上 下
21 / 27

21. 義弟との遭遇

しおりを挟む
 次の日。

 オティーリエは朝、イボンヌから明日、茶会に参加するようにと言われた。

(茶会…)

「モーニカ様を元気付ける会、とでも申しましょうか。王妃様が主催されたのです。どうやら、モーニカ様が王宮に着いたその日に予定されていたのですが、準備などいろいろとありまして明日になりました。そこで、内輪だけではありますがせっかくならとオティーリエ様もご一緒にという事となりましたので。」

「そう…モーニカ様を元気付けるという事は、元気ではないの?」

 オティーリエは、元気付けると聞いてそうイボンヌに聞く。

「あ、いえ、王妃様がそのような名目で開くのですが要は、マレック様とモーニカ様との顔合わせです。」

(なるほど…マレック様は乗り気ではないと言われていたから、人数が多い方が顔合わせのようには見えないから、って事かしら。)

 オティーリエはそう思い、元来の世話焼きの性分がムクムクと胸に沸き、

(フフフ。なんだか面白そうね。)

 と密かに微笑んだ。




☆★

 茶会は王宮の本棟の奥の、王家の居住区域で行う。

 オティーリエは一足先に見れないかと聞き、侍女と一緒にならと言われ、イボンヌとニダと一緒にそちらの方へ歩いて行く。


 庭園では、麦わら帽子を被った男性が一人忙しなく花の手入れをしている。明日の茶会の為最後の確認をしているのだ。

「あの人は、フーゴの師匠かしら?」

 オティーリエが呟くと、イボンヌが答えた。

「はい。庭師のハッソです。」

 オティーリエは声を掛けようか迷ったが、仕事の邪魔になると思い、先へ進む。


 と、庭園の奥には、高くそびえる屋根の建物があった。
何処となく見たことあるような気がしたオティーリエは、またも呟く。

「あれは?」

「あちらは教会です。あの奥には、王家の墓地があります。」

(教会ね。あぁ…なるほど、そうだわ!山脈にあった教会に雰囲気が似ているのね。)

 そう思ったオティーリエだが、なんだか人の言い争う声が聞こえたのでその建物に近寄ると、開いていた入り口から中が見えた。


 中は吹き抜けで天井が高くなっていてとても明るい。
木製のベンチが左右に置かれており、間には赤い絨毯が真っ直ぐ正面へと伸びていた。
そして前方の右側にオルガンがあり、そこに座っている人と、その隣で立っている人がいた。

「もうやだ!明日なんて無理だよ!なんで僕にやらせるんだよ!絶対弾かないから!」

「マレック様…そんな事仰らずに。ニコレッタ様王妃が、明日どうしてもと頼まれましたよね?」

「そうだけど!なんで僕が弾かないといけないんだ!なんでミロが断ってくれなかったんだ!僕は弾きたい時に弾く!弾けと強制されてまでやりたくない!」

「マレック様!!」


 マレックとその側仕えのミロが言い争いをしていたのだ。

(オルガンの前に座っている方がマレック様ね。どうされたのかしら。)

 オティーリエは、なんだか見過ごせないと思い近寄る。

「失礼致します。どうなさったのですか?」

「誰だ!?」

「あなたは…!」

 マレックと側仕えのミロは、いきなり入ってきた人物に驚いたが、ミロは側仕えであるからさすがにオティーリエだと気づく。

「お初にお目にかかります。私は、テューロビンゲン国から参りましたオティーリエと申します。マレック様、お見知りおきを。」

「お、お前か!兄上と結婚するという奴は!」

 マレックはそう自己紹介したオティーリエに、そう悪態を付く。兄を取られたようで若干寂しさもあるのだ。


「あら。第二王子ともあろう方が、言葉遣いもきちんと出来ませんの?」

「…!で、出来るに決まってるだろ!」

「フフフ。…ところで、マレック様はオルガンが得意でありますの?」

「な、なんだよ!それがお前と関係ないだろうが!」

「マレック様!」

 マレックは機嫌の悪かったのもあり、怒りの矛先をオティーリエに向け、イライラと言葉をぶつける。それでもオティーリエは大人の対応で、話を聞こうとした。

「大きな声で言われておりましたので、少しだけ聞こえてきましたのを照らし合わせると…明日の茶会で、マレック様はオルガンを弾かれるのですか?」

「…!どうしてそれを!」

 だからマレックとミロの会話から推察したのだが、とオティーリエは苦笑しながらマレックの所へツカツカと靴音を鳴らしながらさらに近寄り、マレックが座っているオルガンを弾く為に座る長椅子の隣へ座る。

