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ウィルの勝手な怒りⅡ

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 その数日後、たまたま僕はリーン家にいく用事があった。

 一応僕はエレンと婚約者なので定期的に会いに行かなければならない。これまではそういう機会があるたびにエレンは義務感に包まれたもてなしをしてきたが、この前あれだけ言えばさすがに今度は同じことはしないだろう。

 もっとも、家と家の都合で婚約を決められている以上エレンが家の期待を果たさなければ、と義務感に囚われてしまうのは分からなくもないが。
 その点シエラは素直に僕への好意を表してくれるからいい娘だ。

 それを思い出すと僕はエレンに怒りを覚える。
 そうだ、そんな健気なシエラに対して意地悪でお菓子作りを教えてあげないなんて。これまでは僕もどこかエレンに対する遠慮があったが、この前あれだけ僕に啖呵を切ってきたのだからもはやそれもいらない。
 これを機にエレンに対してガツンと言っておこう。

 そんなことを思いつつ、僕はリーン家に向かった。
 僕がやってくると、一応エレンが応接室に案内してくれる。これまでエレンは張り付けたような笑顔を浮かべていたが、今日は仏頂面だった。これまであんな笑顔を浮かべながらも本心はこうだったと思うといらいらしてくる。
 それでも表立って僕と仲違いする訳にはいかないせいか、部屋に着くまでは特に何も言うことはなかった。

 応接室に入り、メイドが紅茶とお茶菓子を出して去っていくと僕たちは二人きりになる。

 その瞬間、エレンははあっとため息をついた。
 本心ではよほど僕のことが嫌なのだろう、あまりに露骨すぎる態度に僕は皮肉の一つも飛ばしたくなってしまう。

「おいおい、周囲の目がなくなった瞬間に随分な態度の変わりようだな」
「誰かさんに心がこもっていないと言われたので本心をさらけ出して生きることにしました」

 エレンは僕に対してあてつけるように言う。
 全く、僕がせっかくエレンの振る舞いに心がこもっていないということを善意で指摘したというのに、そんな風に言うなんて。何て可愛げがないんだ。

 とはいえ、そんなことよりも今日は言いたいことがあった。

「それよりエレン、何でシエラにお菓子作りを教えてあげなかったんだ?」
「え?」

 そんなことを言われるとは思っていなかったのか、エレンは驚いた声をあげる。

「聞いたぞ、シエラがエレンにお菓子作りを教えて欲しいと頼んだのに教えてあげなかったらしいじゃないか」

 僕の質問にエレンは不満や悲しみが入り混じった表情をして少し考えこむ。後悔や謝罪の感情が全く感じられないことに僕はさらに苛々したが、どうにか我慢して待つ。
 やがて彼女は意を決したように口を開いた。

「だってあなたが私の料理は心が籠ってないと言ったじゃないですか」
「言ったけど?」
「そういうことなら私が手伝うと、今までおいしく食べていたシエラの料理までまずくなってしまいますよね?」
「そ、それは……」

 でも今までエレンがシエラの料理を手伝っていたじゃないか、その時はシエラの料理はおいしかったのに、と反論しようとして僕は気づく。

 それなら別にエレンの料理は気持ちが籠っていない、という僕の感想は的外れだったんじゃないか?
 急にそんな考えが浮かんできて困惑してしまう。
 もしかして僕が間違っていたのか?

 いや、でも本当にエレンの料理は食べていてもあまりおいしくなくて、シエラの料理はおいしかったような気がする。僕が間違っていたはずはない。

 僕が動揺しているとエレンはさらに追撃してくる。

「それにシエラが作った物は心がこもっているからどんなものでもおいしい、みたいなことを言っていましたよね? それなら私が手伝わない方がいいじゃないですか」
「そ、それは……」

 僕は反論しようとしたが、うまく言葉が出てこない。
 あれ、もしかしてエレンが言っていることの方が正しいのか?
 僕が言っていたことは間違っていたのか?

 いや、でも確かにシエラの確かに料理はおいしかったはずなのに。
 そしてエレンの料理は全然味がないように感じたのはなぜだったのだろうか。

「結局心がこもっているとかいないとかじゃなくて、私と一緒にご飯を食べるのが嫌なだけだったのでは?」
「そ、それはそっちの態度が原因だろう? 僕だって君がもっと心を開いてくれればあんなことは言わなかった!」

 僕はどうにか反論する。
 が、エレンはそれでも引き下がらなかった。

「そもそも何で当たり前のようにシエラが作った料理を食べているんです?」
「そ、それは……」

 今度こそ僕は言葉に窮するのだった。
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