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クルスの気持ち

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「殿下、一体なぜここに!?」

 近衛兵と一緒にクルス殿下が現れたことに私は驚いた。

 ある意味、エミリーが急にこんな手段に及んできたことよりも驚いたかもしれない。
 夜闇の中から現れた殿下は私の姿を見るとほっと一息つく。そして近衛兵たちに逃げていった賊の追撃を命じると私の方を向いた。

「大丈夫か、怪我はないか?」
「はい、おかげさまで助かりました」
「しかし一体何だったんだ? 先ほど王宮に、怪しい者たちが王都の中でうろうろしているという通報があって、たまたま君が帰ったばかりだということを思い出してもしやと思って駆け付けたのだが……」

 確かにあんな武装した集団がまとまってうろうろしていれば通報の一つも入るか。
 やはりエミリーは頭がおかしくなっていて正常な判断力を失っていたのだろう。

「わざわざありがとうございます。実はオリバーの件を逆恨みしたエミリーがずっと復讐の機会をうかがっていたようで」
「何だと!? それで君を殺そうとしたのか!?」

 殿下にもエミリーの思考は理解出来なかったのか、驚いている。

「そうではありません。私を人質にして殿下に何かを迫るつもりだったようです。何を要求するのかまでは考えていないようでしたが」
「何だと? あまりに短絡的ではあるが、万一君があのまま攫われていたら大変なことになっていたな」
「はい、本当にありがとうございます」
「ああ。もしエミリーが君を人質に何かを要求してきたら飲んでしまっていただろうからな」
「え?」

 殿下がさらっと言った言葉に驚く。
 てっきり殿下のことだから私が人質にされていても「そんな不当な要求には屈しない」という反応になるのかと思っていたが、違うのか。

 が、殿下はむしろ私の反応に驚いたようだ。
 少し意外そうな、寂しそうな、そんな表情を浮かべる。

「一体何に驚いているんだ?」
「いえ、殿下は私が人質にとられようが、そのようなやり方には屈しないものかと思っていまして」

 私の言葉に殿下ははあっと大きなため息をついた。

「まさかそんな血も涙もない人間と思われていたとは。確かにこれまで政治に情けを持ちこんだことはなかったが、さすがにそれは悲しいな。確かに誰だってそんなテロリストまがいの要求を呑みたくはないが、それとこれとは別物だ。さすがに君が捕まっていたら助かるまでは要求に応じるさ。もちろん助け出した後は容赦しないが」
「す、すみません、決して殿下が血も涙もない方だと思っていた訳ではなく……」

 私をそういう風に思っていてくれたのか、と嬉しくなると同時に何てイメージを抱いてしまっていたんだ、と申し訳なくなってしまう。

 殿下の言う通り、普通の人はそんな風に思われて嬉しい訳がないだろう。
 私は殿下のことを色んな意味で特別な方だと思っていたが、当然殿下も人間だったということだ。

「そうか、血も涙もないと思われていたのか」
「す、すみません!」

 動揺のあまりうまくしゃべれない。
 いや、失礼なことを思っていたのは事実だから仮にうまくしゃべれたとしてもどうしようもないのは変わらないが。
 殿下は私の顔を見てもう一度大きなため息をつく。

「全く、確かに僕はこれまで容赦なくやってきたが、それは相手が不正や腐敗を悪いとも思わず当たり前のようにやってきた者たちばかりだったからだ。そうではない者に対して同じように接する訳がないだろう。まして君であればなおさらだ」

「それは一体どういう……」
「僕の側にいると色々悪く言われるし、今みたいに変なことに巻き込まれるだろう? それなのにずっと離れずにいたことはかなり感謝しているんだ」
「そ、そんな、感謝していただくなどとんでもない!」

 こんな時にそんなことを聞いてしまい、私の方こそ恐縮してしまうのだった。
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