「な…!お、おい!お前!隣に座るなんてはしたないぞ!」

(まぁ…!顔を赤くして。フフフ。可愛らしいわね。弟がいたら、こんな感じなのかしら。)

「弾かないなら、どいて下さる?私も久々なのだけれど、オルガンがあったら弾いてみたいもの。」

「お前、弾けるのか?」

 マレックは驚きオティーリエに聞いたが、オティーリエはその答えには返さず、にっこりと微笑み、鍵盤に両手を添え、弾き始めた。

(あぁ、懐かしいわ!)

 初めはゆっくり、少しすると軽やかに弾くオティーリエは、長らく弾いていないとは思えない程の出来栄えで。弾き終わった後のオティーリエは、マレック様にまたも微笑み、

「はぁ、久々!やっぱり弾きたくなるわよね!」

 と爽やかな顔をしてそう言った。

 それを見ていたマレックは、オティーリエから視線をオルガンに向け、恐る恐る弾き出した。

(ふうん…八歳にしてはなかなか上手い出来栄えなのね。)

「どうだ!僕だって!」

「上手いですわ!さすがですわね!それを、明日聴かせて下さるのですか?」

「…僕が弾くのをそんなに聴きたいのか?」

「え?いえ別に。マレック様は、聴きたいと言われたら弾くのですか?聴きたいと言ってくれなければ、我慢するのですか?そこにオルガンがあるのですもの、勿体ないですわよ。」

 オティーリエがそう言うと、しばらくオルガンの鍵盤を見て考えていたマレックは、

「…仕方ない。明日、弾いてやるよ。」

「マレック様…!」

 隣に立っていたミロが、あからさまに安堵しているのが伺えた。それを見てオティーリエは一つ頷くと、オルガンに向かって懐かしい曲を弾き出した。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

麗しの男装騎士様は、婚約破棄でどう変わる?

真弓りの
恋愛
ああ、本当に綺麗だなぁ。 目の前を睦まじい様子で歩く二人を見て、私は眩しいような気持ちで目を眇めた。 私が婚約者兼護衛として子供の頃から傍で守ってきた王子、ロベール様はこのところ一人の少女に夢中になっている。談笑する二人を一歩下がった位置から見守る私に、ロベール様から無情な決定が報告された。 「ああそうだ、レオニー。お前との婚約が正式に破棄される事が決定したぞ」 泣きそう。 なんでそんなに晴れやかな笑顔なんだ。 ************************* 王子の婚約者としての任も護衛の任も突如解かれたレオニー。 傷心で集中力を削がれた彼女は剣術の模擬戦で顔に傷を負う。高身長に婚約破棄、顔に傷。自分の女性としてのマイナススペックに苦笑しつつ騎士として生きていくことを決意する彼女の前に現れたのは……。 ◆1000文字程度の更新です

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話

はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。 父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。 成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。 しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。 それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。 (……なぜ、分かったの) 格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?【カイン王子視点】

空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。 身に覚えのない罪状をつらつらと挙げ連ねられて、第一王子に婚約破棄された『精霊のいとし子』アリシア・デ・メルシスは、第二王子であるカイン王子に求婚された。 そこに至るまでのカイン王子の話。 『まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/368147631/886540222)のカイン王子視点です。 + + + + + + この話の本編と続編(書き下ろし)を収録予定(この別視点は入れるか迷い中)の同人誌(短編集)発行予定です。 購入希望アンケートをとっているので、ご興味ある方は回答してやってください。 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScCXESJ67aAygKASKjiLIz3aEvXb0eN9FzwHQuxXavT6uiuwg/viewform?usp=sf_link

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

処理中です...