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エピローグ
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それから半年ほどが過ぎた。
あの事件をきっかけにそれまで否定的なだけだった殿下の評価も、次第に「冷酷ではあるが実はいいことをしているのではないか」という方向に変わっていった。もちろんそれからも殿下は不正や腐敗に対しては厳しい態度をとり続けたため、恨む者も増えていったが殿下のことをきちんと評価する者も少しずつ増えていった。
そんなある日のことである。
いつものように私は殿下とともに政務をしていた。最初は慣れないこともあったが、半年も経つと大体のことは私一人で何とか出来るぐらいには慣れていた。そんな私にふと殿下が口を開く。
「そう言えば、そろそろ最初に出会ってから半年ほどが経つな」
「そうですね。案外あっという間でした」
充実している日々ほど過ぎるのが早いと言うが、まさにその通りだったと思う。
とはいえ、殿下がこんな世間話を振ってくるのは珍しいことなので私は少し驚く。
「あれから新しい婚約の話とかはあるか?」
「いえ、特には聞いていませんが」
「そうか」
私の答えに殿下はなぜかほっとしたような顔をする。
普通の人であれば何と言うこともない雑談なのだが、今日の殿下は少し様子がおかしい。
「一体なぜ急にそんなことを?」
「いや、もしかして僕がこうして君を身近に置いているから他の者たちも君との婚約に及び腰になっているのではないかと思ってね」
「ああ……それはあるかもしれませんね、あ、いえ、すみません! そういうつもりでは!」
何となく頷いてしまってから、これでは殿下を責めているのと同じだと気づき、慌てて謝る。
「気にすることはない。それで僕は思ったのだ。こんなことになった以上僕も責任をとらなければならない、と」
「え?」
唐突に話が予期しない方向に向かったため私は困惑する。
すると殿下は覚悟を決めたような表情でこちらを向いた。
そして真剣な声で言う。
「レイラ、僕と婚約してくれないか?」
「は、はい!」
突然のことに頭が真っ白になってしまい、気が付くと私は肯定の返事を返してしまっていた。
正直なところアンジェリカとの対決の時以来、殿下が私に好意を抱いてくださっていると知ってもし私の相手が殿下であれば……というのは何度か考えたことだ。
とはいえ、貴族同士の結婚ですら家の事情があって思い通りにならないのに、相手が王族とあらばさらにままならない。
特に我が家のような大貴族と王族の結婚であれば私の気持ちでどうにかなる余地はほとんどないだろう。だから私は殿下に余計な迷惑をかけまいと自分の気持ちを押し殺していた。
だから殿下の方からそう言ってもらえて信じられないほど嬉しかった。
一方の殿下も私の返答を聞いてほっとした表情をしている。
「そう言ってもらえて良かった……実は最近は君との婚約をとりつけるために父上やその他いろいろな方面に話を通すのに忙しかったんだ」
「そうだったのですか」
言われてみれば最近の殿下は色々な人と話しているようだったが……まさか私とのことだったなんて。
全く気が付かなかった自分が少し恥ずかしくなる。
「アンジェリカの時、僕があれだけ他人に恨まれていると知っても傍に居続けてくれて僕はとても嬉しかった。しかしあのときすぐに婚約を申し込むのはオリバーにつけられた傷につけこんでいるような気がしてしまってね。それで今日までタイミングを遅らせたんだ」
「そうだったのですか」
それで半年ほど間を空けてくれたのか。
当時の私だって殿下にプロポーズされればそれを喜んで受けたとは思う。
とはいえ、半年の時間を置くことで殿下の様々な面を知ることは出来た。
例えば、冷酷などと言われているが身近な人には意外と細かい気遣いをするところとか。
そんな殿下の配慮に私はますます嬉しくなった。
「君の答えは聞けたし、またすぐに正式な婚約お披露目パーティーを開かせてもらうよ。ただ、その前に一回だけ先にいいかな?」
「はい?」
すると、殿下が急に私に顔を近づけた。
