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17. 夢見心地

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(あぁ…懐かしい…。)


 オティーリエは、山脈にある山頂の屋敷の近くにある、湖の近くを誰かと走り回っていた。

 次には場面が変わり、ボートに乗り釣りをしているのを横で見ていたりした。


 その頃のオティーリエはまだ幼く、山頂の気候に合わせるのが難しかったようで、すぐに熱を出していた。


(あぁ、そういえば楽しく遊んだ日の夜はよく熱を出していたわ。)


 お母様も少しは傍にいてくれたが、夜眠る時にはベッドで一人で眠る。それが酷く淋しくて、よく涙を流し熱に魘されながら早く朝にならないかと願いながら布団に潜り込んでいたと今思い出しても切ないながらも懐かしくも思った。



 ふと、手に誰かの温もりを感じ、お母様かと思い微笑む。

(温かい…。誰かに触れるってこんなに温かいのね。)


 オティーリエは長い間、淑女教育で時間を費やし人と接するのも最低限であった為に人の温もりを忘れていた。


 夢うつつのまま目を覚ますと、ベッドの傍にフォルラートがいたので、これは現実ではなくまだ夢の中なのかと思う。


「ん…」

「オティーリエ、体調はどうだ?大丈夫なのか?」

「フォルラート様…?」

 そういえばこのように目覚めるとお兄様とよく一緒に遊んでいた男の子が傍にいてくれた事、遠い昔にあったような…と思っていると、フォルラートがイスから立ち上がると同時に手を繋いでいてくれた温もりが無くなった事で相手はフォルラートだったとオティーリエは気づく。

(あぁ…向こうへ行ってしまった。手を繋いでいてくれたのね。でも、現実でこんな事あるはずないもの、結婚は反対だとか言っていたものね。だったらやっぱり夢の続きかしら。)

 扉の入り口近くにいるニダにぼそぼそと話したフォルラートはまた、オティーリエの元へやってきて座る。

「オティーリエ、済まなかった。体調を崩してしまったのだろう?やはり、気候がよくないか…。」

 オティーリエは、熱がまだある為にまだ少しぼんやりとした頭でその言葉に返事をする。

(夢をまだ見ているのよね。だったら、片意地張らずに話してもいいわよね。)

…?いいえ、ただ、寝ていた時に寒くて…けれどなんだか負けたような気分になるので、我慢しておりました。こちらこそ、ご迷惑お掛けしました。」

「そうか。負けではないぞ。心の内を話してくれるのは、信頼されているようで嬉しく思うからな、話してくれていいんだ。」

 オティーリエはそう言われ、信頼されているよう、という言葉にそういうものなのかと思った。
以前ザーサが発した『このくらいの冷えで?弱い体。』と言われたのにカチンときたので我慢していたのだが、それを負けではないと言ってくれたのだ。

「そうなの?でも、私は王太子妃になるのだから強く逞しくないと、よね?」

「ハハハハ!王太子妃だからって強い奴ばかりではないぞ。わざわざそうならなくても、ありのままでいいんだ。」

「ありのまま…。」

「そうだ。オティーリエはまさか、取り繕っていたのか?」

「そんな事はないわ。私は、王女として常に人々の見本となるようにと八歳より育てられましたから、もう身に付いているのですわ。」

「そうか…そんな事をしなくていい……いやそうではないな。俺と二人の時は、別に幼い頃のように無邪気であどけない表情をしてくれていいんだ。隠さなくていい。」

「まぁ…!フフフ。まるで、昔の私をご存じかのようね。でも、もう忘れましたわ、そんな昔の事。だって…」

「忘れてしまったのか?ん?だって、何だ?」

「教育係から、そう教わりましたから。無闇に笑ったり、微笑んだり、感情を表に出したりしてはいけませんと。」

「そうか。…でもそれはきっと、王女だからだろう。王太子妃なら、笑っていいんだ。微笑んでいい。俺になら感情を表に出していいぞ。」

「そうなのですか?それでしたら…私が学んでいたのは無駄…?」

「いや、そうではない。立場が変われば、対応も変わるという事だ。難しい事を考えずに、オティーリエのしたいようにすればいい。」

「したいように…。」

 オティーリエはそう言われ、夢であるだろうと思っているのにフォルラートの言葉に感銘を受けていた。
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