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シエラの懺悔 エレン視点Ⅲ

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「そう言えばウィルはずっとシエラと会っていたようだが、エレンと会っていた時は違和感などなかったのか?」

 シエラがいなくなると、父上は尋ねます。
 確かに私は父上に心配をかけまいとウィルのことはあまり告げないようにしていましたが、だからといってここまで何も気づいていない風で尋ねられるとさすがに唖然としてしまいます。

「もしかして父上は私とウィルがずっとうまくいっていると思っていました?」
「いや、そんなことはないが……」

 私の質問に父上の目が泳ぎます。
 おそらく何となく微妙な空気は感じていたとしても、それ以上は知らない振りをしていたのでしょう。もしかしたら前に私にウィルとの関係をうまくいかせるよう言ってきたのも、それとなく良くない雰囲気を感じ取っていたからかもしれません。

「ほら、時々喧嘩していただろう? それは知っているが、シエラの件のせいなのか?」
「まあそれもありますし、そもそも私とウィルの相性が悪かったというのもあります」
「そうだったのか……」

 それを聞いて父上は意外そうな顔をします。

「そうです、ただ、せっかくのランカスター子爵家との婚約ということもあって出来るだけ表に出さないようにしていたのです」
「そうだったのか……それは済まなかった……」

 父上は今更ながら私に謝ります。
 とはいえ、確かに父上は私たちにうまくいって欲しいというオーラを出していましたが、それはあくまでそういう雰囲気を出していたというだけの話で、実際に黙っていたのは私です。

「きっとウィルは私のことが理屈ではなく相性とか雰囲気とかそういうレベルで嫌いだったのでしょう。私が何をしても彼の気にいらない様子でした。そしてウィルはシエラの方を好ましく思っているのも知っていました」
「そうだったのか。済まない、うちがあまり裕福でないばかりに今回の政略結婚に期待してしまったのだ。何もそこまでの我慢を強いるつもりではなかったのだ」

 きっと父上は私とウィルが喧嘩したときももっと些細なことでの喧嘩だと思っていたのでしょう。
 とはいえウィルがこのようなことをしてしまったため、ようやく父上もウィルが普通ではない人物だと理解し、そんな人物と私を婚約させたことを後悔しているようです。

「いえ、もういいのです。仮にこのことを父上に言っていたとしても事態が何か変わっていたとは思えませんし」
「それは……」

 そう言われて、父上は何か言い返そうとして言葉を飲み込みました。
 おそらく、何か言われても具体的にウィルの悪い所が出てこない限りは爵位が上であるランカスター家に抗議など出来ないと思ったのでしょう。

「ウィルのことはともかく、せめてわしがシエラのことに気づいていれば」

 それを聞いて確かにそうだと思いました。
 うちのような貧乏貴族は人を満足に雇う余裕もなく父上も日々の政務が大変だったでしょうが、せめてもう少し家族に気を配っていてくれれば。
 そうすればシエラに注意して浮気は自然消滅していた可能性もあります。

 とはいえ、今更父上を責めたところで何かが解決する訳でもありません。
 それにこうして自分に非がない形でウィルとの婚約が消滅しそうな事態に、どこかほっとしている自分がいるのも事実でした。
 もしウィルが浮気しなければ、このまま彼と結婚してしまっていたでしょう。そうなればいずれ我慢できなくなることがあるはずです。そう思うと、悲しい気持ちはありますが少しほっとしていました。

「……しばらく一人にしてください」
「分かった」

 そう言って私は自室に戻るのでした。
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