上 下
15 / 21

15. ライナス視点

しおりを挟む
 ゲオルクが婚約破棄したらしい。

 って事は、俺の想いをもう、解放しても良いって事だよな!?一度は泣く泣く諦め蓋をしたこの気持ち。隠さなくていいって事だよな?
すぐにでも会いに行きたい!伝えられなかった言葉があるんだ。
俺と結婚すると言ってくれたオリーフィア。幼い頃の話だから、もう時効かもしれない。でも、約束だからねと言ったオリーフィアのあの笑顔。今でも忘れられないんだ。


 つ、伝えたというか何と言うか…。
オリーフィアの屋敷で久しぶりに二人で会ったが、綺麗になっていてもう緊張するのなんの…!俺、変な事言ってなかったよな!?
しかも、あいつ俺が昔言った言葉が、今の公爵令嬢としての礎だったと言った…。

 やばい、反則だろ!!可愛過ぎる!!
俺もあの時の事は悔しくて忘れたくても、何度も夢に出てくる程だったんだ。抱きしめてゲオルクの所に行くな、って言えたらどんなに良かったかって…。

 だが可愛過ぎるのも罪なんだぞ!
あいつの前では格好いい姿でいたいのだが…挙動不審ではなかったよな?目を合わせられなかった…。

 緊張し過ぎて上手く告白出来なかったし、嫁に来いってなんだよ…その後恥ずかしすぎて慌てて部屋を出てしまった。
俺は公爵令息だってのに、全くそれらしく振る舞えなかった…。
 廊下でかち合ったホーキンス公爵と公爵夫人、笑いを噛み殺していたし。あれは盗み聞きしていただろ絶対!




 オリーフィアが婚約したと聞いて、十歳だった俺は、貴族として生まれてきた定めだと無理矢理自分の気持ちを抑え込んだ。
それでも、オリーフィアを支えてやりたかったから間接的に力になろうと決めた。だから、本当に嫌々ではあったがゲオルクの尻拭いをしていた。

 オリーフィアが王妃にならないのなら、俺はもう、ゲオルクの側近を辞めてしまおう。
そして、公爵家の仕事に専念しよう。

 公爵家の一員として、国を支えると言っていたのに、実際はこんな私情を挟みまくりだったなんて自分でも笑えてくる。でも、オリーフィアと結婚しないゲオルクを支えるなんてやる気が起こらないんだ。仕方ないだろ。

 未来の王妃は…誰だった?ゲオルクがドレスを贈った奴。そいつが果たしてなれるのだろうか?

 ま、やってもらうしかないよな。

 ゲオルクがオリーフィアとの婚約破棄をしてしまったんだから。よりにもよって、未来の貴族社会を背負って立つ者達の前で。

 俺の後継を見つけないとな。でもこんな面倒な側近の仕事なんて、やりたいやついるか??
…あ、居たわ。立身出世したがりな奴。国王陛下の側近になんて、喉から手が出るほど欲しがるだろう。学院でも、妬みだろう、俺いつもちょっかいかけられてたし。
頼み込んでみるか。



「オレ、やっぱオリーフィアを正妃にする。それで、ジャネットを側妃にする!!」

 そう言いながら、執務室に入って来たゲオルク。

 俺とアーサーは顔を見合わせ、何言ってんだこいつという視線をお互いに交わしていた。

「オリーフィア、やべぇ。あれならオレ、結婚出来るかも。そうしてくれ!」

 ゲオルクは、王太子だからか自分が思った事は何でも実現出来ると思う節がある。そして、無理難題でも俺かアーサーに振ればたいていどうにかなると思っている。

 だが、今回ばかりは違う。

 俺は冷めた目でゲオルクを見つめ、感情のこもらない声で言った。

「何を言っている?それは、オリーフィアを侮辱しているのと同義だぞ。」

「あぁ。さすがに僕の妹にそれはないわ。」

 アーサーも俺につられて声を発した。

「え?なんでだ?だって、オリーフィアは正妃教育もやってきてたしちょうど良いだろ?ジャネットは、正妃をやるにはか弱すぎると思ったんだ。」

「おい!!!」

 ちょうど良いってなんだ!!あいつは陰でお前の何十倍も、何百倍も努力していたんだぞ!!

