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怒られるオリバー

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「おい、これはどういうことだ!」
「な、何ですか、父上」

 ある日のこと。これまであまり実家に戻らなかったレイラが珍しく用事で実家に戻った日である。
 普段はどちらかという子育てについては放任主義である父上が突然僕を呼び出したかと思うと突然声を荒げた。
 そして僕の目の前に一通の手紙を叩きつける。

「読んでみろ」
「は、はい」

 普段滅多に怒っている様子を見せない父にびくびくしながらも、僕は恐る恐るその手紙を開く。差出人はレイラだった。

『オリバーへ
 結婚後しばらくあなたに私の財産を預けていましたが、どうしても信用出来なかったので、預けていた財産の一部を第三王子クルス殿下に寄付することにいたしました。おそらく、もう少ししたら殿下から指示が来ると思いますのでそれに従って土地を引き渡していただけると幸いです。 レイラ』

 そしてもう一枚の紙が同封されており、そこにはレイラがクルス殿下に寄付した土地が全て記されているのだった。

「な、何だこれは!」

 叫んだものの、僕の背筋はすうっと冷えていく。

 まず、この手紙の内容は明らかに「お前を信用していない」という話であり、基本的に妻にこんなことを言われるのは夫として、もしくは人としての器が疑われる。もちろん妻が狂人であればそうではないのかもしれないが、レイラは普段はいたって穏やかで常識的な人物であった。それは僕も父上もよく知っていることだろう。

 そのためこのような手紙が来たというだけでも僕の大失態と言えるが、さらに致命的なのはレイラが寄付した土地の一部に僕が勝手に売り払った土地が混ざっている点である。レイラはまるで狙いすましたかのように僕が勝手に売った土地をクルス殿下に寄付していた。

 そこで僕は少し前にレイラに財産について尋ねられたときのことを思い出す。あの時僕は王都近くのまだ売っていない土地の書類を見せて説明し、レイラも納得した風であったが、実は全くそうではなかったのだ。
 むしろ王都付近の書類を見せてしまったため、僕が王都から離れた地の財産を勝手に売り払っていたことを仄めかしてしまっていた。

「おい、どういうことだと訊いているんだ!」

 僕が答えられずにいると再度父上がテーブルを叩く。

 その音を聞いて僕の全身を冷や汗がつたう。
 一体どうしようか、と思ったがいくらエミリーのためとはいえ他人の財産を売り払ったことが明るみに出れば許される訳がない。

 こうなった以上、どうにかして殿下の手が回る前に証拠を隠蔽するしかない。そんなことがばれればもちろん大変なことになるが、どうせ破滅するのであれば大して変わらない。

 僕は心の中でそう決めた。

「……父上、僕とレイラの間に些細な行き違いがあったようです。とりあえず殿下の指示に従いつつ、レイラを説得しようと思います」

 僕がそう答えると、父上はほっと息を吐いた。

「ということはここに書いてあることはレイラの杞憂なのだな?」
「はい、そうです」
「良かった。それなら殿下に対し誠実に対応し、一刻も早く疑いを取り除くのだ。分かったな?」
「はい」

 そう言って僕は逃げるように父上の部屋を出る。
 幸い僕が土地や建物を売った商人は一人だけだ。脅すなりすかすなりして取り戻し、なかったことにしよう。
 こうして僕は急いで屋敷を出たのだった。
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