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8. 夕食は共に
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日もすっかり沈み、夜の帳が下り始めた頃に夕食を摂りに行く。
オティーリエは、一人で食べるならこの部屋で摂ればいいが、今日は顔合わせとして王族用の食堂でフォルラートと二人で食べる事となった。
初顔合わせとして、オティーリエは身だしなみを整える為に着替えをし、明るい花柄の清楚な雰囲気のワンピースに身を包む。茶色がかった金髪で、冷たく見える印象を少しでも柔らかくする為と、オティーリエが花が好きなのでそのワンピースを選んだのだ。
イボンヌが先導し、オティーリエが後ろを歩き、その後ろにニダがいる。
ザーラが、
「私もついて行くわ!」
と言ったのだがイボンヌにまたも叱られていた。
ザーラは王宮のすぐ目の前に広がる王都にタウンハウスがあり、そこから通っている。ザーラの父親もベンヤミンと言って王宮に勤めているので、行き帰りは馬車で親子一緒にしている。その為ザーラは、定時で残業もせずに帰るのだ。今からザーラが付いてくると残業になる為に、追い返されていた。
ちなみにイボンヌとニダは使用人棟で寝起きしているので、夜も仕事をする。
(なぜ、あれだけ仕事にやる気を感じられなかったのに今からだと残業になるのにも関わらず付いてこようとしたのかしら?)
とオティーリエは首を傾げた。
「こちらです。」
食堂に着いたイボンヌが、部屋の前で止まりそう言った。
扉は開いているので、イボンヌがまたも先導し、声を掛けながら入って行く。
食堂は、小部屋となっていた。テーブルは六人ほどが座れそうな長方形のテーブルで、まだフォルラートは来ていなかった。
王族用の食堂は部屋が複数あり、大人数で食べる場合はもっと広く、少人数の場合はこのように小さな部屋を使うのだ。
オティーリエが席に着くと少しして、フォルラートもやってきた。
(あの人が王太子…金髪で瞳は青いし、肩幅もがっしりとしているのね。顔も切れ長な目で睨んでいるように見えなくもないし口元もムスッとはしているけれど、格好はいいわね!ただ、どんな性格なのかしら。あら?でも、どこかで…?)
オティーリエは、一人そう思った。
フォルラートが席に付いてすぐ、言葉を発した。
「昼間は迎えに行けず大変申し訳なかった。私は、この国の第一王子、フォルラートだ。はるばる良く来てくれた。」
「いえ。私はオティーリエと申します。これから、末永くよろしいお願い致します。」
フォルラートは無表情のままだったが、オティーリエはにっこりと微笑んだ。
「う、うむ。早速だが、私はこの結婚には反対であった。王族としての責務としてバンニュルンベルクを繋いでいかなければならないが、そればかりはどうとでもなる。君が乗り気ではないのなら最悪、遠縁から養子に迎える事も出来る。だから、まずはこの気候に慣れてほしい。一月後に結婚式が控えている。それまでは王太子妃としての自覚さえ持っていてくれれば、何をしていても構わない。」
(なるほど…つまりは、夜は共にしないという意味ね。結婚を反対って事は、やはりお怒りなのかしら。でも、この顔合わせをしてくれるだけ有り難いわよね。)
「分かりました。」
「随分と呆気ないな…質問とかはないか?」
(呆気ない?言った事に対し返事をしたまでだわ。でも、フォルラート様のご意志を言って下さったのはありがたいわ。これで私がどのように動けばいいのか示されたわけだもの。)
「どのような意味でしょうか。私は、確かに父から『両国の架け橋になれ』とは言われましたが、私の役割は自分でも理解しておりました。ですので、フォルラート様のお考えに従うまでです。」
「そ、そうか…。」
「あ、この際ですからはっきり申し上げておきます。私に嫌がらせなんてなさっても無駄ですから。」
「嫌がらせ?」
フォルラートは何の事かと驚き聞き返した。
「庭をあのような状態のまま、私を通すとはという意味です。ま、私にしたらそれもありがたいのですけれどね。」
(私も庭弄りは教わっているもの。一ヶ月しかあの部屋で過ごさないけれど、自分好みに仕上げさせてもらうわ!)
