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聞き取り
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その日の仕事が終わると、早速私は殿下の屋敷に向かった。
基本的に殿下は王宮で日々を過ごしているため、自身の屋敷に帰るのはほぼ夜と休日だけである。本来の執務の他にも勉強や国に関する様々な資料を見ているという。
留守の間に向かうのは後ろめたいことをしているような気持ちになってしまうが、悪いことをしている訳ではないのでいいだろう。
王宮内にある殿下の屋敷は小ぢんまりとした建物で、無駄な豪華さを好まない殿下の性格を表していると言える。庭には他の貴族が銅像や噴水を作っている中、殿下は小さな菜園を作っている。
「どちら様でしょうか?」
私が門を叩くと中から出てきた執事が応対する。
「レイラ・フィールズと言います。少し聞きたいことがありまして」
「ああ、レイラさんですか。最近殿下のお手伝いをしてくださっているという」
執事は少し驚いたような表情で言った。まあ私が直接屋敷に来るとは思わなかったのだろう。
「殿下は主として素晴らしい方なのですが、王宮内での評判は芳しくないようで……。殿下に仕えている方は我々のような昔からの者以外はなかなか続かず、密かに心配していたところなのです。なので今度こそは長く仕えていただきたいと思っていたところです」
「は、はい」
「さ、どうぞ、中へ」
思ったよりも執事の方に歓迎されてしまい、少し驚く。
正直噂に関する話だけ聞いてさっさとおいとまするつもりだったけど、せっかくだし普段の殿下の話でも聞いてみようかと思い、案内されるがままに中へ入っていく。
屋敷の中も余計な装飾品のない質素な部屋だった。もしこの屋敷に目隠して連れてこられて「一介の学者の家だ」と言われても信じられるぐらいだ。
改めて、応接室へ通された私の前に執事が座る。
「それでは本日のご用件をお伺いしましょうか」
「あなたは最近王宮でささやかれている例の噂についてご存知でしょうか?」
「はい……」
その話題が出ると途端に彼の表情は暗くなる。
あれだけ話題になっていればさすがに彼も知ってしまったのだろう。
とはいえ内容を知っているのであれば話は早い。
まずは殿下の言っていたことが本当かどうか裏をとろう。
「でしたら、噂の真相を聞かせていただけませんか?」
「はい、その時のメイド、メリアと言うのですが、彼女はいつもさぼっているような人物で困っていました。普段は殿下が直接何かを命じることもなく、我々執事やメイドの歴が長い者が指導していたのですが、その時のサボり方は度を越えていて、殿下の耳に入ってしまったのです。それまで彼女がさぼっていたことも薄々知っていた殿下はその時彼女に詰め寄り、確かに手も出されました。その後彼女はやめてしまい、とはいえ我らとしてはむしろ『さっさと辞めてくれて良かった』という程度の感想しかありませんでした」
「なるほど」
やはり殿下の言っていることとおおむね同じだったようだ。
まずはそれを聞いてほっとする。
「その時のことを詳しく知っているのは執事さんだけでしょうか?」
「いえ、私以外にもこの屋敷には数人の者がおります」
「実はあの噂、そのメリアという女が元凶というよりは殿下に恨みを持つアンジェリカという令嬢が意図的に広めているようなのです。ですからその元を断つために協力していただけないかと」
「もちろん致しますが……どうするのです?」
実はいくつかの方法を考えていたのだが、殿下が全面的に正しくて協力者も得られるようなら対決するのが一番だろう。
もしその時の証言者が誰もいないようであれば別の話題性がある噂を流す、というような解決策を考えていたが。
「どうにかアンジェリカを挑発して直接対決の場を儲けようと思います」
「なるほど、確かにそれが出来れば一番ですが……しかし向こうは応じますかね? そんなことになればどちらが勝つか結末は見えていると思うのですが」
執事は心配そうに言う。
アンジェリカがメリアの話を鵜呑みにしていなければ、彼女の話が怪しいと分かったうえで噂として利用していると考えるのが妥当だろう。
「それは分かりませんが……このようなことをする以上恐らく承認欲求のようなものが強い方なのでしょう。どうにかそれを利用しようと思います」
「分かりました」
