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パーティーⅢ

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 壇上に上がった父上は広間に並ぶ貴族たちを見回すと、演説を始める。
 最初は特に何と言うこともない挨拶から始まったが、途中で雲行きが変わってくる。

「……とはいえ王国の平和が長く続いたためか、王国の平和よりも自家の利益ばかりを願う者も出てくるだろう。とはいえ、そのようなことをすれば例え一時の利を得ることが出ても、いずれ必ずその代償を支払わされることになるだろう。少なくとも私としてはそのような行為を行う者が出てこれば許すことは出来ない」

 無難な内容から一転、明らかにメイナード家のことを指していると思われる内容が出てくる。それを聞いて貴族たちは顔を見合わせた。

 こうして貴族の代表として挨拶を任されている以上、やはりエイミス公爵家に敵対しない方がいいのではないか。
父上としては彼らにそう思わせたかったのだろう。
 そしておそらく、その目論見は成功しているように見えた。

「……以上だ。これからも皆で王国の繁栄を支えていこうではないか」

 そう言って父上は挨拶を終えると、拍手に包まれて戻っていく。
 が、その時だった。恐らく元々の式典の手順では王家の偉い人が次にしゃべることになっていたが、突然広間側、要するに列席する貴族の中から手が挙がる。

 式典は学級会ではないし、挙手制で発言者を決める訳ではない。
 そのため、手が挙がるとすぐに周囲はざわついた。

 そして指名を待つことなく立ち上がったのはメイナード公爵であった。他の貴族であればたちまち周囲から注意されたり失笑をかったりすところであっただろうが、メイナード公に向かって面と向かって注意出来る者はいない。

 そんな彼に対して広間の前方では王家の家臣たちが何かを話し合っていたが、やがてメイナード公は前方へ歩いていく。

 恐らくではあるが、勝手に前に出て話すからそれを止めないでくれ、とあらかじめ根回ししていたのだろう。
 彼は前に出ると居並ぶ貴族たちをぎろりと睨みつける。
 そして周囲を威圧するような低い声で話し始めた。

「先ほどのエイミス公の演説、実に見事であった。しかしエイミス公は王国の繁栄よりも自家の利益ばかりを願う者がいると言っていたが、それは他ならぬエイミス公本人であると言わざるを得ない」

「何だと!?」「どういうことだ!?」

 突然のメイナード公の言葉に周囲はざわざわする。
 日頃からメイナード公と親しい貴族たちでさえ、このような式典でここまで直接的なことを言うのか、と驚いていた。基本的に式典は会議ではないのだからあまり直接的な話はしないというのが慣例になっている。

 私も突然のことに気が気でなくなる。
 彼の言っていることはただのはったりなのか、それとも何かしらの根拠があるのか。
 王家の家臣たちも一部がメイナード公を止めようとしたが、メイナード公派と思われる者たちによって止められる。一見乱暴に見えるこのやり方も事前にある程度仕組んでいたことなのだろう。

「皆には心当たりがないようだ。ではわしが教えてやろう。まずはエルミス公爵家が管理するフーバー港の利益についてだ。本来は港から上がる利益は王家と管理する家が折半する決まりになっていたが、エイミス公爵家はその利益の七割を独占しているという報告があった」

 それを聞いて再び周囲はざわざわする。
 フーバー港と言えば王国で一番栄えている港だ。そこの管理を任されているだけでもすごいのに、その利益を不当に独占しているとなれば反感を買っても仕方ない。

「それから王国の法では教会に税をかけることは禁止されているが、彼らは自分たちが大きな家であることをいいことに、税を搾り取っているときく。さらに……」

 それからメイナード公はさらにいくつかの事を並べ立てた。
 私の知る限り、それらの事例には多少グレーなことはあれど、間違いなくメイナード家に比べれば全く後ろ暗いことはない。

 しかし資料も何もないこの状況ではさすがの父上とてすぐに反論するのは難しいだろう。また、フーバー港の利益や教会への課税など、他貴族から反感を買いそうな話題をきちんと選んでいるあたりが巧みだった。

 また、メイナード公の演説を聞いて、外に待機していた内政に詳しい家臣たちが広間に入ろうとしているが、それを王城の兵士たちに止められてしまっている。彼らにも事前に根回ししていたのだろう。

「……ということだが、いかがかな?」

 メイナード公はそう言って父上に話を振るのだった。
 それを聞いて広間中の貴族たちの耳目が父上に集まる。
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