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合理性
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「とはいえ他人に嫌われることをしているとどうしてもつまらぬ噂は流されるものだ。そんなことをいちいち気にしていても何にもならない。それよりもきちんと職務を行うことの方が大切だ」
「分かりました」
ひとしきり話して落ち着いたところで殿下がそう言った。
確かにその通りではあるのだが、だからといって全く気にしないなんてことが出来る訳がない。しかし殿下にそう言われてしまうとさすがに頷かざるをえなかった。
そんな訳で、いつもよりも集中出来ないながらも私は仕事に手をつけた。
たまたま今日は単純な書類仕事が多かったことがあって、集中できないながらも作業は進んでいく。
殿下は殿下で無言で作業を行っていた。
その表情を見るといつもの無表情に戻っていて、今何を考えているのかはうかがい知れない。
だが、先ほど気にしなくてはいいと言われたものの、私はそれには同意出来なかった。確かにどんな悪評が立っても真面目に仕事をしていればいつかはそれが周囲に認められるという考えたかたもあるし、それは基本的には素晴らしい考えではあるが、世の中必ずしもそうなる訳ではない。
私の財産を勝手に売り払って知らん顔で通そうとしたオリバーのように、世の中にはずる賢い人はたくさんいる。特に貴族であればより多いかもしれない。
そういう人たちにとっては殿下は目障りの存在だろう。
であれば噂を利用して殿下の評判を下げようとしてもおかしくない。
それなら殿下が気にしないとしても私はこの噂を究明して殿下を助けた方がいいのではないか。私はそう考えた。
そこで私は手を動かしながら質問してみる。
「ところで噂の内容は実際のところ本当なのでしょうか?」
そもそも噂が全くの嘘なのか、誇張された物なのか、実は真実に近いのか。
「半々と言ったところだな。確かに噂の人物が僕に仕えていたことはある。彼女は元々さぼり癖があり、どうにかして仕事をやっているように見せかけてサボろうとしていたんだ。そしてそれまでは一応雑ながらも仕事を終わらせていたんだが、ある日全然仕事が終わっていないことがあってね。ちょうどいい機会だから言い聞かせようと思った僕は『何で終わってないんだ』と問い詰めた。その時に彼女が『急な来客が』とか『体調が』とかあることないこと言って言い訳するものだからつい苛ついて声を荒げてしまった。そして恥ずかしながら手を出してしまったという訳だ」
「なるほど、そうだったのですね」
まあそもそも王族貴族であれば使用人に手を上げてはならないと決まっている訳でもない。悪質なサボり方をした者が相手であればなおさらだ。
「その後彼女はすぐに辞めてしまったが……確かに感情に左右されてそういうことをしてしまったことについては未熟だと思っている」
「いえ、そういう事情であれば同じようにするという方も多いと思います」
「そうかもしれない。だが、手を出して一時的に言うことを聞かせることは出来ても改心する者はあまりいないからな。軍隊のようなところではまた話は違ってくるが、使用人に手をあげるのは未熟な証だ」
「なるほど」
確かに殴られて改心するような者は、そもそも殴られる前に口頭で怒られた時点で謝罪するだろう。漠然と「使用人に手をあげるのは悪い」と思ってはいたが思わぬ合理的な理屈を聞いて納得してしまった。
そこで私は改めて思う。
このような合理的な考え方をしている人物が適当な噂話で評判が悪くなるのは良くないことだ、と。
殿下が気にしないというのであれば私がどうにかするしかない。
幸い王族であれば使用人はいっぱいいるだろうし、その時の事情を知る者は多いだろう。そこで色々話を聞いてみようと思うのだった。
「分かりました」
ひとしきり話して落ち着いたところで殿下がそう言った。
確かにその通りではあるのだが、だからといって全く気にしないなんてことが出来る訳がない。しかし殿下にそう言われてしまうとさすがに頷かざるをえなかった。
そんな訳で、いつもよりも集中出来ないながらも私は仕事に手をつけた。
たまたま今日は単純な書類仕事が多かったことがあって、集中できないながらも作業は進んでいく。
殿下は殿下で無言で作業を行っていた。
その表情を見るといつもの無表情に戻っていて、今何を考えているのかはうかがい知れない。
だが、先ほど気にしなくてはいいと言われたものの、私はそれには同意出来なかった。確かにどんな悪評が立っても真面目に仕事をしていればいつかはそれが周囲に認められるという考えたかたもあるし、それは基本的には素晴らしい考えではあるが、世の中必ずしもそうなる訳ではない。
私の財産を勝手に売り払って知らん顔で通そうとしたオリバーのように、世の中にはずる賢い人はたくさんいる。特に貴族であればより多いかもしれない。
そういう人たちにとっては殿下は目障りの存在だろう。
であれば噂を利用して殿下の評判を下げようとしてもおかしくない。
それなら殿下が気にしないとしても私はこの噂を究明して殿下を助けた方がいいのではないか。私はそう考えた。
そこで私は手を動かしながら質問してみる。
「ところで噂の内容は実際のところ本当なのでしょうか?」
そもそも噂が全くの嘘なのか、誇張された物なのか、実は真実に近いのか。
「半々と言ったところだな。確かに噂の人物が僕に仕えていたことはある。彼女は元々さぼり癖があり、どうにかして仕事をやっているように見せかけてサボろうとしていたんだ。そしてそれまでは一応雑ながらも仕事を終わらせていたんだが、ある日全然仕事が終わっていないことがあってね。ちょうどいい機会だから言い聞かせようと思った僕は『何で終わってないんだ』と問い詰めた。その時に彼女が『急な来客が』とか『体調が』とかあることないこと言って言い訳するものだからつい苛ついて声を荒げてしまった。そして恥ずかしながら手を出してしまったという訳だ」
「なるほど、そうだったのですね」
まあそもそも王族貴族であれば使用人に手を上げてはならないと決まっている訳でもない。悪質なサボり方をした者が相手であればなおさらだ。
「その後彼女はすぐに辞めてしまったが……確かに感情に左右されてそういうことをしてしまったことについては未熟だと思っている」
「いえ、そういう事情であれば同じようにするという方も多いと思います」
「そうかもしれない。だが、手を出して一時的に言うことを聞かせることは出来ても改心する者はあまりいないからな。軍隊のようなところではまた話は違ってくるが、使用人に手をあげるのは未熟な証だ」
「なるほど」
確かに殴られて改心するような者は、そもそも殴られる前に口頭で怒られた時点で謝罪するだろう。漠然と「使用人に手をあげるのは悪い」と思ってはいたが思わぬ合理的な理屈を聞いて納得してしまった。
そこで私は改めて思う。
このような合理的な考え方をしている人物が適当な噂話で評判が悪くなるのは良くないことだ、と。
殿下が気にしないというのであれば私がどうにかするしかない。
幸い王族であれば使用人はいっぱいいるだろうし、その時の事情を知る者は多いだろう。そこで色々話を聞いてみようと思うのだった。
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