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Ⅲ
決着
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それからすぐにタイムが終わり、試合が再開する。
相変わらずコートの中央では十対十の試合が行われ、隅の方でカーティスとオスカーの追いかけっこが行われていた。
先ほどまでと同じようにオスカーの危険な突進をカーティスがひらりひらりとかわしているのだが、先ほどオスカーが靴を替えたせいかカーティスの視線はオスカーの足元にちらちら向いている。そのせいか、時々オスカーと身体がぶつかりそうになってこちらが冷やりとさせられることもあった。
そんな中、カーティスのチームがさらにもう一点入れ、オスカーの顔に焦りが浮かぶ。
あれだけ大口を叩いておいて試合で負け、カーティスに勝つ(怪我をさせたら勝ったことになるのかは不明だが)ことも出来なかった、ではただ恥ずかしいだけで終わってしまう。
オスカーの予定では今ごろカーティスを始めとする主要な選手を何人か潰して、試合でも勝つことになっていたのだろうからかなり目算が狂っているのだろう。
もはや審判の目がすっかり二人から離れているのを見て、オスカーは唐突に手を伸ばした。そしてカーティスの服の裾を軽く掴む。
「何する!」
カーティスは叫んだが、次の瞬間にはすでにオスカーの手は離れていた。そのため慌てて振り向いた審判の目には入っていない。
だがさすがのカーティスもそんな露骨な反則はされないと思っていたせいか、不意の攻撃に体をぐらりとよろめかせる。
その隙にオスカーは近寄ると、まっすぐに足を蹴りだした。
もはや試合中の偶然の接触に見せかけるとかそういう小細工が全くない純粋な暴力行為である。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまった。
その声にはっとしたカーティスはその場に転ぶようにしてオスカーの蹴りを避ける。
するとそれまでカーティスが立っていた辺りをオスカーの蹴りが空振していくのが見えた。そして一瞬ではあるが、オスカーの靴がきらりと光ったように見える。
もしかして靴の底に刃物でも仕込んでいたのだろうか。
もしもカーティスが避けきれなければ……と思うと背筋が冷たくなる。
そんなことして見つかったらどうするのか、と思っているときらきらした刃物はぶんぶんと飛んでいき、コートの隅に転がる。そしてそれを待機していたオスカーの手下と思われる生徒が素早く回収し、どこかへ走っていってしまった。
まさかそんな作戦まで仕込んでいたとは。
ここまで来ると呆れを通り越して驚いてしまう。
その光景を見てしまった私や他の生徒たちはさすがに騒然とした。
オスカーもそこまで準備した一撃を避けられたこと、さらにそれが多数の観客に目撃されたことを悟ったのだろう、「交代だ」と相手チームのキャプテンに怒鳴るとコートを出てどこかへ去っていってしまった。
相手のキャプテンも少し困惑したものの、オスカーがようやく出ていってくれたことに安心し、ほっと息を吐いて別の選手を呼ぶ。
そして試合は何事もなかったかのように再開された。
オスカーがいなくなったため、カーティスもコートの中央に戻り、相手チームとの戦いに戻る。相手もオスカーという邪魔者がいなくなり、ちゃんとした十一人になったせいか先ほどまでよりも動きが良くなった気がする。
そのため、それまではオスカーにばかり注目していた観客も自然と彼らの戦いに目を惹かれていた。
そしてそんな中、カーティスが華麗に相手のフォワードからボールをカットする。そしてそのままドリブルして進んでいく。相手チームがカーティスを止めようとするが、カーティスはそれをうまくかわしながら次々と進んでいく。
そして最後にカーティスの前に残ったのはゴールキーパーだけになった。
お互いのチームメイトが駆けつけてはいるが、一瞬だけ完全に一対一の構図が出来上がる。
カーティスはドリブルしながら大きく右側へ回り込もうとする。
そしてそれにゴールキーパーが釣られた瞬間、ゴールの左側へ向かって鋭い蹴りを放つ。慌ててキーパーがボールに向かってジャンプするが、カーティスのシュートは狙いすませたようにゴールポストぎりぎりを抜けていった。
それを見て観客席から歓声があがる。
今度ばかりはオスカーの因縁が関係ない、試合に対する純粋な歓声だった。
