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18. それは、現実

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 部屋の扉が叩かれたようで、フォルラートが返事をする。その事でオティーリエは顔を上げ、扉の方に目を向けるとニダがワゴンを引いて入って来た。


「オティーリエ、少し食事をしよう。一口でもいい、どれから食べる?」

 フォルラートがそうオティーリエに声を掛け、ニダへはワゴンを自分の方へ持って来るように言った。
 そして、フォルラート自らワゴンの上にある食事を手に取ろうとし、ニダには、控えるようにと言いつける。


「えっと…」

 ぼんやりとしていたオティーリエはだんだんと、これは現実なのだと思い始め戸惑うのだが、フォルラートはどこ吹く風で、甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている。

「さぁ、どれがいい?」

 ワゴンには、食べやすいように一口大の果物やパンを浸したミルク粥もあった。飲み物は水や果実水もある。

 フォルラートはなんだか楽しそうに、オティーリエに聞いている。
 オティーリエも、なぜと言っていたフォルラートが自分に構うのかがよく分からなかったが、熱がまだある為に頭が回らない。

(どうしてフォルラート様がいらっしゃるのかしら。お仕事は?でも…調子の良くない私にこのようにお世話を買って出て下さるなんて…なんだかこそばゆいわ。嬉しいというか…。確かに少し何か食べたいし…やって下さるのならいいわよね。それになんだか、とても懐かしいわ。)

 オティーリエはそのように考え、

「アップルが、食べたいです。」

「そうか!あとは、オティーリエの好きなピーチもあるぞ!」

「ピーチ?…はい、それも食べたいです。」

(あら?なぜ私の好物をご存じなのかしら。でも、あるのは嬉しいわ。あのみずみずしさがたまらないのよね。)

 オティーリエが言った言葉に、フォルラートは切り分けられた果物の皿から小皿に取り入れ、フォークに刺してオティーリエの口元へ持って行く。

「え…?」

「ほら、早く食べないと果汁が垂れるよ。口を開けて。」

 オティーリエは言われるがまま口を開けると、そこへフォルラートが小さく切られた果物を入れ、食べさせてくれる。

(王太子という立場の方にこんな事…!でも、フォルラート様は笑顔を向けて下さっているのよね。なんだか、昔もこんな光景あったような…)

 口の中の物を食べ終えたオティーリエは、話し掛ける。

「あの…前も、このような事…」

「ん?まさか、オティーリエも覚えてくれているのか?それは嬉しいな!あの頃は本当に、オティーリエいつも熱を出していたからね。」

(あの頃…?小さかった?もしかして…!)

「グロッケンタイル山脈の屋敷で…?」

「ああそうだよ。オティーリエは小さかったからね、覚えていてくれたなんて嬉しいよ!でもオティーリエが八歳くらいになってからか?いつの間にか来なくなってしまったから、会えなくて淋しさもあったよ。俺は会えるかと期待して毎年行っていたのに。」

(あの時の男の子は、フォルラート様だったの…!)

 オティーリエは、昔懐かしいと思ったのは勘違いではなかったのだと思った。そして、その事に少し嬉しくもあった。

(そうなら、フォルラート様は見ず知らずの人では無かったのね!)

「私が八歳になったら、勉強に忙しくなったのです。本当はあちらへ行きたかった。でも私は王女で、ゆくゆくはどこか王家の利益となる家柄へ嫁ぐ身だと、それこそたくさん学ばされ、そんな楽しかった日々も忘れないと、と…」

「そうか。…忘れなくていい。それに、あの時呼んでくれていたようにフォル兄と呼んでくれてもいいのだよ。」

「まぁ!フフフ…もうあんな子供ではありませんわ。」

「そうだね、兄、ではないか。フォル、と呼んでよ。」

「でも…」

「いづれは夫婦となるんだからさ、オティーリエ。…いや、オティと呼んでも?」

「そ、れは…!」

 昔、オティーリエが自分の名前をそう言っていたのだった。

「いい?それとも、違う呼び名がいいか?」

「…はい、オティと。」

「やだなぁ、昔を思い出してくれたなら、そんな他人行儀に話さないで?」

「………うん。」

「あぁ、オティ!!」

 急にフォルラートに抱きつかれ、オティーリエはもう頭が追いつかないし、熱もあったのに随分と話をした為、そこで意識が途切れてしまった。
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