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25. お出掛け

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 茶会から二日。


 その間、オティーリエはいつもならば事をしたために忙しく感じた。

 結婚式のドレスをフォルラートと一緒に決めたのだ。

 形は大方決まっていたので、あとは細かいデザインと装飾を二人で意見を出し合ったのだった。

 オティーリエは、王女ではあったが宝石類や着飾る事にはそこまで興味がなかった。
一般的な高位貴族であれば、ドレスで着飾る事は興味があり宝石類も高価であるから毎回新調する事が無いにしろあれば欲しいという者がほとんどだ。高価なものを身につけられればそれだけ裕福な一族だと見栄を張れるし、素敵なものを身につけられれば流行に敏感だと見せるける事が出来る。

 けれどオティーリエはそんな事をする暇があれば少しでも他の事を学んだ方が自分の為だと思っていた。散財をしないようにわざとそう教え込まれたのもあるが、この宝石はどこで採れたのか、ドレスの生地は何か、そのような事が気になってしまうのだ。


 だが、オティーリエはフォルラートとのドレスや装飾品選びは殊の外楽しかった。初めは何でもいいと思っていたのだが、フォルラートが上手く言葉選びをしてくれたからか一緒に選ぶのは楽しいと思わせてくれたのだ。


(フォルって、私が着るドレスの話だから興味がないと思ったのだけれど違うのね。『隣に並ぶオティーリエと色をおそろいにしたい』とか、『この宝石をドレスの至る所に散りばめよう』なんて。フォルのウキウキとした顔を見ているとこちらまで楽しくなってくるから不思議だわ。カルラテューロビンゲン国での侍女にいつも見立ててもらってたから今回もイボンヌにしてもらおうと思ったけれど、フォルと選ぶのも悪くないわね。)


 庭は、ハッソがやっとこちらに専念出来ると言ったのであとは任せる事にした。結婚式が終われば、オティーリエはこの棟から出て王宮の居住区へと引っ越すからだ。

 ハッソから、

「手入れが行き届かないままこちらへお通しして、本当に申し訳ありませんでした。本来なら別棟ではなく、本棟の三階にある客室にお通ししようかとも思ったのですがそちらの窓から、燃えてしまった庭が見えてしまったものですから…。」

 と謝られた。
オティーリエはそれに対して答える。

「客室よりも落ち着けたわよ。むしろ、庭に近くて土いじりも出来て楽しかったわ。
庭園も、少ない時間だったと聞いているけれどとても素晴らしい出来栄えだったわよ。ハッソは職務を全うしたのでしょう?良かったわよ。」

「そう言われて何よりです。ご結婚された後には、フォルラート様とご一緒の部屋になられると思いますが、もしも土いじりされたくなりましたらまた仰って下さい。」

「そ…そうね。ここ、居心地が良かったけれど、そうなるのよね……。ありがとうハッソ。これからもよろしく。」

「はい、もちろんでございます。」

(フォルと同じ部屋…!) 

 オティーリエは、ハッソに言われたその事を改めて考えてしまい少し照れてしまった。




☆★

「たまには息抜きも必要だ。片意地張らず、砕けた感じでいこう!」


 そうフォルラートに言われ、連れて来られたのは王宮の元に広がる王都だった。


 淑女教育や、それ以外の様々な事を詰め込まれたオティーリエにとって、王都へ下り、庶民のように街を見て回るなんて寝耳に水だったのだ。

(慰問事業として、教会に奉仕活動の一貫で訪問した事は数える程はあったけれど…そんな事していいのかしら!?はしたないというか…)

 けれど、フォルラートに誘われたら行ってみたいと思ったので、恐る恐るではあるが頷いたのだった。



「すごい…活気づいてるわね……。」


 オティーリエが、王宮を出て自国の教会に出向いた時は馬車を使った為、道中を見る事はなかった。馬車の小窓を開けてはいても、そこから外を覗く事ははしたないと教育係に言われていた為、外を見る事はなかったのだ。

 対して、この国の王都には、大通りを挟んだ両側に店が並んでいて、店先に店主が出てきて呼び込みをしていた。
 行き交う人々も、服装はそれなりの作りで、顔付きも表情が活き活きとしていた。


「そう感じてくれて嬉しいよ。庶民の生活は、まだまだ貴族のそれとは比べものにならない程大変らしいんだけど、貧富の差が開き過ぎないように、出来る事はさせているんだ。でも、自分の目で見て、聞いてみないと実際分からないだろ?だからこうやってたまには来ているんだよ。」

「すごい…。」

 オティーリエは、フォルラートの自分の目で見て耳で聞いて確認するという事に酷く驚いた。確かに、書類だけでは分からない事もたくさんある。

(今まで、私が#お母様____王妃#の仕事を引き受けていた時の書類整理はなんだったのかしら…。効率の事しか考えず、担当の部署や人に割り振ってやっていたけれど、自分で感じる事って大切なのかもしれないわ…。)


「オティ、何か食べたいものはある?俺はね、オススメはブラットヴルストかな。」

「ブラットヴルスト?」

「ああ。細かく刻んだ牛肉をパンに挟んで食べるんだよ。あ、あった。おいで。」

 そうフォルラートはいい、早速焼いている店へと向かう。オティーリエの手をさりげなく掴み、手を握ってゆっくりと歩き出した。



「はい、これ。」

 ブラットヴルストを二つ購入したあと、近くの広場のベンチに座り、フォルラートはオティーリエに一つを手渡した。

「オティはやった事ないか?こうやって、齧りつくんだ。」

 そのパンを口元へ持っていき、ガブッと噛みついたフォルラートにオティーリエは驚いた。

(え!?王太子という立場なのにそんな!…でもなんて美味しそう…店の近くから、香ばしい美味しそうな匂いがしていたのよ。…ええい、こうなったら!)

 オティーリエも今までは見本となる淑女となれるよう礼儀作法を教わっていた為、このように直接齧りつくなんてした事がなかった。しかも、店の中ではなく、外のベンチでとは。
 遠い昔、山脈の屋敷ではピクニックをした時に木陰で敷物を敷いてその上で持ってきたお弁当を広げて食べたような気はするがそれも幼い頃の話だ。


 けれど、オティーリエはやってみるととても美味く感じ、隣に座っているフォルラートに微笑みながら言う。

「美味しい!」

「だろう?良かった!…なぁオティ、やらなきゃ行けない時以外は、踏み外したりしなければ自由にしていいんだ。」

「え?」

「いいんだ。俺がいる。オティがたくさん、いろんな事を学んで来た事は知ってる。でも、やりたい事を我慢しなくていいんだよ。」

「やりたい事…。」

「そう。たまには、こうやって調査をしに来よう!オティとは自然体でいたい。そしていつかのように、笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣いてくれていい。」

「フォル…。」

「そうやって、本当の夫婦となろう。オティ、大好きだよ。昔のように、たくさん笑ってたくさん泣いて、辛い事も悲しい事も一緒に共有していこう。」

 そうフォルラートに言われ、オティーリエは食べながらではあるがとても嬉しく感じた。

(嬉しい…!政略結婚で、嫌がらせされているとか思ってしまったけれど、今はとても幸せだわ。お互いに想いあえるなんて思ってなかったもの!)

 その日の出来事はきっと忘れないだろうとオティーリエは思った。
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