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12. 午前中

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 少しして、部屋の扉をノックされた。

 キャリーがすかさず反応し、外の人物と対応してからナターシャが座っているソファへとやってきた。

「エド、先ほどの件が書かれた手紙だそうよ。これをフォルス領主様にお願い。」

「ああ。じゃあ早速行ってくるぜ。二人共、勝手な行動はするなよ?」

「分かってるわ!エド、気をつけてね。皆によろしく言ってちょうだい。」

「エドったら…!気をつけてね!あ、先ほどの侍従が、廊下でお待ちよ。王都にある厩舎まで連れて行ってくれるって。」

「そりゃありがたい!宿屋にある荷物はどうするんだ?二人で取りに行くのか?」

「一応、結構な荷物になるからあとでお願いしてみるわ。」

「そうだな、二人では運べないだろうな。ここまでも距離があるから、どうせなら馬車を借りろよ。」

「うーん、そうねぇ…」

「おい、ナターシャ!悪いとか思ってちゃダメだぞ?初めにここに滞在すればいいと言ってくれたのは向こうなんだ。最後までしっかり面倒みてくれなきゃ困るだろう。それは遠慮せず言っていいんだからな!キャリー!」

「分かっております。ささ、エドは早く行ってらっしゃいな!」

「おう、じゃあな!すぐ帰ってくるぜ!」


 そう言い、エドは最後まで二人の心配をしながら部屋をあとにした。



 ナターシャも、宿屋に荷物を取りに行こうとキャリーと二人で外に出ると、廊下に侍女が待機していた。

「ナターシャ=テイラー様。ご不便がごさいましたら何なりとおっしゃって下さい。」

「あ、ありがとう。助かるわ。不便ではないのだけど、昨日まで泊まっていた宿屋に荷物を取りに行きたいの。でも、結構な量があるので、人を貸して頂けるとありがたいのだけれど。」

「はい、それでしたら申し遣っております。ナターシャ=テイラー様がお声を掛けて下さればすぐにでも行けるよう、手筈は整えております。今から行かれますか?」

「まぁ!ありがたいわ。それはラド様が?」

「え?ええと…私は言われた仕事をするだけでございますから、どなた様からの申しつけたかまでは…」

「そうね…ごめんなさい。では今からいいかしら?」

 ナターシャは、廊下に出てすぐ侍女がいたのにも驚いたが、そのように準備してくれているのにも更に驚いた。

(エドが言った通りね…ラド様はその後の事もきちんと考えて下さるのね。)






☆★

 荷物を取り、与えられた部屋へ帰ってくると昼近くなっていた。

「もうお昼ね。」

 ナターシャは、食事も準備してくれるのか、それとも王都に食べに行ってもいいのか確認しようと廊下へ出ると、こちらへ向かってくるラドが見えた。

「お、ナターシャ!良かった!どうだ?今から食事に行こう!」

 ナターシャは、手を挙げてそう言ってきたラドに近づいてお礼を述べた。

「ラド様、荷物を取りに行く手配までして下さってありがとうございます!とても助かりました!」

 と、ニッコリと笑ってナターシャが感謝を述べると、ラドも笑顔を返した。

「あぁ良かった!ナターシャをここに泊めるという事は、向こうの荷物も気になると思ってな。さ、ナターシャ、行こう!いいかな?」

 そう言うと、ラドはいきなりナターシャの右手を掴んで手を繋ぎ、スタスタと歩き出した。

(え…えー!?ちょっと、手、繋いでるわ!?これって、この国流のエスコートなの?分からない…)

 驚いて、ナターシャは頭二個分ほど背の高いラドを見上げると、顔が赤い気がした。その横顔を見ると、何故かナターシャは恥ずかしくなってしまい、視線を前へと戻した。

 スタスタと歩き出したと思うと、歩幅をナターシャに合わせたのかゆっくりと歩いてくれるラドに、細やかな優しさを感じてドキドキとしたナターシャ。
しかし何も言葉を言わず歩き進んでいるので、自分だけがドキドキしてはいけない、これはやっぱりエスコートなのだと無理矢理思った。



「さあ、ここだ。今日は二人だから朝とは違う食堂だよ。」



 やっと食堂がある階に案内され、ラドが席へと促してくれる。そこは、朝ミロシュと三人で食べた部屋よりも小さく、テーブルも二人掛けであった。
ラドとの距離が更に近くなってしまうと、ナターシャは思った。

「さぁ、俺はナターシャの事をもっと知りたいんだ。ナターシャにも、出来れば俺の事を知ってほしい。午後からも俺は仕事があるからゆっくりとは出来ないが、一緒に食べよう。」

 そう言ったラド。

(もっと知りたい…?何故?そう言われて、確かに私もラド様の事を知りたいとも思うけれど、知ってしまったら怖いとも思うわ。エドが朝言っていた〝貴族よりもっと上〟って………でも、ここで教えてくれるかもしれないし、言いたくない事もあるかもしれない。だから、それまでは、咎められるまではこのままでも良いのよね?)

 ナターシャは、疑問に思いながらもまた、ラドと一緒に食事をするのであった。
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