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15. 子爵領では 〜時は戻り…〜
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時は戻り、エレーネが保護された次の日。
まだ月が出ているが、辺りが少し白み出した頃。
イェフダ侯爵とその長男ジョンは馬に食料を積み、駆けだす。ややもすれば、ハルヴァシ子爵領に辿り着いた。
侯爵領に近い側ではそんなに変わり映えしないが、街に近づくにつれ、建物等が燃えたあとの焦げ臭い匂いがうっすらと漂っている。そして街は、瓦礫の山だった。建物として形が残っている場所もあるが、燃やされたり壊された家や建物が散らかっている。
アイザック=ハルヴァシ子爵領の街の中心部まで来ると、炊き出しの準備をしているスヒルトラーゼ侯爵家の護衛三人を見つけた。
「ご苦労。どうだ?」
イェフダ侯爵は、三人に話し掛けた。
三人の中では一番背が高い赤茶色の髪がカウシヴィリ、背も高いがお腹も出ている焦げ茶色の髪がロンシヴィリ、背は二人よりも少し低い焦げ茶色の髪がジューシヴィリと言う。
「はい。昨夜は冷え込みが少なくて良かったです。被害が無い者は自分の家で、そうでない者は外で一晩中火を焚いて夜を明かしました。」
と、カウシヴィリが報告した。
「領民達も、明るくなれば動き出すでしょう。炊き出しを行おうと思っております。」
とロンシヴィリも続いて言った。
「助かる。では、食料を持ってきたから足しにしてくれ。お前らも食べたら少し休んでくれ。」
「ありがとうございます。ですが、夜は交代で休みましたから、イェフダ様の手伝いをさせて下さい。」
イェフダが言えば、ジューシヴィリがそう言った。
食事は最も大切であるが、他にもやる事はたくさんある。壊された物の片づけをしなければ、住む場所を新しく直す事が出来ないのだ。
また、被害状況も確認したい所だったのでイェフダはその声に一つ頷いた。
「そうか。無理だけはするなよ。そちらが終わってからでいい。合流してくれ。」
「「「はい。承知致しました。」」」
イェフダは奥へと進み、ハルヴァシ子爵の屋敷へ向かう。ここには昨日も来て、建物の周りや中も一応確認したが、人の気配が無かったのだ。もう一度、中に入って誰かいないか確認してみる。
「邪魔するぞ。」
建物の入り口はカギが開いている。扉は、体当たりでもしたのか両開きであるのに片方が蝶番の所が一つ外れているのだ。それでも、昨日は閉めれる所まで閉めて帰った。
「やはり、静かですね。」
正面の玄関ホールを進み一階から確認してみる。
侯爵家の屋敷とは広さも規模も違うが、センスのいいものが置かれていたはずだ。だが、調度品は重い物や備え付けの物以外は無くなっている。
「誰かいないか!?私は、イェフダ=スヒルトラーゼだ!」
イェフダは大きな声を張り上げてみた。と、くぐもったような何かが聞こえた気がした。
「下か?」
「どうでしょう。」
以前訪問した時、侯爵領で出来たワインを持ってくると地下食料庫へしまうのだと言っていたのを思い出した。だがどこからそこへ行くのかまでは分からない。しばらくジョンと手分けして探し、それは、厨房の隣の小部屋の、不自然に敷かれた敷物をめくってみると下に階段が隠れていた。
「どうか居てくれ!」
敷物をめくり、七段ほどの短い階段を下りると食料が置かれた棚が並んでいた。
「誰かいないか?私はイェフダ=スヒルトラーゼだ。」
そう言うと、奥でガタンと音がした。
「誰かいるか?アイザックか?」
奥の棚の間から出て来たのは、アイザックの妻のカティア夫人と、その使用人が一人だった。
「カティア夫人 …!」
「…イェフダ侯爵様このような格好でのお出迎え、大変申し訳ありません。」
そう、カティアはおずおずと出てきて頭を下げた。
「カティア夫人、頭を上げなさい!そんな事はどうでもいいから!それで、何があった?アイザックは!?」