そして次の瞬間、私の唇が温かい感触に包まれるのを感じたのだった。
あの事件をきっかけにそれまで否定的なだけだった殿下の評価も、次第に「冷酷ではあるが実はいいことをしているのではないか」という方向に変わっていった。もちろんそれからも殿下は不正や腐敗に対しては厳しい態度をとり続けたため、恨む者も増えていったが殿下のことをきちんと評価する者も少しずつ増えていった。
そんなある日のことである。
いつものように私は殿下とともに政務をしていた。最初は慣れないこともあったが、半年も経つと大体のことは私一人で何とか出来るぐらいには慣れていた。そんな私にふと殿下が口を開く。
「そう言えば、そろそろ最初に出会ってから半年ほどが経つな」
「そうですね。案外あっという間でした」
充実している日々ほど過ぎるのが早いと言うが、まさにその通りだったと思う。
とはいえ、殿下がこんな世間話を振ってくるのは珍しいことなので私は少し驚く。
「あれから新しい婚約の話とかはあるか?」
「いえ、特には聞いていませんが」
「そうか」
私の答えに殿下はなぜかほっとしたような顔をする。
普通の人であれば何と言うこともない雑談なのだが、今日の殿下は少し様子がおかしい。
「一体なぜ急にそんなことを?」
「いや、もしかして僕がこうして君を身近に置いているから他の者たちも君との婚約に及び腰になっているのではないかと思ってね」
「ああ……それはあるかもしれませんね、あ、いえ、すみません! そういうつもりでは!」
何となく頷いてしまってから、これでは殿下を責めているのと同じだと気づき、慌てて謝る。
「気にすることはない。それで僕は思ったのだ。こんなことになった以上僕も責任をとらなければならない、と」
「え?」
唐突に話が予期しない方向に向かったため私は困惑する。
すると殿下は覚悟を決めたような表情でこちらを向いた。
そして真剣な声で言う。
「レイラ、僕と婚約してくれないか?」
「は、はい!」
突然のことに頭が真っ白になってしまい、気が付くと私は肯定の返事を返してしまっていた。
正直なところアンジェリカとの対決の時以来、殿下が私に好意を抱いてくださっていると知ってもし私の相手が殿下であれば……というのは何度か考えたことだ。
とはいえ、貴族同士の結婚ですら家の事情があって思い通りにならないのに、相手が王族とあらばさらにままならない。
特に我が家のような大貴族と王族の結婚であれば私の気持ちでどうにかなる余地はほとんどないだろう。だから私は殿下に余計な迷惑をかけまいと自分の気持ちを押し殺していた。
だから殿下の方からそう言ってもらえて信じられないほど嬉しかった。
一方の殿下も私の返答を聞いてほっとした表情をしている。
「そう言ってもらえて良かった……実は最近は君との婚約をとりつけるために父上やその他いろいろな方面に話を通すのに忙しかったんだ」
「そうだったのですか」
言われてみれば最近の殿下は色々な人と話しているようだったが……まさか私とのことだったなんて。
全く気が付かなかった自分が少し恥ずかしくなる。
「アンジェリカの時、僕があれだけ他人に恨まれていると知っても傍に居続けてくれて僕はとても嬉しかった。しかしあのときすぐに婚約を申し込むのはオリバーにつけられた傷につけこんでいるような気がしてしまってね。それで今日までタイミングを遅らせたんだ」
「そうだったのですか」
それで半年ほど間を空けてくれたのか。
当時の私だって殿下にプロポーズされればそれを喜んで受けたとは思う。
とはいえ、半年の時間を置くことで殿下の様々な面を知ることは出来た。
例えば、冷酷などと言われているが身近な人には意外と細かい気遣いをするところとか。
そんな殿下の配慮に私はますます嬉しくなった。
「君の答えは聞けたし、またすぐに正式な婚約お披露目パーティーを開かせてもらうよ。ただ、その前に一回だけ先にいいかな?」
「はい?」
すると、殿下が急に私に顔を近づけた。
そして次の瞬間、私の唇が温かい感触に包まれるのを感じたのだった。
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