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とぼけるオリバー

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「オリバー、話があるの!」

 私は急いでオリバーの元に戻り、話しかける。
 エミリーと話していたオリバーは突然私に声をかけられてびくりとしながら振り返った。

「す、済まないエミリー、話の続きはまた今度だ」
「わ、分かりましたわ」

 やはり二人とも後ろめたいことがあるせいだろう、私に対する反応がぎこちない。
 特にエミリーは逃げるように部屋を出ていった。

「そ、それで何だいレイラ? いつになく急じゃないか」
「随分な慌てようですが、何か私に対して後ろめたいことでもあるのでしょうか?」
「そ、そんなことある訳ないだろ? とりあえず座って紅茶でも飲んだらどうかな?」

 そう言ってオリバーは元々エミリーが飲んでいたであろうポットから紅茶をついでくれる。私はそれには手をつけずに尋ねる。

「単刀直入に尋ねますが、私が輿入れした時にお預けした財産、今どうなっていますか?」
「ど、どうなってもいない。おそらく家臣がきちんと管理してくれているよ」

 そうは言いつつもオリバーの額には汗がにじんでいる。

「先ほどエミリーに対して私から預かった財産を売っているというようなことを言っているのが聞こえてきたのですが」
「そ、そんなことは言ってない! 聞き違いだ!」

 私の言葉にオリバーは動揺しつつも反論する。
 とはいえ、そんな反論をされたところで全く信じられない。

「ではエミリーが最近やたら贅沢しているお金はどこから出ているのですか? 義父上は出していないのですよね?」
「そ、それはそうだが……僕の領地は今好調で、利益が多めに出ているんだ。疑われるような会話をして済まなかったとは思っているけど、安心してくれ」

 話しているうちにオリバーは調子を取り戻してきたのか、私を諭すように言う。
 それでも私の疑念は変わらないのだが、とはいえ立ち聞きしてそのままの勢いで来てしまったために特にオリバーを詰められる証拠などは持っていない。

「ですが先ほどはっきりと聞きました!」
「いや、多分聞き違いじゃないかな」

 聞いたというのも、そもそも明確な証拠ではない上にオリバーやエミリーも明言していた訳でもないので残念ながら証拠不足だ。
 これほど分かりやすい状況証拠がありつつも、決定的な証拠がないことに私は悔しさを感じる。しかしオリバーもローザン家の跡取りである以上物的証拠もなしに横領を疑うことも出来ない。
 私が悩んでいた時だった。

「分かった、そこまで言うならまだ土地を僕が管理しているという証拠を見せよう」

 そう言ってオリバーは立ち上がり、数枚の紙の束を持ってくる。

「ほら、これを見てくれ」

 確かに紙を見ると、土地であれば直近の利用状況、建物であれば直近の管理状況が書かれている。もし売却されていればここまで直近の記録は残っていないだろう。

 とはいえこの紙に載ってのは近くにある土地と建物だけだった。
 いくら勝手に売っているとはいえさすがに一気に全部売っている訳ではない以上、王都から遠くてばれにくいところから売っていくに違いない。

 そう考えるとこの資料を見たところで疑惑が晴れることはなかった。
 しかし、ここでオリバーをこれ以上問い詰めたところで水掛け論になるだけだ。言った言わないの議論をした挙句オリバーを警戒させて証拠隠滅されるのが最悪だ。
 そう考えた私はここはいったん退くことにした。

「分かった。疑ってごめん」
「いや、分かってくれたなら大丈夫だよ」

 オリバーはそう言って胸をなでおろすのだった。 
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