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意志
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「どうだった?」
殿下が帰った後、フィリップが私に声を掛けてくる。来てくれた他の方には悪いが今回のパーティーは殿下を招くために開かれたものだから殿下のことだろう。
「ひとまずお礼を伝えるということは成功しました。それで、殿下にもし良ければ今後政務を手伝って欲しいと頼まれまして」
「政務を?」
フィリップが首をかしげる。
というのも、この国には基本的に政治的なことは男の仕事であるという慣習があったからだ。だから私もオリバーと結婚していたときに自分の財産をオリバーに任せていたというところがあった。
とはいえ、父上が早くに病気になった際に私は一人でも生きていけるようにと最低限のことは教わっていた。
だからある程度は殿下の手伝いぐらいは出来るだろう。
「殿下曰く、貴族のことをよく分かっている者が近くに欲しいとのことです」
「それは一理あるし、確かに今の貴族が殿下の元に一族を送るとも思えないからな」
貴族の三男や四男といった微妙な立場の者は王家とのコネを作るために王子の家臣として送り込まれることがあるが、クルス殿下の場合評判が苛烈過ぎてわざわざ彼の元に一族を送るような家はないだろう。
「兄上はどう思いますか?」
「うーん、正直なところリスクは大きいだろうな。クルス殿下はあのような方だから敵を作りすぎていつか足元を掬われるのではないかという心配がある。それにレイラが今回やったことには好意的に見ている者も多いから、ほとぼりが冷めればまた縁談をまとめることが出来るだろう」
確かにすでに殿下は貴族たちから警戒されている。殿下の元で私が働くということは我がフィールズ家は殿下と親しくなるということだから、もし殿下に何かあればうちにもそれが波及するだろう。
そう思うと、適当な理由をつけて辞退する方が穏当ではあったし、フィリップも私のことを思いやって遠回しに辞退した方がいいと伝えてくれているのだろう。
だが、そう言われて私は自分が殿下の要請を受け入れようと思っていることに気づく。
殿下の要請を受け入れるのは重要なことだから今はフィールズ家の当主となった兄に相談しなければと思ったのに、実際のところはすでに自分の中では答えが決まっていたらしい。これでは食べたい物を訊かれて何でもいいと答えたのに相手が提案したものを断る面倒な女だ、と思ってしまう。
そしてそんな私の心中はフィリップにはお見通しのようだった。
彼は私の表情を見て苦笑する。
「と言ってもすでにレイラの心は決まっているようだな」
「すみません」
訊いてしまった手前少し申し訳なくなってしまう。
「先ほどはああ言ったが、逆に言えばもしも殿下が足元を掬われることなく存在感を増していけば、殿下と親しい家はうちだけになるからメリットは大きいということでもある。そなたの目から見て殿下はその可能性を託すに値する人物なのだな?」
そう言ってフィリップは私を真剣な目で見つめた。
「はい。もちろん他人と衝突するようなところはありますが、それでも能力は高いですしあそこまで公平に政務を行える人物は他にいないでしょう。国王になるタイプではありませんが、名大臣になれる器かと思います」
「分かった。とはいえ、一応僕の方でも殿下の評判や業績を調べてみるから少しだけ待ってくれ」
「分かりました。私もそれまで少しでも勉強しておきます」
実際のところ、私は殿下に仕えて殿下が挫折をする可能性よりも、自分の未熟な知識で本当に役に立てるのかということの方が不安だった。
だからどの道改めて勉強をやり直す時間が欲しかったところなのでフィリップの提案にほっとする。
「……ありがとうございます、私の我がままを受け入れていただいて」
「僕だってこの件ではクルス殿下のやり方を見て内心胸のすく思いだったから、出来れば彼に協力したいと思ってはいたんだ」
それを聞いて私はほっとした。
こうして私は再び勉強を始めたのだった。
殿下が帰った後、フィリップが私に声を掛けてくる。来てくれた他の方には悪いが今回のパーティーは殿下を招くために開かれたものだから殿下のことだろう。
「ひとまずお礼を伝えるということは成功しました。それで、殿下にもし良ければ今後政務を手伝って欲しいと頼まれまして」
「政務を?」
フィリップが首をかしげる。
というのも、この国には基本的に政治的なことは男の仕事であるという慣習があったからだ。だから私もオリバーと結婚していたときに自分の財産をオリバーに任せていたというところがあった。
とはいえ、父上が早くに病気になった際に私は一人でも生きていけるようにと最低限のことは教わっていた。
だからある程度は殿下の手伝いぐらいは出来るだろう。
「殿下曰く、貴族のことをよく分かっている者が近くに欲しいとのことです」
「それは一理あるし、確かに今の貴族が殿下の元に一族を送るとも思えないからな」
貴族の三男や四男といった微妙な立場の者は王家とのコネを作るために王子の家臣として送り込まれることがあるが、クルス殿下の場合評判が苛烈過ぎてわざわざ彼の元に一族を送るような家はないだろう。
「兄上はどう思いますか?」
「うーん、正直なところリスクは大きいだろうな。クルス殿下はあのような方だから敵を作りすぎていつか足元を掬われるのではないかという心配がある。それにレイラが今回やったことには好意的に見ている者も多いから、ほとぼりが冷めればまた縁談をまとめることが出来るだろう」
確かにすでに殿下は貴族たちから警戒されている。殿下の元で私が働くということは我がフィールズ家は殿下と親しくなるということだから、もし殿下に何かあればうちにもそれが波及するだろう。
そう思うと、適当な理由をつけて辞退する方が穏当ではあったし、フィリップも私のことを思いやって遠回しに辞退した方がいいと伝えてくれているのだろう。
だが、そう言われて私は自分が殿下の要請を受け入れようと思っていることに気づく。
殿下の要請を受け入れるのは重要なことだから今はフィールズ家の当主となった兄に相談しなければと思ったのに、実際のところはすでに自分の中では答えが決まっていたらしい。これでは食べたい物を訊かれて何でもいいと答えたのに相手が提案したものを断る面倒な女だ、と思ってしまう。
そしてそんな私の心中はフィリップにはお見通しのようだった。
彼は私の表情を見て苦笑する。
「と言ってもすでにレイラの心は決まっているようだな」
「すみません」
訊いてしまった手前少し申し訳なくなってしまう。
「先ほどはああ言ったが、逆に言えばもしも殿下が足元を掬われることなく存在感を増していけば、殿下と親しい家はうちだけになるからメリットは大きいということでもある。そなたの目から見て殿下はその可能性を託すに値する人物なのだな?」
そう言ってフィリップは私を真剣な目で見つめた。
「はい。もちろん他人と衝突するようなところはありますが、それでも能力は高いですしあそこまで公平に政務を行える人物は他にいないでしょう。国王になるタイプではありませんが、名大臣になれる器かと思います」
「分かった。とはいえ、一応僕の方でも殿下の評判や業績を調べてみるから少しだけ待ってくれ」
「分かりました。私もそれまで少しでも勉強しておきます」
実際のところ、私は殿下に仕えて殿下が挫折をする可能性よりも、自分の未熟な知識で本当に役に立てるのかということの方が不安だった。
だからどの道改めて勉強をやり直す時間が欲しかったところなのでフィリップの提案にほっとする。
「……ありがとうございます、私の我がままを受け入れていただいて」
「僕だってこの件ではクルス殿下のやり方を見て内心胸のすく思いだったから、出来れば彼に協力したいと思ってはいたんだ」
それを聞いて私はほっとした。
こうして私は再び勉強を始めたのだった。
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