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オリバーⅠ

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「あなたの母親は使用人なんだってね?」
「いくら父親が公爵だからって半分は平民の癖に私たちと対等に振る舞おうだなんて調子に乗っているんじゃない?」
「ちょっと、下賤の血が流れている手で触らないで!」
「すみません……」

 これはまだエミリーがまだ幼かったころ。確か僕が十二でエミリーが八つぐらいだったと思う。
 たまたま僕はとある貴族の家にお使いに行ったのだが、そこでちょうど妹のエミリーが同じ年ごろの令嬢たちとお茶会をしていると聞いて、何となく様子を覗こうと思った。別に彼女が心配だったとかそういう意図があった訳ではなく、単純に彼女が同じ年ごろの娘たちと普段どんな風にしているのか興味があったのだ。

 そして部屋に近寄った時に聞こえてきたのが今の会話だ。
 それを聞いて僕は自分の心臓が凍り付いたような気がした。
 確かに僕の母は父上の正妻だが、エミリーの母親は父上が手をつけた使用人だ。幸いというかなんというか、うちではエミリーがいじめられることもなく僕たちは普通の家族として育ってきたせいで、まだ幼かった僕はそのことを気にしていなかった。

 だがこんな場面を見てしまって平静でいられるはずもない。
 僕は少し迷ったが、ドアを勢いよく開けた。

 その音を聞いて中でお茶会をしていた令嬢たちが一斉にこちらを向く。
 そして謎の男の闖入に驚く。

「あ、兄上……」

 絶句する令嬢たちの中エミリーだけがぽつりと言った。
 それを聞いてようやく彼女たちも状況を察する。
 まるで時が止まったかのように皆が固まっている中、僕はつかつかとエミリーの元に歩み寄る。

「帰るぞエミリー」
「は、はい」

 そう言って僕はエミリーの手を引いて部屋を連れ出した。

「……いつもあんな風にいじめられているのか?」
「そうです」
「そうか。これからは僕が守ってやる」
「は、はい」


 それから僕は出来る限りのことをしてエミリーを守った。
 エミリーがお茶会などに誘われれば様々な理由をつけて断り、家に他家の女性が来ることがあれば出来るだけエミリーとは会わせないようにした。

 父上や母上も僕のそんなあからさまなやり方に気づいてはいたのだろうが、特に何も言わなかった。恐らくではあるが、エミリーがそれで虐めから守られるならいいと思ったのだろう。

 が、僕がエミリーを外の敵から守っているということは、エミリーにとって僕以外の他人と接する機会が奪われていくということだ。元々虐められて心が弱っていたこともあってエミリーはすぐに僕に依存するようになった。

 最初は僕がエミリーを他人から遠ざけていたが、次第にエミリーが僕にばかり懐くようになった。
 本来ならそれに対してまずいと思うべきだったのだが、そうしていくうちに僕の方もただの庇護欲以上の気持ちをエミリーに抱くようになっていったのだった。
 こうして僕たちは気が付いた時にはお互いに強い感情を抱き合う関係になってしまっていたのだった。

 そんな時だった、レイラとの結婚が決まったのは。
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