかった?
「エルヴィーラ様、乗馬できますか?」
こっそりと私に近づいて声を掛けてきたインサ。とても心配してくれているわ。
そうよね、でもさすがに馬で移動するのだとは思わなかったわ。
「分からない…けれど、馬がとても大きく見えるの。乗れるかしら。」
「確かに、大きいですね。」
インサも若干恐れたように、引き気味にその馬達を見ている。
すると、先ほどの人は顎に手を充てて考えるように、
「…そうでしたか。それは知らず申し訳ありません。確認不足でした。落馬して怪我をした者は馬が怖くなるといいます。あなたは普段から自分の体の一部のように愛馬を乗り回していたと聞いていたから、馬車よりも早く移動出来るように馬にしてしまったのです。愛馬も連れて行かれるのかと思っておりましたし。…どうでしょうか。では私と一緒に乗って下さい。」
と言われた。
え!?一緒に!?見ず知らずの初対面の人と!?
……でも、一人で乗るよりはマシよね。馬だって生き物だから、いきなり走り出してしまったら、操作できるか不安だもの。それにこんな大きな馬、一人で乗ってと言われても怖いわ。
「…ええ。申し訳ありません。よろしくお願い致します。」
「では改めて。紹介します。彼はルドフィ…」
「えへんえへん!ええと、私はルドです。私の馬にお乗り下さい。」
アルヤン副隊長が紹介しようとすると、ルドと言われた青年は言葉が被さるように、自分で改めてそう言われた。どうしたのだろう。
「…では、そちらの侍女の方。お名前は?」
「インサと申します。」
「インサ、よろしく。では僕の馬に乗って。」
「え?で、ですが…」
「あぁ、気にしないで。僕もルドも同じくらいの腕だから。ほらほら、出発しますよ。行程が一応ありますからね。」
そう言って、私とインサを促した。
きっと、地位のあるアルヤン副隊長に私が乗らないのはなぜかとインサは思ったのかもしれないわね。彼は役職を言わなかったもの。
でも、今の私には地位のある人より一般人の方がいいわ。私、実際には地位があるわけではないのだから。
そう言って手を差し出されたけれど、私は敢えてその手には自分の手を乗せずににっこりと微笑んで言葉を返した。
「ありがとう。でも、副隊長という地位をお持ちでしょう?アルヤン副隊長とお呼びしても?私は一人でも大丈夫ですわ。」
「…承知しました。では、エルヴィーラ様とお呼びします事をお許し願えますか?」
「ええ。」
そう答え、私は自分でスタスタと屋敷の門の外まで一人で行く。
これが〝エルヴィーラ様〟として合っているかは分からない。だって、先ほど手を差し伸べられたのはきっとエスコートする為だと思うの。だけど、〝エルヴィーラ様〟は豪傑だと言っていたし、〝男だったら幸せだっただろう〟とも言われていたもの。きっと、男の人に軽々しくエスコートさせなかったのではないかしら?
それにしても。
帝国と言われ、先ほどから野蛮だの恐ろしいだのと言われていたから、どんな恐そうな人かと思ったが、物腰が柔らかい人で良かったと思った。お迎えの人だからなのかもしれないけれど。
門の外では、私の身長よりも大きな馬が何頭もいた。その横にはアルヤン副隊長と同じ軍服を着た人達がいた。
(もしかして…馬に乗るのかしら!?)
馬の顔はくりくりとした黒い黒曜石のような瞳がこちらをジッと見つめていて睫毛も長くて可愛いのだけれどとても体長が大きくて、足が長いから下手に近づくと蹴られそう…。
私がそこで足を止めると、
「どうかされました?いつも乗っている愛馬は連れて来ないのですか?」
と、先頭にいる、赤茶色の毛並みの馬の横に立ち、馬の顔を撫でている人が声を掛けてきた。
その人は、太陽の光に当たると少し青っぽく見える黒い髪を肩まで伸ばし、この方も黒曜石のような綺麗な瞳で、私を見つめている。目鼻立ちがくっきりとしていて、格好良く見えた。
「あ、いいえ…。」
どうしよう、なんて答えようかと躊躇うとすぐに、
「お、恐れながら!エルヴィーラ様は先日、落馬して頭を酷く打ちつけまして、記憶があやふやな部分があります!」
インサが慌てて口を開く。
落馬…きっと私の設定ね。
ん?でも、私…馬乗った事あったかしら。
…あったわ!
頭を捻ると僅かながらに乗馬教室に通っていた事をなんとなく思い出した。
これもいつか、演じる役柄で馬に乗る役とか来たらすぐにでも役に立つと思っていたのだと思う。
でも、教室でのコーチの顔とか教えられた言葉とか細部まで覚えていないけれど、これって乗れるって言えるの?乗ったら思い出すのかしら。体が勝手に覚えているといいのだけれど。
だって馬以外は見当たらない。きっと、〝エルヴィーラ様〟は愛馬を自在に操っていたと言ったから、当然ながら馬で移動するのよね?きっと。
大丈夫かしら…。
だって、馬って、こんなに大きかった?
「エルヴィーラ様、乗馬できますか?」
こっそりと私に近づいて声を掛けてきたインサ。とても心配してくれているわ。
そうよね、でもさすがに馬で移動するのだとは思わなかったわ。
「分からない…けれど、馬がとても大きく見えるの。乗れるかしら。」
「確かに、大きいですね。」
インサも若干恐れたように、引き気味にその馬達を見ている。
すると、先ほどの人は顎に手を充てて考えるように、
「…そうでしたか。それは知らず申し訳ありません。確認不足でした。落馬して怪我をした者は馬が怖くなるといいます。あなたは普段から自分の体の一部のように愛馬を乗り回していたと聞いていたから、馬車よりも早く移動出来るように馬にしてしまったのです。愛馬も連れて行かれるのかと思っておりましたし。…どうでしょうか。では私と一緒に乗って下さい。」
と言われた。
え!?一緒に!?見ず知らずの初対面の人と!?
……でも、一人で乗るよりはマシよね。馬だって生き物だから、いきなり走り出してしまったら、操作できるか不安だもの。それにこんな大きな馬、一人で乗ってと言われても怖いわ。
「…ええ。申し訳ありません。よろしくお願い致します。」
「では改めて。紹介します。彼はルドフィ…」
「えへんえへん!ええと、私はルドです。私の馬にお乗り下さい。」
アルヤン副隊長が紹介しようとすると、ルドと言われた青年は言葉が被さるように、自分で改めてそう言われた。どうしたのだろう。
「…では、そちらの侍女の方。お名前は?」
「インサと申します。」
「インサ、よろしく。では僕の馬に乗って。」
「え?で、ですが…」
「あぁ、気にしないで。僕もルドも同じくらいの腕だから。ほらほら、出発しますよ。行程が一応ありますからね。」
そう言って、私とインサを促した。
きっと、地位のあるアルヤン副隊長に私が乗らないのはなぜかとインサは思ったのかもしれないわね。彼は役職を言わなかったもの。
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