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呆然

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 言いたいことを言うだけ言って部屋を出ていくウィルの後ろ姿を見て私は呆然としてしまいました。
 最初はウィルが私がシエラの料理を手伝わなかったことについて文句を言ってきたのでそれに反論していたつもりが、最終的にはウィルが開き直って、シエラと二人で会うのは悪くない、などと言い、そのまま出ていってしまいました。

 そもそも私としてはウィルが私が手伝ったシエラの料理をおいしいと言うのであれば、それは私の心がこもっていないという話ではなく、単に私が作った料理に対して難癖をつけていただけになるので、それについて認めて謝ってほしいという気持ちでウィルに反論したのです。

 それなのにウィルはそれを認めず、私もウィルがシエラと二人で会っていることを責めてしまい、気が付くとあんな結末になってしまいました。
 これが政略結婚である以上ウィルももう少し大人な対応をしてくれるかと思っていましたが、残念ながらその期待は外れました。よほど私のことが嫌なのか、それともシエラが気に入ったのか。

 そもそも私の料理に散々文句を言って、しかも勝手にシエラと仲良くしておきながら今更シエラに料理を教えなかったことに怒るウィルには怒りを通り越して呆れてしまいます。どれだけ自分本位に世の中が出来ていると思っているのでしょうか。

 とはいえ一つはっきりしたのはウィルにとって私よりもシエラの方が好ましい存在ということでしょう。
 私との関係が決裂したからか、それとも最近余計にシエラへの愛着が増したのか、ついに彼はシエラとの関係を隠そうともしなくなりました。

 おそらくシエラは私の婚約者を奪おうとかそこまで考えずに何となくウィルと仲良くしているだけでしょうが、ウィルの方は本気のようです。純粋な関係、と言っていますがうち以外で二人で会っている時点ですでに普通ではありません。彼もやましいところがあるからこそ純粋であるというのを強調しているのではないでしょうか。

 そのことを早いうちに知ることが出来たのは不幸中の幸いかもしれません。
 知らずにこれまで通りウィルの歓心を得ようと努力したとしても全て無駄になっていたことでしょう。



 とはいえ、これから私はどうするべきでしょう。
 仮にこのことを父上に言ったとしても、父上はランカスター家との縁を切りたくはないので私に「ウィルと無理に仲良くしなくてもいいから我慢しろ」というようなことを言ってくるような気がします。

 それともシエラにもウィルと会うのをやめるように言うべきでしょうか。
 シエラにウィルが本気であることを言ってこのままだと大変なことになる、と言えばシエラならもしかしたら私の言うことを聞くかもしれませんが、もしその話がウィルの耳に入ればまたウィルは私に文句を言ってくるでしょう。

 そんなことになるぐらいなら二人の関係には一切口を出さない方が面倒なことは少ないでしょう。
 何せこの政略結婚はうちの方が立場が低い婚約です。
 ウィルとの関係のためではなく、家のためと思えば多少の我慢は出来ます。
 後は問題にならない範囲で二人とも勝手にすればいい、代わりに私も勝手にさせてもらう、と私は決心するのでした。
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