「やめろ、ライナス!」

「わ!なんだよ、暴力は止めろよ!」

 俺は、ゲオルクに詰め寄って首元の服を引っ掴んだ。

「それ以上オリーフィアを侮辱したらただじゃおかねぇ!!ゲオルクが、オリーフィアを見限ったくせにその台詞を吐くな!怪我もさせやがって!今まで我慢していたんだ、オリーフィアは絶対お前なんかに譲らねぇ!!」

「わっ!!ととっ!」

 俺は、言うだけ言って、すぐゲオルクの服を掴んでいた手を離した。
すると、ゲオルクは後ろに投げられた形になり、体制を崩した。

「ゲオルク。僕もその言い方をする奴に妹は渡せないよ。」

「な、なんだよ二人して!!よく考えたらジャネットは打たれ弱いから正妃向きじゃないんだ!」

 ガチャ。
いきなり、制服を着た赤い髪の女性が入って来た。

「ゲオルク様ぁ!」

「え?ジャネット!?」

「今日、どうして学院に来なかったのですかー?淋しくて来ちゃいました!」

「おい、どうやってここまで来た?」

 誰だよ…て、こいつか?どこが打たれ弱そうなんだ?

「あ、こんにちは!ゲオルク様に、いつもよくしてもらってまーす!」

コンコンコン。

「失礼します!こちらに…あ!」

「あ、さっきの門番さん!もー、ここまで来るの、迷って大変でしたぁー。部屋で待っててと言わなくても直接ゲオルク様の所まで連れてってくれても良かったじゃないですかー。」

 衛兵を見ると、とても焦った感じに見える。一応普段通りに対応したんだろうな。

「ゲオルク様、せっかく王宮まで来たので案内してくれませんかー?」

「んー、そうだなぁ。あ!じゃあ父上に紹介しよう。ついておいで。」

「はーい!」

 パタン。

 ゲオルクは俺らが口を挟む前に素早くあの女を連れて出て行った。
なんなんだ、あの女…。あれが未来の王妃!?教育してどうにかなるもんなのか…?

「おい。あとをついて行き、変な事をしでかさないか確認してこい。」

「は!!」

 そこにいた衛兵を追尾させた。まぁあの調子じゃ、また何かするかもな。

 はー…。

 精神的に疲れた時はいつも幼い頃一緒に遊んでいたオリーフィアを思い出してしまう。

 昔のようにあの屈託のない笑顔が見たい。

 …そうだ!あいつに贈り物をしよう。

 足を怪我しているからあまり出歩けないだろうし、昔、うちの屋敷の庭園で遊んでいた頃を思い出してもらいたいからうちで咲いている花がいいな!

 喜んでくれるだろうか…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

全部、支払っていただきますわ

あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。  一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する… ※設定ゆるふわです。雰囲気です。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます

稲垣桜
恋愛
私の婚約者が、なぜか姉の肩を抱いて私の目の前に座っている。 「すまない、エレミア」 「ごめんなさい、私が悪いの。彼の優しさに甘えてしまって」  私は何を見せられているのだろう。  一瞬、意識がどこかに飛んで行ったのか、それともどこか違う世界に迷い込んだのだろうか。  涙を流す姉をいたわるような視線を向ける婚約者を見て、さっさと理由を話してしまえと暴言を吐きたくなる気持ちを抑える。   「それで、お姉さまたちは私に何を言いたいのですか?お姉さまにはちゃんと婚約者がいらっしゃいますよね。彼は私の婚約者ですけど」  苛立つ心をなんとか押さえ、使用人たちがスッと目をそらす居たたまれなさを感じつつ何とか言葉を吐き出した。 ※ゆる~い設定です。 ※完結保証。

処理中です...