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王子の絶望Ⅱ

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「こ、これ以上お前の言うことなんか聞けるか!」

 いきなり提案がある、と言われたがすでに僕の中で伯爵に対する評価は地に落ちていた。確かに僕のしたきたことも相当愚かなことであったが、だからといって彼の言うことをこれ以上聞く訳にはいかない。
 だが、僕の言葉に伯爵はため息をつく。

「殿下はまだご自分の置かれた立場が分かっていないようですね。いいですか? まず殿下は殿下に対して実は忠誠を尽くしていた家臣を投獄し、殿下のためにあれこれ手を尽くしていた婚約者に婚約破棄を言い渡し、将軍や大臣の諫言を無視しました。それで今更ちょっと謝ったところで、全てなかったことにして“いい王子”に戻れるとでもお思いですか?」
「そ、それは……」

 僕の脳裏に僕に対して、呆れ、絶望、怒りなど様々な感情を抱く彼らの表情がよぎる。僕がしたことを考えると
「全部伯爵にそそのかされただけで悪気はありませんでした」で許される訳がない。

「第一、ここで殿下が私を切り捨てればあれほど殿下を慕っていた健気なカミラはどうなるでしょうねぇ」
「お前、まさか……」

 今更さらに絶望することがあるとは思っていなかったが、それは僕の思い違いだったようだ。伯爵はニヤリと笑って続ける。

「こんな殿下の悪行を裏で仕組んだとなれば私は重罪です。そうなった時にカミラだけ無事でいられるとでも?」
「お前、まさか……いや、カミラだけは、カミラだけは何としてでも僕が許してもらえるように訴える!」
「殿下、これだけのことをしでかしておいて、今更私を切り捨てて自分だけ罪を償って楽になろうなどと都合のいいことが出来る訳ありません」
「だが……」

 僕は王子である以上、「全て伯爵に騙されていた」では通らないが、カミラは伯爵の娘だ。伯爵に騙されて全て僕のため、国のためと信じて行ったとすればまだ救う余地はあるはずだ。

「全く、物分かりが悪いですね、殿下。ではそんな殿下でも理解できるように言ってあげましょう。もし殿下が将軍や大臣たちに膝を屈して私を差し出そうとするのであればカミラの命はないものと思ってください」
「貴様! 実の娘をまるで道具のように!」

 僕は怒りのあまり思わず拳を振り上げる。
 が、次の瞬間どたばたという足音ともに、伯爵の護衛たちが部屋に入ってきて、僕と伯爵の間に割って入る。
 そして護衛の向こうで伯爵はあざ笑うように言った。

「道具? そうだ、娘なんて元から道具のために生んだのだ! それの何が悪い!」
「貴様、僕を騙しただけでなく実の娘まで……」

 が、次の瞬間僕の体は護衛たちによって取り押さえられていた。

「おい、何をする、離せ! お前たちはこいつの罪を知らないのか!?」

 僕は絶叫するが、護衛たちは無表情で僕の体を取り押さえる。
 そんな僕を見て伯爵は改めて悪魔のような笑みで語り掛けてくる。

「さて殿下、改めて話し合いをしましょう。これからのことを」
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