「試合終了!」
そして、まるでそれを待っていたかのように審判の声が響いたのだった。
相変わらずコートの中央では十対十の試合が行われ、隅の方でカーティスとオスカーの追いかけっこが行われていた。
先ほどまでと同じようにオスカーの危険な突進をカーティスがひらりひらりとかわしているのだが、先ほどオスカーが靴を替えたせいかカーティスの視線はオスカーの足元にちらちら向いている。そのせいか、時々オスカーと身体がぶつかりそうになってこちらが冷やりとさせられることもあった。
そんな中、カーティスのチームがさらにもう一点入れ、オスカーの顔に焦りが浮かぶ。
あれだけ大口を叩いておいて試合で負け、カーティスに勝つ(怪我をさせたら勝ったことになるのかは不明だが)ことも出来なかった、ではただ恥ずかしいだけで終わってしまう。
オスカーの予定では今ごろカーティスを始めとする主要な選手を何人か潰して、試合でも勝つことになっていたのだろうからかなり目算が狂っているのだろう。
もはや審判の目がすっかり二人から離れているのを見て、オスカーは唐突に手を伸ばした。そしてカーティスの服の裾を軽く掴む。
「何する!」
カーティスは叫んだが、次の瞬間にはすでにオスカーの手は離れていた。そのため慌てて振り向いた審判の目には入っていない。
だがさすがのカーティスもそんな露骨な反則はされないと思っていたせいか、不意の攻撃に体をぐらりとよろめかせる。
その隙にオスカーは近寄ると、まっすぐに足を蹴りだした。
もはや試合中の偶然の接触に見せかけるとかそういう小細工が全くない純粋な暴力行為である。
「危ない!」
思わず私は叫んでしまった。
その声にはっとしたカーティスはその場に転ぶようにしてオスカーの蹴りを避ける。
するとそれまでカーティスが立っていた辺りをオスカーの蹴りが空振していくのが見えた。そして一瞬ではあるが、オスカーの靴がきらりと光ったように見える。
もしかして靴の底に刃物でも仕込んでいたのだろうか。
もしもカーティスが避けきれなければ……と思うと背筋が冷たくなる。
そんなことして見つかったらどうするのか、と思っているときらきらした刃物はぶんぶんと飛んでいき、コートの隅に転がる。そしてそれを待機していたオスカーの手下と思われる生徒が素早く回収し、どこかへ走っていってしまった。
まさかそんな作戦まで仕込んでいたとは。
ここまで来ると呆れを通り越して驚いてしまう。
その光景を見てしまった私や他の生徒たちはさすがに騒然とした。
オスカーもそこまで準備した一撃を避けられたこと、さらにそれが多数の観客に目撃されたことを悟ったのだろう、「交代だ」と相手チームのキャプテンに怒鳴るとコートを出てどこかへ去っていってしまった。
相手のキャプテンも少し困惑したものの、オスカーがようやく出ていってくれたことに安心し、ほっと息を吐いて別の選手を呼ぶ。
そして試合は何事もなかったかのように再開された。
オスカーがいなくなったため、カーティスもコートの中央に戻り、相手チームとの戦いに戻る。相手もオスカーという邪魔者がいなくなり、ちゃんとした十一人になったせいか先ほどまでよりも動きが良くなった気がする。
そのため、それまではオスカーにばかり注目していた観客も自然と彼らの戦いに目を惹かれていた。
そしてそんな中、カーティスが華麗に相手のフォワードからボールをカットする。そしてそのままドリブルして進んでいく。相手チームがカーティスを止めようとするが、カーティスはそれをうまくかわしながら次々と進んでいく。
そして最後にカーティスの前に残ったのはゴールキーパーだけになった。
お互いのチームメイトが駆けつけてはいるが、一瞬だけ完全に一対一の構図が出来上がる。
カーティスはドリブルしながら大きく右側へ回り込もうとする。
そしてそれにゴールキーパーが釣られた瞬間、ゴールの左側へ向かって鋭い蹴りを放つ。慌ててキーパーがボールに向かってジャンプするが、カーティスのシュートは狙いすませたようにゴールポストぎりぎりを抜けていった。
それを見て観客席から歓声があがる。
今度ばかりはオスカーの因縁が関係ない、試合に対する純粋な歓声だった。
「試合終了!」
そして、まるでそれを待っていたかのように審判の声が響いたのだった。
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