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20. 下働きの言葉

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「大丈夫か?オティーリエ。」

「フォル、ありがとうございます。ええ、私は大丈夫ですわ。あ、あなた!大丈夫なの?」

 フォルラートは、先ほどベンヤミン伯爵に向けた冷たい声ではなく、優しい声でオティーリエに聞く。そのいつものオティーリエに向ける声を聞き、オティーリエは少しだけ安心した。

 オティーリエはフォルラートに目を向けた後に小間遣いへ視線を送ると、今まで固まっていたブランズは意識を取り戻し、慌ててお礼を言った。

「あ、お、オティーリエ様、ありがとうございます!フォルラート様も助かりました!あの方はいつも仕事を増やすので、僕ら使用人の間でも困っていたんです。あ!水!持っていかないと!」

「おい、ブランズ。その話はまた聞かせてもらう。それは誰に持っていくつもりだったのだ?」

「は、はい。客室の、異国から来られている方にです。あの方は食事中にたくさん水を飲まれるのです。これはお代わり用です。」

 それを聞いたオティーリエはすぐに指示を出した。

「それは大変ね。ニダ、ここの片付けってあなたに任せても大丈夫?」

「は、はい!もちろんです!」

「では、ブランズ、あなたはその方にお水をお持ちして。ここはニダに任せなさい。」

「す、すみません!ありがとうございます!失礼します!」

「あ!待って、ブランズ!その方はどなた?」

「は、はい。モーニカ公女様です。ロスキール公国の。」

「…マレックの婚約者候補のか?確か、マレックと同じ年齢の。」

 フォルラートがすかさず口を開いた。

「はい、恐らく。」

「マレック様…フォルの弟君?」

 オティーリエは頭の中にある知識から取り出してそう言う。そして瞬時に、ブランズへと言葉を重ねる。

「ブランズ、食事中に水を飲まれる回数が多いのは、食事が合わないのではないかしら?このバンニュルンベルク国の味付けは濃いわよね?私は、香辛料が効いていて美味しいと思うけれど、苦手な人もいると思うの。それとなく確認してみて。それと、ロスキール公国は寒い地域だけれど果物が良く穫れるのよね。そういうのを食事に出されると喜ばれる気がするわ。アップルと牛肉のステーキのように、火を通して食事に出てくるそうよ。」

「!分かりました!ありがとうございます!」

 そう言うと、ブランズは急いでまた元来た道を戻って行った。

「ニダ、悪いわね。お願い。怪我には気をつけるのよ。」

「はい!」

 オティーリエはニダにそこを任せ、フォルラートと食堂へ向かう。



「オティーリエ、モーニカ公女の事よく気づいたな。」

「え?いいえ、まだそうと決まったわけではないので分かりません。違う場合もあるもの。
そういえばマレック様にも婚約者候補がいらっしゃるのですね。」

「ああ。ロスキール公国からの強い要望でな。マレックは乗り気ではないから、候補としている。」

(なるほどね…マレック様は確か今年で八歳だものね。それにしても、ロスキール公国は、バンニュルンベルク国の北東の、海を越えた島国よね。あまり他国とは交流を持たない国だったけれど強い要望って、政略結婚って事なのかしら?)

 と、オティーリエは考える。
ふと、先ほどの事も思い出して疑問に思った事をフォルラートへとぶつける。

「フォルラート様、ブランズが言っていた、いつもって…」

「ああ。気になるな。カスパル?」

「はい、確認します。それから少しは裏は取れてます。」

「そうか。仕事が早いな。よし、じゃあ父に報告をしてくれ。」

「分かりました。取り急ぎ、でいいですね?」

「ああ。後で俺から話す。」

「では行って参ります。」

 そう言うと、後ろに付いていたカスパルは去って行った。


「オティーリエ。これでやっと、あの女を引き剥がせる。っと、あの女は?いないのか?」

「あの女、ですか?」

「お言葉ですが、ザーラの事でしょう。ザーラは、今は洗濯係をしているはずです。…出勤していれば、ですが。」

 オティーリエがすぐに答えられなかった為、傍にいたイボンヌが割り入って答えた。

「なるほど。イボンヌ、ザーラはまた休み?」

「分かりません。私がオティーリエ様の元へ来るまでには出勤していなかったので。昨日は出勤しておりませんでした。」

「そうか。まぁ、別に俺は反対だったからいない方がいいのだが、何か企んでいたとしたら厄介だな。あの女は突発過ぎて読めん。毎回悪い意味で驚かされるからな。」

 そう言われ、オティーリエもフォルラートとの初めての顔合わせでいきなり同席しようとしたのには驚いた為に一つ頷いた。

「そうですね。でも…一途なのですね。」

「ん?何がだ?」

「ザーラは、フォルの事を好きなのでしょう。だから…」

 オティーリエは、そのように真っ直ぐに気持ちを伝えるザーラがいっそ清々しいほどだと思った。自分が嫁いで本当にいいのかとも考える。だが、夫となる人物が遠い昔に遊んだ懐かしい人だと分かった今、代わろうとは全く思ってはいないれど。

「ふん!あいつは、俺を見ていない。俺の王太子としての地位しか見ていないからな。だから一途などではない!それより俺が…なのは…」

「え?」

(最後の方、フォルにしては小さな声で聞き取れなかったけれど…あ、食堂に付いたわ。ま、気にしなくてもいいわよね。大事な事なら教えてくれるわよね。)

 オティーリエは深く考えずにそう思った。


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