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7. 庭師見習い
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イボンヌは、ザーラに
「お茶の準備を!」
と言いつけ、退出させた。
ザーラは仕事を押し付けたいのか、ニダも無理矢理連れて部屋を出て行く。
「本当に申し訳ありません。」
一応、オティーリエに仕えている侍女の失態とあってもう一度カスパルに謝る。
「いえ…では。」
そう言って一礼し部屋を出て行った。
部屋には、イボンヌとオティーリエが残った。オティーリエは、部屋の奥にある大きな窓の近くのソファに腰を掛けた。
イボンヌも、その間にオティーリエへ謝っていた。
(イボンヌも大変ね。でも本当に教育が出来ていない成長もしないまま私の側に仕え続けるのだったら、公の場には出せないわ。一応私はあと一ヶ月で王太子妃になるのだもの。)
オティーリエはそう思いながら部屋を見渡した。
部屋は広く、内装自体は落ち着いた雰囲気のものだ。
ただ、オティーリエの部屋にはなかった、暖炉が置かれていた。
オティーリエは、勉強した中に周辺諸国の地理や、気候の勉強もしていた。だが、机上の空論ともいうべきか教科書や講師の先生からは教えてもらったが実際の寒さというものは体感したのは幼い頃にグロッケンタイル山脈の屋敷へ行った数える程であまり覚えてもいなかった。
「イボンヌ。あれは暖炉?」
「はい。テューロビンゲン国は必要ない気候でしたよね。」
「ええ。バンニュルンベルク国は寒いとは学んでいるけれど、どうなのか未知なのよ。」
「そうですね…寒い日は暖炉を使っても寒いです。テューロビンゲン国は一年を通して二十度前後なのでしたよね。対してバンニュルンベルク国は気温差が激しいので、体調を崩されませんよう。私どもも気をつけますから、寒い時は遠慮なく仰って下さいね。まずは、ここの気候に慣れるまでは特になさっていただく事もありませんからゆっくりお過ごし下さい。」
「ありがとう。ところで、ここから外へ出られるの?」
窓は大きく壁一面になっていて、開閉式になっている部分がある。レースのカーテンが引かれているが、そこから出入りしていいなら見てみたいとオティーリエは思った。
「え!あ…はい。その…出られますか?すみません、庭がまだ整っておらず…」
しかしイボンヌは、庭がまだ綺麗に整えられておらず、怒られるだろうとレースのカーテンを閉めていたのだった。
「あぁいいのよ。イボンヌはそこにいてちょうだい。心配もあるでしょう?さっきの二人を見てきてもいいわよ。」
「申し訳ありません…。」
(気休めを言うつもりはないわ。お遊びで私はここに来ているわけではないもの。)
そう思い、イボンヌにはその謝罪に首を上下に動かすだけに留めた。
イボンヌは素早く部屋を出て行く。
オティーリエは早速視線を庭へと向ける。
庭を見てみたいし、外の空気が吸いたいと外に続く窓のような扉を開け、出てみる。
と、少し奥の草が揺れる。
(動物でもいるの?)
