8 / 77
Ⅰ
不穏
しおりを挟む
ウィルがやってきたと聞いて、私は大急ぎで玄関まで出迎えます。
彼は今までうちに来たときと同じように供を一人だけ連れたカジュアルな恰好で玄関前に立っていました。
「いらっしゃい、ウィル」
「あ、ああ。随分張り切っているんだね」
ウィルは私の精一杯着飾った服装を見て驚きます。
基本的にこれまでウィルと会うときにここまで着飾ることはなかったので、彼も私のこんな姿を見るのは久し振りでしょう。これで私が今日を楽しみにしていたことが伝わればいいのですが。
ですが、私の期待に反して彼の表情には驚きの中にもどこか引いているような色が見られます。
「今日はウィルが来てくれると聞いて頑張って色々準備をしたんです」
「そ、そうか。だが別にそこまですることはなかったのに……あ」
口にしてからウィルはしまった、という風に口を抑えます。
それを聞いて私は喉の奥に苦いものが込み上げてくるのを感じました。
この前ウィルに心がこもっていない、と言われたから今回はこんなに一生懸命準備したというのに。
とはいえ、どうにか私は彼にそんな動揺を気づかれないように表情を取り繕います。
「あ、今日は新しい茶葉も届いているんですよ」
「そ、そうか」
何となくぎこちなくなってしまいましたが、まだまだ挽回のチャンスはあります。
が、私がウィルを応接室に案内しようと歩いていると、そこへシエラがひょこっと顔を出しました。そしてぺこりと頭を下げて挨拶します。
「あら、ウィルさん、いらしていたのですね」
「シエラ、相変わらず今日も可愛いね」
そんなシエラにウィルは嬉しそうに手を振ります。
私は自分の準備に精一杯でしたが、シエラはシエラでいつもよりもおしゃれをしていました。とはいえ、どこかに出かける訳でもないのでドレスなどは着ていません。
ただ、彼女がおめかしする時に身につけている髪飾りや、ブレスレットなどをつけているし、よく見ると化粧やヘアアレンジもきっちりとしています。
家にいる時の服装ですが、きっちりおしゃれしていると言えます。
シエラは今日は何も用がないはずなのに……
ウィルが来るというだけでそこまで意識しているのでしょうか。この前ウィルが来たときはそこまででもなかったというのに。
「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」
そしてシエラはウィルに褒められて満更でもなさそうにしていました。
とはいえ、確かに彼女はおしゃれしているとはいえ、私ほどではありません。それなのに、ウィルは私には微妙な言葉しかかけてくれませんでしたが、シエラにははっきりと「可愛いね」と言っていました。
そんな私の微妙な空気を察したのでしょう、
「それではお二人ともごゆっくり!」
そう言ってシエラは逃げるように自室に戻っていくのでした。
そしてそれを見たウィルの表情に一瞬ではありますが、さっと影がよぎったのを私は見てしまったのです。そんなにシエラがいなくなるのが悲しいのでしょうか。結局彼は私よりもシエラの方がいいのでしょうか。
「ウィル?」
「ああ、いや、早く行こう。僕のために色々準備してくれてるんだろう?」
「は、はい」
私の中のもやもやはいよいよ大きくなっていったのですが、この時の私はまだ私がしっかりと心をこめて接していればいつかウィルにも私の心は届くと信じていたのです。
彼は今までうちに来たときと同じように供を一人だけ連れたカジュアルな恰好で玄関前に立っていました。
「いらっしゃい、ウィル」
「あ、ああ。随分張り切っているんだね」
ウィルは私の精一杯着飾った服装を見て驚きます。
基本的にこれまでウィルと会うときにここまで着飾ることはなかったので、彼も私のこんな姿を見るのは久し振りでしょう。これで私が今日を楽しみにしていたことが伝わればいいのですが。
ですが、私の期待に反して彼の表情には驚きの中にもどこか引いているような色が見られます。
「今日はウィルが来てくれると聞いて頑張って色々準備をしたんです」
「そ、そうか。だが別にそこまですることはなかったのに……あ」
口にしてからウィルはしまった、という風に口を抑えます。
それを聞いて私は喉の奥に苦いものが込み上げてくるのを感じました。
この前ウィルに心がこもっていない、と言われたから今回はこんなに一生懸命準備したというのに。
とはいえ、どうにか私は彼にそんな動揺を気づかれないように表情を取り繕います。
「あ、今日は新しい茶葉も届いているんですよ」
「そ、そうか」
何となくぎこちなくなってしまいましたが、まだまだ挽回のチャンスはあります。
