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オリバーⅡ

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「そんな、兄上が他人と結婚だなんて! これからエミリーは一体どうすれば良いのですか!?」

 レイラとの結婚を聞いてエミリーは半狂乱になっていた。

「ま、まあ落ち着けって。別に結婚するからといってエミリーが重要でなくなる訳じゃない」
「でも兄上にとってエミリーはその結婚相手の次の存在になる訳ですよね!?」

 そんな風にエミリーに詰め寄られて僕は考える。
 確かにレイラは悪い女性ではない。物静かだが優しくて僕に好意を抱いてくれている。燃え上がるほど好きかと尋ねられると困るが、エミリーのことがなければ政略結婚の相手としては申し分ないだろう。

 一方エミリーはどうだろうか。エミリーのことが好きなのかと考えてみたが、僕はエミリーに対して好きとか愛しているとかそんな月並みな言葉で説明できるような簡単な気持ちを抱いている訳ではない。

 僕はもっとエミリーを深い次元で愛しているんだ。
 そのことを僕はエミリーに伝えようとする。

「エミリー、所詮政略結婚は政略結婚だ。僕のエミリーへの気持ちは恋愛や結婚、兄妹といった月並みな言葉では表せない!」
「……そんなこと言ってごまかそうとしていません?」

 エミリーは僕を懐疑的な目で見つめる。
 確かに今の言葉は言葉だけで見ると、浮気がばれて誤魔化そうとしている男の言葉に見えなくもない。
 エミリーに僕の気持ちを証明するには行動しかない。

「そんなことはない、そうだ、エミリーももう大人だしプレゼントをあげよう」
「物で誤魔化されようとしているような……まあいいですわ、ちょうど欲しいアクセサリーがあったので」

 エミリーはなおも僕のことを疑っていたが、とりあえず彼女の言うがままにアクセサリーをあげたところ機嫌を直してくれた。

 それから僕はレイラと結婚したが、レイラは幸い僕とエミリーの関係をただの仲が良い兄妹としてしか見ていなかったようで、特に何も言ってこなかった。

 問題はエミリーの方だった。アクセサリーの件で味をしめたのか、よほどレイラの存在が不安だったのかは分からないが、それから事あるごとに物をねだってくるようになった。確かに僕は領地の管理を任されているが、基本的に実務は父上に預けられた家臣が担っているので僕が自由に領地からお金を巻き上げたり税をあげたり出来る訳ではない。

 だから僕のポケットマネーはすぐに底をついた。
 それでもエミリーは僕に物をねだってくる。

「エミリー分かってくれ、僕はもうお金がないんだ」
「そうですか、兄上はエミリーのことなどどうでも良くなったのですね……」

 僕が説得しようとすると、決まってエミリーはそう言って落ち込んだ。
 その表情を見るたびに僕は胸が締め付けられるような気持ちになり、必死でどうにかお金を捻出出来ないかを考える。
 だが領地で変なことをしようとすれば絶対に家臣にばれる。

 そこで僕は気づいた。僕にはレイラに預けられた領地がある、と。
 レイラは財産を持っているとはいえ、たまたま相続しただけで実態はよく分かっていないだろう。その証拠に管理は全て僕に丸投げされていた。

 僕は家臣に命じて、レイラの許可をとりつけたと言って領地を一部売却させた。さすがにそうしたときは罪悪感に襲われた。
 しかし結局はそのお金でエミリーにプレゼントを買い与えた。

「良かったですわ……兄上はまだエミリーのことを愛してくださっていたのですね」

 僕がプレゼントをあげると、エミリーはほっとした表情を見せた。 
 それを見て僕も安心する。
 が、すぐにエミリーは首をかしげる。

「でももうお金はないと言っていましたよね? 一体どうしたのですか?」
「これは絶対言うなよ……」

 そう言って僕は真実を告げた。
 このことを話すことでエミリーに僕がレイラよりもエミリーを重要だと思っていると知って欲しい、そんな気持ちがあったのは事実だ。
 話し終えたエミリーはとても幸せそうな笑みを浮かべた。

「やっぱり兄上は私にぞっこんですのね。安心しましたわ」

 その笑みを見て僕はやって良かったと思うのだった。
 その時には罪悪感はきれいさっぱりなくなっていた。
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