オティーリエはそう期待し、歩みを進めると背中が見えた。どうやら、人だったようだ。
(なぁんだ!って、何しているのかしら。)
「誰?」
「わぁ!」
そう少し張り上げるような声で聞こえるように叫んでみると、その人物は叫び声を一つあげ、草が激しく動いて立ち上がった。
立ち上がったその人は、まだオティーリエよりも背が低い子供であった。手には両手いっぱいに根の付いていない草を持っている。
その為、オティーリエは、極力優しく言ってみる。
「…ごめんなさい、驚かせるつもりではなかったのよ。でも、誰かと思って。ここがどこか知っているの?」
「は、はい!もちろんです!僕は、フーゴと言います。庭師見習いです!今はここの草むしりを担当してます!でもなかなか綺麗にならなくて…。」
「…そう。どうしてフーゴだけがやっているの?庭師は?」
「はい、師匠のハッソさんは、今本棟の庭園を手入れしてます。そこを使おうとしていたので、そちらにかかりきりなんです。」
「…そう。で、あなたがここで草むしりを?」
「はい。本当は、草むしりなんてすぐ終わると思ったんです。ここに住まわれるオティーリエ様に綺麗な花を見てもらいたかったんですけど…。」
「手に持っているそれって、何かしら?」
「え?抜いた草です。」
それは、根が付いていない茎より上の部分だけを引っ張って取った草の一部分。
「…あなた、それが草むしり?」
「え?何言ってるんですか?そうですよ。」
フーゴはさも当たり前のように言っているが、それを見てオティーリエは頭を抱える。
(なんで草むしりのやり方も教えないでここを任せたの!?どおりで、短い草や長い草、バラバラに生えているわけね。短いのは、根元から引っこ抜かなかったものがまた生えてきているのでしょう。長い草は、まだ抜いていないのかしら。)
「あのね、草むしりって、草の根っこから取らないと意味ないわよ。根が残っていればまた生えてくるの。だから、根っこから抜くのよ。毎回そうやっていたら、いつまで経っても草は減らないわよ?」
「え!?そうなの!?」
フーゴは初めて知ったとばかりに目を丸くして驚いている。
「そうよ。きっと、草むしり用の道具もあるでしょう?こんなに生えているなら、土を掘り返した方が早いかもしれないわね。」
「わー、だからむしったのにまた生えてきたのかぁ…ありがとうございます!」
「フーゴ!?何しているの!!」
そこへ、ワゴンを引いたニダとザーラを引き連れイボンヌが入って来た。
ニダとザーラは、そのワゴンの近くで準備をしている。
イボンヌだけ外に出て来た。
「母さん…」
「え?」
「も、申し訳ありません!息子がなにかしましたでしょうか?」
先ほどザーラが失態をした時よりもさらに腰を深く折り謝っている。
「いいえ。フーゴは良くやっています。ただ、やり方が間違っていたので教えていたのです。」
「そうだよ!お姉さんが草むしりの正しいやり方を教えてくれたんだ!」
「こら!こちらはオティーリエ様です!いずれ王太子妃となられるお方ですよ!粗相のないように!」
「えー!?」
「いいのよ。じゃ、頑張りなさい。」
そう言ってオティーリエは、部屋に戻った。
「お茶の準備を!」
と言いつけ、退出させた。
ザーラは仕事を押し付けたいのか、ニダも無理矢理連れて部屋を出て行く。
「本当に申し訳ありません。」
一応、オティーリエに仕えている侍女の失態とあってもう一度カスパルに謝る。
「いえ…では。」
そう言って一礼し部屋を出て行った。
部屋には、イボンヌとオティーリエが残った。オティーリエは、部屋の奥にある大きな窓の近くのソファに腰を掛けた。
イボンヌも、その間にオティーリエへ謝っていた。
(イボンヌも大変ね。でも本当に教育が出来ていない成長もしないまま私の側に仕え続けるのだったら、公の場には出せないわ。一応私はあと一ヶ月で王太子妃になるのだもの。)
オティーリエはそう思いながら部屋を見渡した。
部屋は広く、内装自体は落ち着いた雰囲気のものだ。
ただ、オティーリエの部屋にはなかった、暖炉が置かれていた。
オティーリエは、勉強した中に周辺諸国の地理や、気候の勉強もしていた。だが、机上の空論ともいうべきか教科書や講師の先生からは教えてもらったが実際の寒さというものは体感したのは幼い頃にグロッケンタイル山脈の屋敷へ行った数える程であまり覚えてもいなかった。
「イボンヌ。あれは暖炉?」
「はい。テューロビンゲン国は必要ない気候でしたよね。」
「ええ。バンニュルンベルク国は寒いとは学んでいるけれど、どうなのか未知なのよ。」
「そうですね…寒い日は暖炉を使っても寒いです。テューロビンゲン国は一年を通して二十度前後なのでしたよね。対してバンニュルンベルク国は気温差が激しいので、体調を崩されませんよう。私どもも気をつけますから、寒い時は遠慮なく仰って下さいね。まずは、ここの気候に慣れるまでは特になさっていただく事もありませんからゆっくりお過ごし下さい。」
「ありがとう。ところで、ここから外へ出られるの?」
窓は大きく壁一面になっていて、開閉式になっている部分がある。レースのカーテンが引かれているが、そこから出入りしていいなら見てみたいとオティーリエは思った。
「え!あ…はい。その…出られますか?すみません、庭がまだ整っておらず…」
しかしイボンヌは、庭がまだ綺麗に整えられておらず、怒られるだろうとレースのカーテンを閉めていたのだった。
「あぁいいのよ。イボンヌはそこにいてちょうだい。心配もあるでしょう?さっきの二人を見てきてもいいわよ。」
「申し訳ありません…。」
(気休めを言うつもりはないわ。お遊びで私はここに来ているわけではないもの。)
そう思い、イボンヌにはその謝罪に首を上下に動かすだけに留めた。
イボンヌは素早く部屋を出て行く。
オティーリエは早速視線を庭へと向ける。
庭を見てみたいし、外の空気が吸いたいと外に続く窓のような扉を開け、出てみる。
と、少し奥の草が揺れる。
(動物でもいるの?)
