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不穏

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 ウィルがやってきたと聞いて、私は大急ぎで玄関まで出迎えます。
 彼は今までうちに来たときと同じように供を一人だけ連れたカジュアルな恰好で玄関前に立っていました。

「いらっしゃい、ウィル」
「あ、ああ。随分張り切っているんだね」

 ウィルは私の精一杯着飾った服装を見て驚きます。
 基本的にこれまでウィルと会うときにここまで着飾ることはなかったので、彼も私のこんな姿を見るのは久し振りでしょう。これで私が今日を楽しみにしていたことが伝わればいいのですが。

 ですが、私の期待に反して彼の表情には驚きの中にもどこか引いているような色が見られます。

「今日はウィルが来てくれると聞いて頑張って色々準備をしたんです」
「そ、そうか。だが別にそこまですることはなかったのに……あ」

 口にしてからウィルはしまった、という風に口を抑えます。
 それを聞いて私は喉の奥に苦いものが込み上げてくるのを感じました。

 この前ウィルに心がこもっていない、と言われたから今回はこんなに一生懸命準備したというのに。
 とはいえ、どうにか私は彼にそんな動揺を気づかれないように表情を取り繕います。

「あ、今日は新しい茶葉も届いているんですよ」
「そ、そうか」

 何となくぎこちなくなってしまいましたが、まだまだ挽回のチャンスはあります。
 が、私がウィルを応接室に案内しようと歩いていると、そこへシエラがひょこっと顔を出しました。そしてぺこりと頭を下げて挨拶します。

「あら、ウィルさん、いらしていたのですね」
「シエラ、相変わらず今日も可愛いね」

 そんなシエラにウィルは嬉しそうに手を振ります。
 私は自分の準備に精一杯でしたが、シエラはシエラでいつもよりもおしゃれをしていました。とはいえ、どこかに出かける訳でもないのでドレスなどは着ていません。
 ただ、彼女がおめかしする時に身につけている髪飾りや、ブレスレットなどをつけているし、よく見ると化粧やヘアアレンジもきっちりとしています。
 家にいる時の服装ですが、きっちりおしゃれしていると言えます。

 シエラは今日は何も用がないはずなのに……
 ウィルが来るというだけでそこまで意識しているのでしょうか。この前ウィルが来たときはそこまででもなかったというのに。

「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」

 そしてシエラはウィルに褒められて満更でもなさそうにしていました。
 とはいえ、確かに彼女はおしゃれしているとはいえ、私ほどではありません。それなのに、ウィルは私には微妙な言葉しかかけてくれませんでしたが、シエラにははっきりと「可愛いね」と言っていました。

 そんな私の微妙な空気を察したのでしょう、

「それではお二人ともごゆっくり!」

 そう言ってシエラは逃げるように自室に戻っていくのでした。
 そしてそれを見たウィルの表情に一瞬ではありますが、さっと影がよぎったのを私は見てしまったのです。そんなにシエラがいなくなるのが悲しいのでしょうか。結局彼は私よりもシエラの方がいいのでしょうか。

「ウィル?」
「ああ、いや、早く行こう。僕のために色々準備してくれてるんだろう?」
「は、はい」

 私の中のもやもやはいよいよ大きくなっていったのですが、この時の私はまだ私がしっかりと心をこめて接していればいつかウィルにも私の心は届くと信じていたのです。
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