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2. 嫁ぐ準備

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 部屋へと一度戻ったオティーリエは、大きな声でカルラを呼ぶ。

「カルラ!!いる?」

 カルラとは、オティーリエが幼い頃よりお世話をしていた侍女で、オティーリエの成長を一番近くで見てきた第二の母とも言える。オティーリエが自分の気持ちを吐き出せる数少ない人物だ。
 カルラは、オティーリエが裏庭に行くと言っていた為、部屋の掃除をしようと先に戻ってきていたのだ。

 そんなカルラに、オティーリエは若干の苛立ちを向ける。

「どうされました?」

「ねぇ!カルラ、私、結婚が決まったみたいなの。聞いてた?」

「え!?いえ…」

「そう…お父様はいつもそう!勝手に決めるのは国王だから仕方ないとしても、もう少し準備をする時間を考えて欲しいものだわ!今日、出発なのですって!意味が分からないわ!!」

「え!今日ですか!?でしたら準備をしませんと!え?私は…付いて行ってよろしいのでしょうか?」

「カルラが来てくれるなら心強いけれど…どうかしら。無理でしょうね。でも聞いてきてちょうだい。あと、持って行くものは適当に選ぶから、準備をお願い。どうせそんなには必要ないでしょうから。それと、タイルに挨拶がしたいから、先に行ってくるわ。」

「承知致しました!では急いで参ります。」

 そう言ってカルラは部屋を出て行くが、オティーリエは、ため息を付き無理だろうと思った。カルラにはこの国で家族がいる。両親も健在だし、結婚もしている。だから一人で異国へと向かわなければならないだろう。

(結婚が出来る十八歳の誕生日を迎えてから、いずれはこうなると覚悟していたもの。仕方ないわ。さ、まずは…!)

 そう切り替え、裏庭へと向かった。切り替えの速さは、オティーリエの自慢できる一つだ。


「タイル!」

「おぉ、オティーリエ様!今日は遅かったですな。じぃはもう水やりしてしまいましたぞ。」

 タイルは、この王宮の庭園の手入れを任されている。しかし、年齢がもう六十過ぎている為自らの事をじぃと呼んでいる。
 彼もオティーリエの数少ない味方の一人だった。

「それどころじゃないの。私、これからお嫁に行くのよ。じぃ、元気でね。」

「なんと!?……オティーリエ様、お元気で。」

 タイルは顎が外れそうなほど口を開け呆けた後に、目に涙を浮かべながらそう言った。

「ええ、タイルも元気でね!バラが咲くのを見たかったけれど。」

「そうですな…まぁ、それもまた運命。じぃはこの国で、オティーリエ様が元気で過ごされるのを祈っておりますぞ。」

「ありがとう。タイルも長生きしてね!じゃぁ失礼するわね!」

 そう言って、自室へと戻った。



 戻る途中、廊下で兄のディートリッヒにばったりと会った。彼はオティーリエよりも三歳年上の二十一歳で、近い内このテューロビンゲン国を背負って立つ、王太子である。
 オティーリエが優秀過ぎる為、ひがみの感情も入っているのだろう。妹の事は大事ではあるが少々嫌味っぽく話してしまうのが、ディートリッヒの悪い癖だ。

「よう、オティーリエ。先ほど父上から聞いたぞ。お前、バンニュルンベルクへと嫁ぐんだって?せいぜい、この国の為に尽くせよ!」

「お兄様…お兄様も、この国の為に良き国王とお成り下さい。」

「ふん!お前に言われなくても俺は
日々努力している!さっさと準備して行けよ。あぁ、そうだ。良いことを教えてやる。お前の夫となる男は、俺よりも頼り甲斐のない奴だからな!お前のその勝ち気な性格で、出戻ってくるのだけは勘弁してくれよ。」

(それが結婚の為に出ていく妹に掛ける言葉かしら?全く、いつまでたっても子供なのよね。ま、兄なりのエールだと受け取っておくわ!)

「そう言えばお兄様と私の夫となるお方は同じ年齢でしたよね?よくご存じですのね。大方、性格が合わなかったんではなくて?あぁそろそろいかなくては。では、お兄様もお元気で。お兄様の結婚式には、お祝いに駆けつけるわね。」

 と、ディートリッヒに向かって恭しく礼を取る。
 オティーリエは、ディートリッヒがそれなりに努力しているのは知っている。その点では尊敬していた。
ただ、国内の高位貴族の婚約者候補とものも知っている。その辺りはあまりよろしくないのではないかと思っていた。
結婚相手が果たして決まるのか、それはいつになるのやらとため息を付くのはオティーリエだけではない。

「ふん!…お前も元気でな。」

(本当に素直ではないわね。)

 オティーリエは、兄の面倒な言い方に笑いを堪えながらもそう思った。
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