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対決

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「全く、なんてことを勝手にしてくれたんだ」
「すみません、ですが殿下はこれまでどんな小さな不正でも見逃さずに明らかにしてきました。でしたら自身に関する噂についても同じではないでしょうか」

 その後私は殿下の屋敷の執事の方に証人を集めてもらい、私自身はアンジェリカに果たし状を送ったり、公開対決のビラを配ったりした。

 一応殿下には「噂について一度はっきりと説明すべきです」と言いはしたものの、たびたび断られてきたためその先のことを話せずにいた。

 それなら本来はそこで諦めるべきなのだろうが、噂は日増しに強くなっていくし、恐らくアンジェリカですら意図していないような様々な尾ひれまでつき始めていたので使命感に駆られてしまった。

 殿下の耳にわざわざそんな噂を伝える者はいないだろうから、恐らく殿下はどれだけ大事になっているのか気づいていないのだろう。だから私がやるしかない、と思っていたのだが確かに勝手にここまでやってしまったのはどうかと思う。

 それを知った殿下は怒るにも怒れない、と困っている訳である。
 殿下の許可もなく殿下の名で対決を申し込んだため、怒られる可能性も大いにあったが、まずはそうでなかったことにほっとする。そしてこれならあと一押し、と思い説得を続ける。

「殿下、殿下はおそらく自身がそのような噂を流されても気にならないため対処するだけ時間の無駄だとお考えなのでしょう」
「そうだ。人の口に戸は立てられない。噂が立つたびにいちいち対処するほど我らは暇ではない」
「それはそうです。しかし自然に立った噂ならともかく、このように誰かが良からぬ意図をもって流した噂を放置しておくことは出来ません。それが野放しになれば今後気に入らない誰かを追い落とすために噂を流す、という行為が横行してしまうでしょう。そんなことになれば問題です」
「それは確かに」

 私の必死の説得に殿下もようやく頷く。
 私はあと一押しとばかりに説得を続ける。殿下は合理的な方だから、このようなことを野放しにしておくと発生する問題について順序立てて説明すれば同意してもらえるはずだ。

「そうなれば人々に人気のある、要するに不正や適当な政務を許す者ばかりが人気を集め、殿下のように皆に厳しい方は変な噂が立つ、ということになり皆人に嫌われないことだけを考えた政治を行うようになってしまいます」
「確かにそうだ……。まさかそなたに教えられるとは。確かに今噂を流されているというのは僕一人の問題ではないのだな」

 そう言って殿下は頷いた。

「と言う訳で殿下には是非ともメリア、そしてアンジェリカと対決して打ち破っていただきたいのです」
「それはいいが……僕が出ても言った言わないの水掛け論争にしかならないと思うが」
「大丈夫です。それでしたら殿下の執事に頼んで当時のことをよく知る証人を揃えています」

 私が答えると、殿下は小さく驚く。

「抜かりないな……最近そなたがこそこそ僕の屋敷に行っていると思ったらそんなことをしていたのか」
「すみません」

 さすが殿下。見つからないようにやっていたつもりが、ばれていたらしい。
 が、そんな私の努力と思いが伝わったらしく殿下は頷く。

「分かった。そこまでおぜん立てしてもらったのなら僕が何とかしよう」

 こうして対決の準備は殿下本人も加えて行われることになったのだった。
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