「うっうっうっ…はい、すみません。朝食を摂っていると、全身黒い布で覆った人達がいきなり屋敷に訪ねてきたのです。私は、避難させていただきましたが、アイザックは彼らに向かっていきました。」
カティアは、安堵したからか目に涙を浮かべ流れた涙をハンカチで抑えながら答えた。
カティアに寄り添い、背中をさすっているのは夫人お付きの侍女だろうか。
「そうか…。大変であったな、もう我々が来たから安心して欲しい。さぁ、行こうか。他に屋敷内に人はいるだろうか?」
「すみません、分かりません…。ただ、男達は皆、押し入った人に向かって外へ行ったと思います。」
「分かった。食事は摂ったかな?温かい炊き出しのスープを街の中心部でやっているから、そこへ行くといい。」
良かったですね、と侍女がカティア夫人の背中をさすりながら手を添えて地下食料庫から出る。
念のためまだ奥に人が居ないかとイェフダとジョンは確認し、同じく食料庫から出ると、護衛の三人が屋敷の玄関ホールを入ってくる所だった。
「「「イェフダ様!」」」
「おお。炊き出しの方は良かったのか?」
「はい。幸いにも動ける領民もおりますから、任せて来ました。」
「そうか。では、悪いがジューシヴィリ、彼女らを炊き出しへ連れて行ってくれるか。カティア夫人とその侍女だと思う。」
「分かりました!では、申し訳ありませんが歩いて行けますか?」
「ええ。大丈夫よ。お願いします。」
そう言って、カティアとその侍女はジューシヴィリを伴って炊き出しをしている街中の広場へと向かった。
一方、イェフダ達はもう一度屋敷へと入り、上の階に人が居ないか確認したが他には誰も居なかった。
「うーむ…では我らでこれより奥も捜すか。」
ハルヴァシ子爵の屋敷の裏手は山頂へと続く山が広がっている。奥にブドウ畑が広がっているのだ。
街の方にはアイザック子爵は居なかった為、こちら側も捜す事とした。カティアも生きていた事にホッとし、アイザックも生きていて欲しいと願いながらイェフダは捜索を続けた。
まだ月が出ているが、辺りが少し白み出した頃。
イェフダ侯爵とその長男ジョンは馬に食料を積み、駆けだす。ややもすれば、ハルヴァシ子爵領に辿り着いた。
侯爵領に近い側ではそんなに変わり映えしないが、街に近づくにつれ、建物等が燃えたあとの焦げ臭い匂いがうっすらと漂っている。そして街は、瓦礫の山だった。建物として形が残っている場所もあるが、燃やされたり壊された家や建物が散らかっている。
アイザック=ハルヴァシ子爵領の街の中心部まで来ると、炊き出しの準備をしているスヒルトラーゼ侯爵家の護衛三人を見つけた。
「ご苦労。どうだ?」
イェフダ侯爵は、三人に話し掛けた。
三人の中では一番背が高い赤茶色の髪がカウシヴィリ、背も高いがお腹も出ている焦げ茶色の髪がロンシヴィリ、背は二人よりも少し低い焦げ茶色の髪がジューシヴィリと言う。
「はい。昨夜は冷え込みが少なくて良かったです。被害が無い者は自分の家で、そうでない者は外で一晩中火を焚いて夜を明かしました。」
と、カウシヴィリが報告した。
「領民達も、明るくなれば動き出すでしょう。炊き出しを行おうと思っております。」
とロンシヴィリも続いて言った。
「助かる。では、食料を持ってきたから足しにしてくれ。お前らも食べたら少し休んでくれ。」
「ありがとうございます。ですが、夜は交代で休みましたから、イェフダ様の手伝いをさせて下さい。」
イェフダが言えば、ジューシヴィリがそう言った。
食事は最も大切であるが、他にもやる事はたくさんある。壊された物の片づけをしなければ、住む場所を新しく直す事が出来ないのだ。
また、被害状況も確認したい所だったのでイェフダはその声に一つ頷いた。
「そうか。無理だけはするなよ。そちらが終わってからでいい。合流してくれ。」
「「「はい。承知致しました。」」」
