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11. 滞在

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「ナターシャと呼んでもいいだろうか…?」

 そう言われたナターシャは、ラドは先ほどとは打って変わって丁寧な人だなぁと思った。初め、部屋に入り話していた時は、別人なのかと思うほど無愛想で横暴な人だと思ったのに。

「フフフ…はい。」

「………!で、ではナターシャ。俺の事もラドと呼んでくれ!部屋を用意するから、その間一緒に朝食にしよう!」

「え?あ…朝食、一緒に取らないとダメかしら…?」

「どうした?嫌か?」

「私…他の人と一緒に食事をした事があまりなくて…不作法だと思うの…」

「なんだそんな事か。気にするな!俺と食べるのが嫌なのかと思ったじゃないか!いつも俺はミロシュや他の奴と食べているんだがな、気になるなら今日は二人で食べるか。よし、そうしよう!」

「おいおい…さすがにそれはないだろう?僕を除け者にしないでおくれよ。」

 先ほどからミロシュはラドの気持ちを汲んで黙っていたのだが、さすがに言葉を発した。
今日は午後から、騎士団の演習にラドも参加する為に、打ち合わせがあったのだ。

「なんだ、ダメか?仕方ないな…ナターシャ、ミロシュも一緒でもいいか?こいつも、作法に文句を付けてくるほど心が狭くはないから安心してくれ。」

「は、はい。では…ラド様もミロシュ様も、よろしくお願いします。」

「そんなに固くならなくていいからな!」

「そうだね。ここの食事は美味しいからさ、堪能しよう!」


 ラドは先ほどまで元気が無いような気がしたがとっても嬉しそうにしているなとナターシャは感じる。

(ラド様は食事が楽しみなのね、ミロシュ様も美味しいって言われていたし。)

 ナターシャはそう思いながら、二人に続いて部屋を移動した。





☆★

 朝食が無事に終わると、ラドの言う通り部屋を案内してもらう。この建物に入ってくる時はまだ夜も明けきらなかった為に全貌は見えなかったが、結構な広さだと歩いて感じていた。だからなのだろう、急に人が泊まると言っても、すぐに準備されるのだなぁとナターシャは感心していた。
 もっとも、ナターシャの家の侯爵家の屋敷も人を泊める広さは充分にあったのだが。



 案内された部屋は入ってすぐ両隣に小部屋が二つある。使用人用だろう。そこを抜けるとソファとテーブルがあり、更に奥はベッドルームと衣装部屋があった。衣装部屋とは逆の扉は、お風呂と化粧室だ。

 ナターシャは部屋に案内され、三人だけになるとベッドへ倒れ込むように身を投げ出した。
こじんまりとしているがとても綺麗にされている部屋だ。調度品も落ち着いていて、ラドの部屋のものに通ずるものがあった。

「大丈夫ですか?」

 キャリーは心配になり、ナターシャへと声を掛けた。

「何か…ごめんね、いきなりこうなっちゃって。」

 うつ伏せのまま、そうナターシャは二人に告げた。

「私は、ナターシャ様が良ければいいのです。」

「ま、俺も良いけどよ、それにしても大物を釣り上げたよな!」

「え?大物?」

「エド、どういう事です?」

「だってそうだろう?ラド様はきっとかなりの大物だぜ?それに、ミロシュ様も、騎士団長に話を通すとか言っていたしよ。副長なんだろ?」

「うーん…キャリーもそう思う?」

「まぁ、そうですね。ラド様は最初、どれだけ横柄な人かと思いましたが、今思えばあれは、演じていたのではないかと思っていますね。ですから、その点ではナターシャ様とと思われますね。」

「同業者…貴族って事?」

「さぁ、どうかね。案外、もっとかもよ?」

「上?」

 ナターシャは驚き、そこでようやくベッドから起き上がりエドの方を見た。

「だって考えてもみろよ。さも自分の家のように、『ここに滞在すればいい』って言えちまうんだぜ?こんな迷子になるほど歩かされる屋敷ってあるかよ?剣帯して制服も着ている人もいたし、ここは王宮と見るのが妥当じゃねぇの?」

 エドが言った言葉に、ナターシャは、背筋が寒くなった。もし、本当にそうだとしたら、自分は誰と話していたのか…。私は、あんな態度や言葉遣いで良かったのだろうか?

「ま、でもナターシャは〝心許された〟んだから気にすんな!俺は、さっさと領主様に確認してくっからよ、大人しく待ってるんだぜ?キャリーもしっかり見てろよ?」

「エドに言われなくても、自分の役割は分かっております!」

(そうよね…向こうがいいって言ったんだから、深く考えなくてもいいわよね?今度会った時に聞いてみればいいわよね。)

 ラドが書状を書くからそれまで待てと言い、その書状を受け取ったらすぐにでもエドは、テイラー家へと向かうつもりだ。
ナターシャ達とこの国へ来た時は馬車であったから時間はそれなりに掛かったが、馬に乗れば馬車よりもかなりの時間短縮される。近日中に戻ってこれるだろうとエドは目算していた。
きっと、この建物の中であれば、二人は安全だろうとエドは思った。
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