こうして私たちはどのようにアンジェリカと対決の場を設けるかについて話し合うのでした。
基本的に殿下は王宮で日々を過ごしているため、自身の屋敷に帰るのはほぼ夜と休日だけである。本来の執務の他にも勉強や国に関する様々な資料を見ているという。
留守の間に向かうのは後ろめたいことをしているような気持ちになってしまうが、悪いことをしている訳ではないのでいいだろう。
王宮内にある殿下の屋敷は小ぢんまりとした建物で、無駄な豪華さを好まない殿下の性格を表していると言える。庭には他の貴族が銅像や噴水を作っている中、殿下は小さな菜園を作っている。
「どちら様でしょうか?」
私が門を叩くと中から出てきた執事が応対する。
「レイラ・フィールズと言います。少し聞きたいことがありまして」
「ああ、レイラさんですか。最近殿下のお手伝いをしてくださっているという」
執事は少し驚いたような表情で言った。まあ私が直接屋敷に来るとは思わなかったのだろう。
「殿下は主として素晴らしい方なのですが、王宮内での評判は芳しくないようで……。殿下に仕えている方は我々のような昔からの者以外はなかなか続かず、密かに心配していたところなのです。なので今度こそは長く仕えていただきたいと思っていたところです」
「は、はい」
「さ、どうぞ、中へ」
思ったよりも執事の方に歓迎されてしまい、少し驚く。
正直噂に関する話だけ聞いてさっさとおいとまするつもりだったけど、せっかくだし普段の殿下の話でも聞いてみようかと思い、案内されるがままに中へ入っていく。
屋敷の中も余計な装飾品のない質素な部屋だった。もしこの屋敷に目隠して連れてこられて「一介の学者の家だ」と言われても信じられるぐらいだ。
改めて、応接室へ通された私の前に執事が座る。
「それでは本日のご用件をお伺いしましょうか」
「あなたは最近王宮でささやかれている例の噂についてご存知でしょうか?」
「はい……」
その話題が出ると途端に彼の表情は暗くなる。
あれだけ話題になっていればさすがに彼も知ってしまったのだろう。
とはいえ内容を知っているのであれば話は早い。
まずは殿下の言っていたことが本当かどうか裏をとろう。
「でしたら、噂の真相を聞かせていただけませんか?」
「はい、その時のメイド、メリアと言うのですが、彼女はいつもさぼっているような人物で困っていました。普段は殿下が直接何かを命じることもなく、我々執事やメイドの歴が長い者が指導していたのですが、その時のサボり方は度を越えていて、殿下の耳に入ってしまったのです。それまで彼女がさぼっていたことも薄々知っていた殿下はその時彼女に詰め寄り、確かに手も出されました。その後彼女はやめてしまい、とはいえ我らとしてはむしろ『さっさと辞めてくれて良かった』という程度の感想しかありませんでした」
「なるほど」
やはり殿下の言っていることとおおむね同じだったようだ。
まずはそれを聞いてほっとする。
「その時のことを詳しく知っているのは執事さんだけでしょうか?」
「いえ、私以外にもこの屋敷には数人の者がおります」
「実はあの噂、そのメリアという女が元凶というよりは殿下に恨みを持つアンジェリカという令嬢が意図的に広めているようなのです。ですからその元を断つために協力していただけないかと」
「もちろん致しますが……どうするのです?」
実はいくつかの方法を考えていたのだが、殿下が全面的に正しくて協力者も得られるようなら対決するのが一番だろう。
もしその時の証言者が誰もいないようであれば別の話題性がある噂を流す、というような解決策を考えていたが。
「どうにかアンジェリカを挑発して直接対決の場を儲けようと思います」
「なるほど、確かにそれが出来れば一番ですが……しかし向こうは応じますかね? そんなことになればどちらが勝つか結末は見えていると思うのですが」
執事は心配そうに言う。
アンジェリカがメリアの話を鵜呑みにしていなければ、彼女の話が怪しいと分かったうえで噂として利用していると考えるのが妥当だろう。
「それは分かりませんが……このようなことをする以上恐らく承認欲求のようなものが強い方なのでしょう。どうにかそれを利用しようと思います」
「分かりました」
こうして私たちはどのようにアンジェリカと対決の場を設けるかについて話し合うのでした。
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