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詰むオリバー

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 屋敷を出た僕は急いで馴染みの商人の元に向かった。
 彼は長らくローザン家と取引のある商人だからレイラの土地を勝手に処分した際も内密に処理してくれたし、それ以外にも何かと便宜を図ってくれた。
 だから今回も何とかしてくれるだろう。

 一度売ったものを返せというのはあれだが、将来家を継ぐことが出来ればいくらでも恩返しは出来るはずだ。彼としても僕に不祥事が発覚するのは困るのではないか。

 そう思った僕は密かに商人の家の前までやってくる。

「何でございましょうか」

 呼び鈴を鳴らすと、いつもはすぐに出て来るのに今日は少し間があってから、なぜか少し焦った様子の商人が出てくる。

「ん、顔色が悪いがどうかしたのか?」
「いえ、何も。先ほど急な来客がありまして少し立て込んでおりまして。しかしオリバー様でしたら他の客よりも優先させていただきますよ」

 そう言って彼は揉み手をする。
 彼の額には汗がにじんでいるし、少し疲れた様子だし何より態度が不審だ。それを見て色々思うところはあったが、だからといって僕の用件も一刻を争う。
 僕の方の問題が解決すれば後で問題解決に手を貸してやろう。

「ささ、どうぞ中へ」

 僕は彼に案内されて中に入っていく。彼が取り込み中と言っていた通り、家の中はいつもよりも騒がしいようなが気がした。

 そんな中、彼はいつも通り僕を一番いい応接室に案内し、お茶やケーキも出してくれた。もっとも僕はそれどころではないのだが。

「それで何の用でございましょう」
「実はこの前売った土地や財産を返して欲しいのだ」
「それはなぜでしょう?」
「それが、僕が内密で財産を売り払ったことがすでにレイラにばれてしまったみたいで、レイラは僕が売った土地をクルス殿下に寄付しやがったんだ。だからクルス殿下の調査が入る前に財産を元通りにしないと大変なことになる」

 彼は事情も知っているし、僕の味方だ。
 そう思っていたから僕は赤裸々に事実を打ち明けたのだが、彼はなぜか変な笑みを浮かべている。

 そして。
 急に部屋のドアが開いたと思うと、どかどかと乱暴な足音を立て、数人の兵士が部屋に入って来た。そしてなぜか僕を取り囲む。

「な、何だお前たちは!?」
「我らはクルス殿下の手の者です。あなたが他人の財産を勝手に売り払ったことの確認がとれたので、是非王宮まで来ていただきたい」
「そ、そんな……」

 それを聞いて僕は一気に全身の力が抜けていくのを感じる。
 万一元に戻すのが間に合わなかったとしても、最悪この商人が勝手にやったと言えば言い逃れる余地はあったかもしれない。もちろんあくまで可能性に過ぎないが。

 だが、今の僕の言葉をこの兵士たちに聞かれてしまっていたのであれば言い逃れのしようはない。

 おそらくクルス殿下は僕が手を打つよりも早くここを特定し、人を派遣していたのだろう。
 そうか、それで彼は今日様子が変だったか、と僕は納得する。

「すみませんオリバー様……」

 商人は申し訳なさそうに頭を下げるが、こうなった以上もはやそんなことを言われても何にもならない。

「さあ、王宮にて真実を語っていただきましょうか」
「オリバー様、もう証拠は全て揃っているのです」
「分かった……」

 こうして僕は兵士たちに連れられて王宮へ向かうしかなくなるのだった。
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