が、私がウィルを応接室に案内しようと歩いていると、そこへシエラがひょこっと顔を出しました。そしてぺこりと頭を下げて挨拶します。
「あら、ウィルさん、いらしていたのですね」
「シエラ、相変わらず今日も可愛いね」
そんなシエラにウィルは嬉しそうに手を振ります。
私は自分の準備に精一杯でしたが、シエラはシエラでいつもよりもおしゃれをしていました。とはいえ、どこかに出かける訳でもないのでドレスなどは着ていません。
ただ、彼女がおめかしする時に身につけている髪飾りや、ブレスレットなどをつけているし、よく見ると化粧やヘアアレンジもきっちりとしています。
家にいる時の服装ですが、きっちりおしゃれしていると言えます。
シエラは今日は何も用がないはずなのに……
ウィルが来るというだけでそこまで意識しているのでしょうか。この前ウィルが来たときはそこまででもなかったというのに。
「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」
そしてシエラはウィルに褒められて満更でもなさそうにしていました。
とはいえ、確かに彼女はおしゃれしているとはいえ、私ほどではありません。それなのに、ウィルは私には微妙な言葉しかかけてくれませんでしたが、シエラにははっきりと「可愛いね」と言っていました。
そんな私の微妙な空気を察したのでしょう、
「それではお二人ともごゆっくり!」
そう言ってシエラは逃げるように自室に戻っていくのでした。
そしてそれを見たウィルの表情に一瞬ではありますが、さっと影がよぎったのを私は見てしまったのです。そんなにシエラがいなくなるのが悲しいのでしょうか。結局彼は私よりもシエラの方がいいのでしょうか。
「ウィル?」
「ああ、いや、早く行こう。僕のために色々準備してくれてるんだろう?」
「は、はい」
私の中のもやもやはいよいよ大きくなっていったのですが、この時の私はまだ私がしっかりと心をこめて接していればいつかウィルにも私の心は届くと信じていたのです。
13
お気に入りに追加
5,798
あなたにおすすめの小説
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
愛されない私は本当に愛してくれた人達の為に生きる事を決めましたので、もう遅いです!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢のシェリラは王子の婚約者として常に厳しい教育を受けていた。
五歳の頃から厳しい淑女教育を受け、少しでもできなければ罵倒を浴びせられていたが、すぐ下の妹は母親に甘やかされ少しでも妹の機嫌をそこなわせれば母親から責められ使用人にも冷たくされていた。
優秀でなくては。
完璧ではなくてはと自分に厳しくするあまり完璧すぎて氷の令嬢と言われ。
望まれた通りに振舞えば婚約者に距離を置かれ、不名誉な噂の為婚約者から外され王都から追放の後に修道女に向かう途中事故で亡くなるはず…だったが。
気がつくと婚約する前に逆行していた。
愛してくれない婚約者、罵倒を浴びせる母に期待をするのを辞めたシェリアは本当に愛してくれた人の為に戦う事を誓うのだった。
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
(完結)私から婚約者と屋敷を奪った妹は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はグレース、ニコリッチ公爵家の長女。私には腹違いの妹、ロージーがおり、私の物をいつも羨ましがり奪おうとするのだった。
年頃になった私に婚約者ができた時もそうだった。その婚約者はこの国の第3王子オスカー・カステロ殿下。金髪碧眼の美男子だ。
そして案の定、妹は私からオスカー殿下を奪い、私は屋敷から追い出されたのだった。
だが・・・・・・
※設定
異世界中世ヨーロッパ風の物語。カメラの開発されている世界。
ゆるふわ、ご都合主義。
前編・後編のショートショート。
悪役令嬢VSヒロイン∞なんて世の中に需要はない
藤森フクロウ
恋愛
悪役令嬢ローズマリーに転生したら、俺Tueeeeeもできない、婚約阻止も失敗した。
婚約者は無関心ではないけどちょっと意地悪だし、兄は陰険だし、やたら周囲はキラキラしまくったイケメンでローズマリーの心は荒んでいく。
入学した学園ではなんとヒロインが増殖中!?
どーなってんのこれー!?
『小説家なろう』にもアップしています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる