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お礼
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その後一連の事件についてはクルス殿下から国内に向けて全て発表された。オリバーがしたことは悪質ではあったものの、その時はオリバーと私が結婚していたことなども考慮されて実刑がくだされることはなかったが、事件のあらましが包み隠さず公開されたことが何よりもの刑だろう。
私はそのまま実家に戻り、ローザン家と交流があった貴族からはオリバーやローザン家に対する非難の声明が相次いだ。
ちなみにそれらのことを発表したのはクルス殿下だったということもあり、事件のスポットが当たっているのはクルス殿下であり、良くも悪くも私はただの被害者としてしか見られなかった。
正直なところ、見る人によっては「夫を突然告発するなど妻としてありえない」と思うかもしれないので悪目立ちしなかったことにはほっとした。
クルス殿下については「有能な王子」という評価もでたが、後ろ暗いところがある貴族たちは皆彼の矛先が自分に向くことを恐れたのか、沈黙した。
そのため、事件に対する評価はほぼオリバーに対する非難で埋め尽くされていた。
こうして事件が一通り解決したところで私は改めてクルス殿下にお礼をしたいという手紙を送ったが、クルス殿下からは『今回はあくまで自分に寄付された領地の不正を正しただけでお礼をされるいわれはない。人の上に立つ者として特定の者から接待を受けるのはよろしくない』という手紙が返ってきた。
非常に立派だし人としても王子としても尊敬は出来るのだが、こんなことを言われてしまうとますますお礼をしたい、と思ってしまう。
「何かいい方法はないでしょうか」
私は手紙を見せて兄のフィリップに相談する。
殿下の手紙を見たフィリップも複雑な表情をする。
「頑固な方であるという評判は聞いていたが、まさかこれほどとは」
「とはいえ、こういう方であるからこそしっかりと感謝の気持ちを伝えたいという思いがあるのです」
「それはそうだな。だが、このような方はきっと誘えば誘うほどかえって頑なな態度をとるだろう。となると何か別の用件を作って呼び出した方がいいだろう」
「別な用件?」
フィリップの言葉に私は首をかしげる。
「そうだな、そう言えばもう少しでレイラの誕生日だろう? それなら誕生日パーティーという名目で誘ってみればどうだ? ただの誕生日祝いならばクルス殿下も断りづらいだろう」
「なるほど、ありがとうございます」
私はフィリップの言葉に感心した。確かにそれなら来てくれる可能性が高い。
普通、誕生日パーティーに誘われて大した理由もなしに断ればその方が失礼になる。
「パーティーを開くとはいえ今回の件があった直後なので、誘うのは我が家と深いかかわりがある方だけにしても角が立たないしな」
「そうですね。でしたらそうさせていただきます」
我が家と関りが深い家と言えば本来ローザン家が真っ先に上がるが、それも過去の話。私は父上の時代からお付き合いがある家をいくつか、そしてフィリップと親交のある家をいくつか、最後にクルス殿下に招待状を出すことにした。
これなら人数が少ないので殿下にお礼の意志を伝えることが出来るだろう。
こうして私は慌ただしくパーティーの準備を始めるのだった。
私はそのまま実家に戻り、ローザン家と交流があった貴族からはオリバーやローザン家に対する非難の声明が相次いだ。
ちなみにそれらのことを発表したのはクルス殿下だったということもあり、事件のスポットが当たっているのはクルス殿下であり、良くも悪くも私はただの被害者としてしか見られなかった。
正直なところ、見る人によっては「夫を突然告発するなど妻としてありえない」と思うかもしれないので悪目立ちしなかったことにはほっとした。
クルス殿下については「有能な王子」という評価もでたが、後ろ暗いところがある貴族たちは皆彼の矛先が自分に向くことを恐れたのか、沈黙した。
そのため、事件に対する評価はほぼオリバーに対する非難で埋め尽くされていた。
こうして事件が一通り解決したところで私は改めてクルス殿下にお礼をしたいという手紙を送ったが、クルス殿下からは『今回はあくまで自分に寄付された領地の不正を正しただけでお礼をされるいわれはない。人の上に立つ者として特定の者から接待を受けるのはよろしくない』という手紙が返ってきた。
非常に立派だし人としても王子としても尊敬は出来るのだが、こんなことを言われてしまうとますますお礼をしたい、と思ってしまう。
「何かいい方法はないでしょうか」
私は手紙を見せて兄のフィリップに相談する。
殿下の手紙を見たフィリップも複雑な表情をする。
「頑固な方であるという評判は聞いていたが、まさかこれほどとは」
「とはいえ、こういう方であるからこそしっかりと感謝の気持ちを伝えたいという思いがあるのです」
「それはそうだな。だが、このような方はきっと誘えば誘うほどかえって頑なな態度をとるだろう。となると何か別の用件を作って呼び出した方がいいだろう」
「別な用件?」
フィリップの言葉に私は首をかしげる。
「そうだな、そう言えばもう少しでレイラの誕生日だろう? それなら誕生日パーティーという名目で誘ってみればどうだ? ただの誕生日祝いならばクルス殿下も断りづらいだろう」
「なるほど、ありがとうございます」
私はフィリップの言葉に感心した。確かにそれなら来てくれる可能性が高い。
普通、誕生日パーティーに誘われて大した理由もなしに断ればその方が失礼になる。
「パーティーを開くとはいえ今回の件があった直後なので、誘うのは我が家と深いかかわりがある方だけにしても角が立たないしな」
「そうですね。でしたらそうさせていただきます」
我が家と関りが深い家と言えば本来ローザン家が真っ先に上がるが、それも過去の話。私は父上の時代からお付き合いがある家をいくつか、そしてフィリップと親交のある家をいくつか、最後にクルス殿下に招待状を出すことにした。
これなら人数が少ないので殿下にお礼の意志を伝えることが出来るだろう。
こうして私は慌ただしくパーティーの準備を始めるのだった。
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