夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃

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対決Ⅰ

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 翌日、対決場所に指定された王宮のホールにはたくさんの人が詰めかけた。
 部屋の中央には二つの論壇が設置され、その周囲はロープで区切られているが、その周囲に置かれた席にはびっしりと人で埋まり、さらにその後ろには立ち見の野次馬が詰めかけている。その数は優に百を超えるだろう。

 パーティーやお茶会のような華やかな行事ならともかく、ただの討論会にここまでたくさんの人が詰めかけることはあまりないだろう。

 そんな大舞台の真ん中に私は殿下と一緒に立っていた。
 そして三メートルほど離れた向かい側には緊張した様子のアンジェリカが立っている。

 さらに両者の後ろには控室があり、そこにお互いが連れてきた証人が待っていた。
 彼女からすれば、仲間だと思っていたエミリーが突然強硬策に走って捕まるという大失態を冒したのだからこの場に立っているだけでも褒めてあげたいぐらいだ。

 ちなみに昨夜の事件ではあるが、未遂ではあるが貴族の令嬢である私を私兵で囲んで脅迫しようとしたということで、エミリーは現在王宮にて取り調べ中である。
 まだ正式な処分は発表されていないし、捕まったという事実だけが出回っているせいで、噂にはたくさんの尾ひれがついている。
 ホットな話題があるところに起きた事件ということもあって、二つの話が関連付けて語られるのは自然な流れだった。

 当然アンジェリカがエミリーにやらせたという話もあるが、オリバーが恨みを晴らすためにやらせたという噂もあった。そんな訳で客席はその噂話で持ち切りであった。
 中にはエミリーが捕まったという事件を聞いて、ここでその真相が語られるのではないかと期待してやってきた者もいるようだ。

 そんな異様な雰囲気を見てこの討論会を仕切ることになっていた文官の男も困惑していた。役目を引き受けたはいいものの、まさかここまで注目度が高いとは思わなかったのだろう。

「それでは定刻になりましたのでまずはアンジェリカ・レイランド様側の主張を述べていただきましょう」

 そう言ってアンジェリカが前に進み出る。
 が、それを見て早速客席から野次が飛ぶ。

「昨日のエミリーの件は関係あるのか!?」
「あのいけすかない王子をやっつけてくれ!」
「他人にとやかく言う前にエミリーの件を話せ!」

 野次は応援から罵声まで様々だったが、これでは話し始めることも出来ない。
 アンジェリカはちらりと客席を一瞥したが、客席には貴族の一族も多いため「黙れ」とも言えない。

「客席の皆様は静粛に! これでは話が始まりません」

 文官の男が困ったように言うと、ようやく客席は静かになる。
 こほん、と咳払いしたものの相変わらず強張った表情のアンジェリカは話し始めた。

「そもそもこの対決は私から申し込んだものではありませんが……どうしても向こうが白黒つけたいと言うから仕方なく出てきただけですわ。そもそもの始まりはメリアが私を頼ってきてくれたことですの。彼女は……」

 そう言ってアンジェリカは身振り手振りを始めていかにメリアが殿下に悲惨な目に遭わされたかを感情をこめて語った。
 さすがあれだけ広まる噂を流すだけあって、感情を揺さぶるような話し方をするのは得意らしい。聞いていた私でさえ殿下は冷酷非道な人物ではないかと思えてきそうなほどである。
 最初はアンジェリカに野次を送っていた聴衆も少しずつアンジェリカの話を聴き入るようになっていた。

「……以上で冒頭の話は終わりですわ」

 エミリーの件でアウェーになったかと思いきや、どうにか人々の心を掴んだアンジェリカはほっとした様子で話し終える。

「では次にクルス殿下、お願いします」
「頑張ってください」
「ああ、大丈夫だ」

 そう言って殿下はいつもと同じ表情で前に出る。
 こちらにも「冷血王子!」「心はないのか!?」などと盛んに野次が飛ぶ。

 が、殿下は特に動じる様子もなく粛々と自分の主張を話す。その様子は堂々とはしていたが、それを見て殿下の主張が本当なのか、と思う人と気に食わない、と思う人で反応は割れている。

「……以上です」

 そう言って殿下は席に戻っていく。

「ではお互いの主張が終わったところで次はそれぞれの証人に出てきていただきます。それから皆さん、どうかご静粛にお願いします」

 こうして対決はいよいよ佳境に入っていくのだった。
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