そうオティーリエがこの際だからと強気に話すと、フォルラートが口を開く前に廊下が賑やかくなり、何故か夜会でも出席するような真っ赤なドレスに着替えたザーラが入ってきた。
オティーリエは、一人で食べるならこの部屋で摂ればいいが、今日は顔合わせとして王族用の食堂でフォルラートと二人で食べる事となった。
初顔合わせとして、オティーリエは身だしなみを整える為に着替えをし、明るい花柄の清楚な雰囲気のワンピースに身を包む。茶色がかった金髪で、冷たく見える印象を少しでも柔らかくする為と、オティーリエが花が好きなのでそのワンピースを選んだのだ。
イボンヌが先導し、オティーリエが後ろを歩き、その後ろにニダがいる。
ザーラが、
「私もついて行くわ!」
と言ったのだがイボンヌにまたも叱られていた。
ザーラは王宮のすぐ目の前に広がる王都にタウンハウスがあり、そこから通っている。ザーラの父親もベンヤミンと言って王宮に勤めているので、行き帰りは馬車で親子一緒にしている。その為ザーラは、定時で残業もせずに帰るのだ。今からザーラが付いてくると残業になる為に、追い返されていた。
ちなみにイボンヌとニダは使用人棟で寝起きしているので、夜も仕事をする。
(なぜ、あれだけ仕事にやる気を感じられなかったのに今からだと残業になるのにも関わらず付いてこようとしたのかしら?)
とオティーリエは首を傾げた。
「こちらです。」
食堂に着いたイボンヌが、部屋の前で止まりそう言った。
扉は開いているので、イボンヌがまたも先導し、声を掛けながら入って行く。
食堂は、小部屋となっていた。テーブルは六人ほどが座れそうな長方形のテーブルで、まだフォルラートは来ていなかった。
王族用の食堂は部屋が複数あり、大人数で食べる場合はもっと広く、少人数の場合はこのように小さな部屋を使うのだ。
オティーリエが席に着くと少しして、フォルラートもやってきた。
(あの人が王太子…金髪で瞳は青いし、肩幅もがっしりとしているのね。顔も切れ長な目で睨んでいるように見えなくもないし口元もムスッとはしているけれど、格好はいいわね!ただ、どんな性格なのかしら。あら?でも、どこかで…?)
オティーリエは、一人そう思った。
フォルラートが席に付いてすぐ、言葉を発した。
「昼間は迎えに行けず大変申し訳なかった。私は、この国の第一王子、フォルラートだ。はるばる良く来てくれた。」
「いえ。私はオティーリエと申します。これから、末永くよろしいお願い致します。」
フォルラートは無表情のままだったが、オティーリエはにっこりと微笑んだ。
「う、うむ。早速だが、私はこの結婚には反対であった。王族としての責務としてバンニュルンベルクを繋いでいかなければならないが、そればかりはどうとでもなる。君が乗り気ではないのなら最悪、遠縁から養子に迎える事も出来る。だから、まずはこの気候に慣れてほしい。一月後に結婚式が控えている。それまでは王太子妃としての自覚さえ持っていてくれれば、何をしていても構わない。」
(なるほど…つまりは、夜は共にしないという意味ね。結婚を反対って事は、やはりお怒りなのかしら。でも、この顔合わせをしてくれるだけ有り難いわよね。)
「分かりました。」
「随分と呆気ないな…質問とかはないか?」
(呆気ない?言った事に対し返事をしたまでだわ。でも、フォルラート様のご意志を言って下さったのはありがたいわ。これで私がどのように動けばいいのか示されたわけだもの。)
「どのような意味でしょうか。私は、確かに父から『両国の架け橋になれ』とは言われましたが、私の役割は自分でも理解しておりました。ですので、フォルラート様のお考えに従うまでです。」
「そ、そうか…。」
「あ、この際ですからはっきり申し上げておきます。私に嫌がらせなんてなさっても無駄ですから。」
「嫌がらせ?」
フォルラートは何の事かと驚き聞き返した。
「庭をあのような状態のまま、私を通すとはという意味です。ま、私にしたらそれもありがたいのですけれどね。」
(私も庭弄りは教わっているもの。一ヶ月しかあの部屋で過ごさないけれど、自分好みに仕上げさせてもらうわ!)
そうオティーリエがこの際だからと強気に話すと、フォルラートが口を開く前に廊下が賑やかくなり、何故か夜会でも出席するような真っ赤なドレスに着替えたザーラが入ってきた。
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