オティーリエはそう期待し、歩みを進めると背中が見えた。どうやら、人だったようだ。
(なぁんだ!って、何しているのかしら。)
「誰?」
「わぁ!」
そう少し張り上げるような声で聞こえるように叫んでみると、その人物は叫び声を一つあげ、草が激しく動いて立ち上がった。
立ち上がったその人は、まだオティーリエよりも背が低い子供であった。手には両手いっぱいに根の付いていない草を持っている。
その為、オティーリエは、極力優しく言ってみる。
「…ごめんなさい、驚かせるつもりではなかったのよ。でも、誰かと思って。ここがどこか知っているの?」
「は、はい!もちろんです!僕は、フーゴと言います。庭師見習いです!今はここの草むしりを担当してます!でもなかなか綺麗にならなくて…。」
「…そう。どうしてフーゴだけがやっているの?庭師は?」
「はい、師匠のハッソさんは、今本棟の庭園を手入れしてます。そこを使おうとしていたので、そちらにかかりきりなんです。」
「…そう。で、あなたがここで草むしりを?」
「はい。本当は、草むしりなんてすぐ終わると思ったんです。ここに住まわれるオティーリエ様に綺麗な花を見てもらいたかったんですけど…。」
「手に持っているそれって、何かしら?」
「え?抜いた草です。」
それは、根が付いていない茎より上の部分だけを引っ張って取った草の一部分。
「…あなた、それが草むしり?」
「え?何言ってるんですか?そうですよ。」
フーゴはさも当たり前のように言っているが、それを見てオティーリエは頭を抱える。
(なんで草むしりのやり方も教えないでここを任せたの!?どおりで、短い草や長い草、バラバラに生えているわけね。短いのは、根元から引っこ抜かなかったものがまた生えてきているのでしょう。長い草は、まだ抜いていないのかしら。)
「あのね、草むしりって、草の根っこから取らないと意味ないわよ。根が残っていればまた生えてくるの。だから、根っこから抜くのよ。毎回そうやっていたら、いつまで経っても草は減らないわよ?」
「え!?そうなの!?」
フーゴは初めて知ったとばかりに目を丸くして驚いている。
「そうよ。きっと、草むしり用の道具もあるでしょう?こんなに生えているなら、土を掘り返した方が早いかもしれないわね。」
「わー、だからむしったのにまた生えてきたのかぁ…ありがとうございます!」
「フーゴ!?何しているの!!」
そこへ、ワゴンを引いたニダとザーラを引き連れイボンヌが入って来た。
ニダとザーラは、そのワゴンの近くで準備をしている。
イボンヌだけ外に出て来た。
「母さん…」
「え?」
「も、申し訳ありません!息子がなにかしましたでしょうか?」
先ほどザーラが失態をした時よりもさらに腰を深く折り謝っている。
「いいえ。フーゴは良くやっています。ただ、やり方が間違っていたので教えていたのです。」
「そうだよ!お姉さんが草むしりの正しいやり方を教えてくれたんだ!」
「こら!こちらはオティーリエ様です!いずれ王太子妃となられるお方ですよ!粗相のないように!」
「えー!?」
「いいのよ。じゃ、頑張りなさい。」
そう言ってオティーリエは、部屋に戻った。
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