イェフダは奥へと進み、ハルヴァシ子爵の屋敷へ向かう。ここには昨日も来て、建物の周りや中も一応確認したが、人の気配が無かったのだ。もう一度、中に入って誰かいないか確認してみる。
「邪魔するぞ。」
建物の入り口はカギが開いている。扉は、体当たりでもしたのか両開きであるのに片方が蝶番の所が一つ外れているのだ。それでも、昨日は閉めれる所まで閉めて帰った。
「やはり、静かですね。」
正面の玄関ホールを進み一階から確認してみる。
侯爵家の屋敷とは広さも規模も違うが、センスのいいものが置かれていたはずだ。だが、調度品は重い物や備え付けの物以外は無くなっている。
「誰かいないか!?私は、イェフダ=スヒルトラーゼだ!」
イェフダは大きな声を張り上げてみた。と、くぐもったような何かが聞こえた気がした。
「下か?」
「どうでしょう。」
以前訪問した時、侯爵領で出来たワインを持ってくると地下食料庫へしまうのだと言っていたのを思い出した。だがどこからそこへ行くのかまでは分からない。しばらくジョンと手分けして探し、それは、厨房の隣の小部屋の、不自然に敷かれた敷物をめくってみると下に階段が隠れていた。
「どうか居てくれ!」
敷物をめくり、七段ほどの短い階段を下りると食料が置かれた棚が並んでいた。
「誰かいないか?私はイェフダ=スヒルトラーゼだ。」
そう言うと、奥でガタンと音がした。
「誰かいるか?アイザックか?」
奥の棚の間から出て来たのは、アイザックの妻のカティア夫人と、その使用人が一人だった。
「カティア夫人 …!」
「…イェフダ侯爵様このような格好でのお出迎え、大変申し訳ありません。」
そう、カティアはおずおずと出てきて頭を下げた。
「カティア夫人、頭を上げなさい!そんな事はどうでもいいから!それで、何があった?アイザックは!?」
「うっうっうっ…はい、すみません。朝食を摂っていると、全身黒い布で覆った人達がいきなり屋敷に訪ねてきたのです。私は、避難させていただきましたが、アイザックは彼らに向かっていきました。」
カティアは、安堵したからか目に涙を浮かべ流れた涙をハンカチで抑えながら答えた。
カティアに寄り添い、背中をさすっているのは夫人お付きの侍女だろうか。
「そうか…。大変であったな、もう我々が来たから安心して欲しい。さぁ、行こうか。他に屋敷内に人はいるだろうか?」
「すみません、分かりません…。ただ、男達は皆、押し入った人に向かって外へ行ったと思います。」
「分かった。食事は摂ったかな?温かい炊き出しのスープを街の中心部でやっているから、そこへ行くといい。」
良かったですね、と侍女がカティア夫人の背中をさすりながら手を添えて地下食料庫から出る。
念のためまだ奥に人が居ないかとイェフダとジョンは確認し、同じく食料庫から出ると、護衛の三人が屋敷の玄関ホールを入ってくる所だった。
「「「イェフダ様!」」」
「おお。炊き出しの方は良かったのか?」
「はい。幸いにも動ける領民もおりますから、任せて来ました。」
「そうか。では、悪いがジューシヴィリ、彼女らを炊き出しへ連れて行ってくれるか。カティア夫人とその侍女だと思う。」
「分かりました!では、申し訳ありませんが歩いて行けますか?」
「ええ。大丈夫よ。お願いします。」
そう言って、カティアとその侍女はジューシヴィリを伴って炊き出しをしている街中の広場へと向かった。
一方、イェフダ達はもう一度屋敷へと入り、上の階に人が居ないか確認したが他には誰も居なかった。
「うーむ…では我らでこれより奥も捜すか。」
ハルヴァシ子爵の屋敷の裏手は山頂へと続く山が広がっている。奥にブドウ畑が広がっているのだ。
街の方にはアイザック子爵は居なかった為、こちら側も捜す事とした。カティアも生きていた事にホッとし、アイザックも生きていて欲しいと願いながらイェフダは捜索を続けた。
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