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ロイド家にてⅡ

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「おお、これはフランク殿ではないか。本日はお招きありがとう」

 フランクが間に入ると、ハーミット子爵はいかにも余裕ですと言わんばかりに答えます。
 私は彼の登場に驚きましたが、フランクは傍目からでも分かるほどの敵意をハーミット子爵に向けています。声をかけようとしましたが、思わずそれが憚られるほどでした。

 彼の登場に、周囲の野次馬たちはさらに増えていきました。
 子爵のはぐらかしにフランクは一瞬表情を緩めかけますが、すぐに再び引き締めます。

「それはどうも。しかし先ほどから訊いていれば、父上の祝いの席だというのに来客に対する事実無根の噂で盛り上がっているようではないですか」
「いかにも、噂話をしておりましたが、何か問題でもあるのでしょうか?」

 ハーミット子爵はそう言って開き直ります。笑顔を浮かべてはいますが、目は笑っていません。言葉は丁寧ですが屈するつもりはない、そんな雰囲気を感じます。
 確かに噂の内容を別にすれば、噂話それ自体は悪いことではありません。いくらフランクが主催だからといっていちいちやめさせることは出来ないでしょう。

 ですが、フランクも表情を変えることなく冷静に続けます。

「それはそうですが……しかしその噂には何か根拠があるのですか? 根拠がなければただの悪口と変わりありませんが」
「別に悪口ではない。それに事実無根というが、本当か分からないからこそこのお嬢さんにただ質問をしていただけだ」

 度重なる開き直りに対してフランクは一瞬眉をひそめましたが、すぐに口を開きます。

「なるほど、そうですか。ではあなたは様々なパーティーに参加し、爵位や年齢が下の相手に、興味の赴くままに下世話な質問を投げかけては相手を辱めているという噂を聞いていますが、それは本当ですか?」
「え、な、何だ急に」

 フランクの切り返しに子爵はたじろぎました。
 が、フランクは険しい口調で続けます。

「そういう噂が流れているので本当かどうか本人に確かめているのです。あなたが今やっていることは今僕が尋ねているのと同じようなことですよね?」
「そんなことはない、わしが尋ねているのはこの界隈に広く広まっている噂であり……」

 子爵は必死に言い訳しようとしますが、うまく言い返せないと気づいてしまったのか、その表情は苦し気で言葉にも力がありません。
 そこへフランクは容赦なく追撃を重ねます。

「それなら今僕が言ったことも広まっていますよ。あなたの耳に入れる方がいなかったというだけで」
「な、何だと!? 言わせておけば……」

 そう言われて子爵は顔を真っ赤にします。

「いいのか!? 我がハーミット家に楯ついて! 確か貴家は我が領から買っているものがあるはずだったが」

 彼はフランクをぎろりと睨みつけながら叫びました。

 この程度の口論で交易の話を持ち出すのは大人気ない、と思いますがそれを持ち出されるとフランクも迂闊に口を開きにくくなります。
 さすがのフランクも一瞬沈黙してしまいました。

 が、その時です。
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