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噂
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それから数日後のことである。
私が王宮に向かうと、いつもよりも周囲の人がざわざわしていた。
元々王宮は様々な噂が飛び交うところであり、特に王宮勤めの使用人たちは噂話好きが多い。王宮では日々大小様々なことが起こるため、それを見て周囲に噂すると話題の第一人者になれる。それもあって王宮で起こったことはよほど厳重に口止めしなければすぐに周りに広まっていく。
正確な噂であればまだいいが、中には明らかに尾ひれがついたようなものも平気で混ざっていて、それで誰かが不当な評価を受けたり、過大評価されたりすることもままあった。
とはいえ、人の口に戸は立てられないという言葉もある通り、噂が広まるのを止めることは誰にも出来なかった。
「確かにあの殿下であればやりそうだけど」
「厳しいとはいえ、不正をした部下相手だけだと思っていたわ」
メイド同士が話しているのを聞いて私ははっとした。名前は出ていないが、こんな風に噂される殿下と言えばクルス殿下ではないか。
そう思った私は早速二人に声をかける。
「あの、その噂について詳しく教えて欲しいんだけど」
「レイラ様!?」
二人は私の顔を見て気まずそうに顔を見合わせる。
確かに私が殿下に仕えているのは知られていることだからその私には殿下の悪い噂は話しづらいということだろう。
「別に噂話してただけなら怒らないから」
私の言葉に二人はほっとする。
もしかしたら私もクルス殿下のように厳格な人物と思われていて、適当な噂を平気でしていたら怒られるとでも思ったのかもしれない。
確かに私は殿下のやり方を好ましいとは思っているが、とはいえ今のところ政治的な立場や役職がある訳でもないのに殿下のようなことをする気はない。
「実は、昔殿下に仕えていた女性の一人が、殿下に暴力を振るわれたと主張を始めて」
「その話を聞いて自分も殿下にパワハラを受けたと主張する者がぽつぽつ現れて噂になっているんです」
「でも昔仕えていたって……何で今更?」
私は首をかしげる。殿下に敵が多いのは今に始まったことではない。
「それは分かりませんが、とりあげたのはアンジェリカ様だったので騒ぎになっているようです」
「アンジェリカ!?」
それを聞いて私は納得する。
数日前、アンジェリカは私に殿下から離れるよう言ってきた。その時彼女は殿下に何かすることを仄めかしていたが、このような噂を流すことだったらしい。
そこで殿下に恨みのある人物を探し、その人が言うことを大々的に言いふらしたのだろう。
ちょうど少し前に殿下のことが話題になったばかりだったということもあって噂はすぐに広がったに違いない。
「詳しい内容を教えて?」
「それが、その使用人は殿下の身の回りの世話をしていたのですが、ミスが多く、ミスをするたびに『どうしてそんなことも出来ないんだ』と詰められていたらしいです。そしてある日、来客が多かった日に家事を終えられず、なぜ終えられなかったのかうまく答えられなかった彼女に業を煮やした殿下が殴った、と」
それが本当なら確かに酷いのかもしれないが、正直なところ使用人に対してこのような扱いをする貴族は一定数いる。使用人は仕事をする器械のように思っていて、殴ったり怒鳴ったりする方がよく働くからそれでいいだろう、という者たちだ。
当然今の殿下はそのような人物ではないが。
それならなぜ噂が広まったかと言えば、そもそも殿下が嫌われているということに加えて、アンジェリカが意図的に噂が広まるように煽ったからだろう。
私はそもそもこの話が本当とは思わないが、彼女が何かまずいことをして殿下が殴ったとか、殴ってはないまでも激怒したとかそういう話を誇張した可能性はある。
何にせよ殿下に話を聞かなければ、と思いながら私は殿下の元に急いだ。
私が王宮に向かうと、いつもよりも周囲の人がざわざわしていた。
元々王宮は様々な噂が飛び交うところであり、特に王宮勤めの使用人たちは噂話好きが多い。王宮では日々大小様々なことが起こるため、それを見て周囲に噂すると話題の第一人者になれる。それもあって王宮で起こったことはよほど厳重に口止めしなければすぐに周りに広まっていく。
正確な噂であればまだいいが、中には明らかに尾ひれがついたようなものも平気で混ざっていて、それで誰かが不当な評価を受けたり、過大評価されたりすることもままあった。
とはいえ、人の口に戸は立てられないという言葉もある通り、噂が広まるのを止めることは誰にも出来なかった。
「確かにあの殿下であればやりそうだけど」
「厳しいとはいえ、不正をした部下相手だけだと思っていたわ」
メイド同士が話しているのを聞いて私ははっとした。名前は出ていないが、こんな風に噂される殿下と言えばクルス殿下ではないか。
そう思った私は早速二人に声をかける。
「あの、その噂について詳しく教えて欲しいんだけど」
「レイラ様!?」
二人は私の顔を見て気まずそうに顔を見合わせる。
確かに私が殿下に仕えているのは知られていることだからその私には殿下の悪い噂は話しづらいということだろう。
「別に噂話してただけなら怒らないから」
私の言葉に二人はほっとする。
もしかしたら私もクルス殿下のように厳格な人物と思われていて、適当な噂を平気でしていたら怒られるとでも思ったのかもしれない。
確かに私は殿下のやり方を好ましいとは思っているが、とはいえ今のところ政治的な立場や役職がある訳でもないのに殿下のようなことをする気はない。
「実は、昔殿下に仕えていた女性の一人が、殿下に暴力を振るわれたと主張を始めて」
「その話を聞いて自分も殿下にパワハラを受けたと主張する者がぽつぽつ現れて噂になっているんです」
「でも昔仕えていたって……何で今更?」
私は首をかしげる。殿下に敵が多いのは今に始まったことではない。
「それは分かりませんが、とりあげたのはアンジェリカ様だったので騒ぎになっているようです」
「アンジェリカ!?」
それを聞いて私は納得する。
数日前、アンジェリカは私に殿下から離れるよう言ってきた。その時彼女は殿下に何かすることを仄めかしていたが、このような噂を流すことだったらしい。
そこで殿下に恨みのある人物を探し、その人が言うことを大々的に言いふらしたのだろう。
ちょうど少し前に殿下のことが話題になったばかりだったということもあって噂はすぐに広がったに違いない。
「詳しい内容を教えて?」
「それが、その使用人は殿下の身の回りの世話をしていたのですが、ミスが多く、ミスをするたびに『どうしてそんなことも出来ないんだ』と詰められていたらしいです。そしてある日、来客が多かった日に家事を終えられず、なぜ終えられなかったのかうまく答えられなかった彼女に業を煮やした殿下が殴った、と」
それが本当なら確かに酷いのかもしれないが、正直なところ使用人に対してこのような扱いをする貴族は一定数いる。使用人は仕事をする器械のように思っていて、殴ったり怒鳴ったりする方がよく働くからそれでいいだろう、という者たちだ。
当然今の殿下はそのような人物ではないが。
それならなぜ噂が広まったかと言えば、そもそも殿下が嫌われているということに加えて、アンジェリカが意図的に噂が広まるように煽ったからだろう。
私はそもそもこの話が本当とは思わないが、彼女が何かまずいことをして殿下が殴ったとか、殴ってはないまでも激怒したとかそういう話を誇張した可能性はある。
何にせよ殿下に話を聞かなければ、と思いながら私は殿下の元に急いだ。
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