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クリフとエルマの勉強会

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 昨日のこと。リアナが教室から出て姿が見えなくなると、クリフはエルマに対して頷いてみせる。

「まあそこまで言うならエルマに勉強教えてあげるのもやぶさかではないな。俺程度で役に立つなら全然教えるよ」

 そう言ってクリフは得意げに鼻の下を伸ばした。
 可愛らしいエルマに頼られて嬉しかったのか、それとも普段は劣等感を感じている勉強のことで頼られているのが嬉しいのか。
 それを聞いてエルマはわざとらしくぱあっと表情を輝かせてみせる。

「ありがとう、とても嬉しいわ」

 そう言って彼女はその勢いでクリフの腕にとびつく。
 そしてわざとらしく彼の腕を放し、落ち込んだ表情をしてみせた。

「ごめんなさい、クリフには婚約者がいるというのに調子に乗ってしまったわ」
「大丈夫だ、俺はそんなことをいちいち気にしたりはしないよ」

 クリフがそう言うと、エルマはかすかに表情をほころばせた。
 勢いで試してみたが、クリフは思いのほかリアナよりも自分に気持ちがあるようだ。真っ当な男であれば婚約者がいるのにそんなことをされれば「控えてくれ」ぐらいは言うだろう。

 そんな訳でエルマはクリフにぴったりくっついて歩きながらカフェテリアへと向かう。

「ところでエルマは何の勉強を教えて欲しい?」
「うーん……歴史」
「良かった、歴史は俺得意なんだ」

 それを聞いてクリフは安堵する。実はエルマはクリフの得意教科を知っていたから歴史と言ったのだが、クリフは全く気付いていなかった。

「私、全然分からないからうちの国の成り立ちの基本的なことから解説して欲しいなって」
「もちろんだ。まずこの辺りは暴帝メルギルっていう暴虐な奴が治めていて……」

 クリフは嬉々として語り始める。
 実のところクリフは歴史が得意とはいえ、彼が知っている内容はものすごく触りの部分でしかない。彼が得意だったのは通り一遍の知識しか習っていなかったころの歴史だし、その時覚えたことも今ではうろ覚えたになっていた。
 そのためちょくちょく内容が分からないところがあり、飛ばしたり固有名詞をぼかしたりしたが、エルマは全く目くじらを立てない。

 しかも要所要所で、

「わあ、すごい、物知りだね!」
「そんなこと知っているの!? 全然知らなかった!」

 などとクリフが喜ぶような相槌を入れる。
 そのためクリフは自分が歴史にすごく詳しいかのような錯覚を覚え、どんどんいい気分になっていった。

 そして考える。
 確かにリアナも勉強を教えてはくれたが、細かいところをいちいち指摘してくるし、勉強しろしろとうるさい。リアナの教え方では勉強が身に着く前にやる気がなくなってしまう。
 その点エルマに勉強を教えていると、彼女は肯定的な反応しかしないのでどんどんモチベーションが上がっていく。勉強を教えると自分の復習になるとも言うし、同じ時間勉強するならリアナに教わるよりもエルマに教える方がいいのではないか。

 どんどんクリフはそう思えてくる。

 そして一時間ほどかけてクリフはスターリッジ王国の歴史について語り終えた。
 実のところエルマにとって知っている内容ばかりだったし何か所か間違っているところや怪しいところもあったが、そんなことはおくびにも出さずに笑顔を浮かべる。

「ありがとうクリフ、とても分かりやすい説明で助かった!」
「そうか? 良かった、俺が役に立てて」

 エルマの反応を聞いてクリフはほっと胸をなでおろす。
 そんなクリフの反応を見てエルマはこれならいける、と確信する。そして少しだけ甘えた声を作り、上目遣いで言う。

「ねえ、明日も私に勉強教えて欲しいな」
「もちろんだ」

 クリフはすぐに断言した。
 あまりの決断の速さに誘ったエルマの方が内心驚いたぐらいだった。

 言ってから、クリフはちらっとリアナのことを思い出す。ただそもそもリアナの場合はクリフに勉強を教えてくれると言っているだけで、別にクリフから辞退するなら問題ないだろう。
 逆にエルマには自分が勉強を教えてあげなければ試験で困ってしまう、とクリフは思い直す。

「今日はありがとう。じゃあまた明日」
「ああ、俺も楽しかった」

 そう言って二人は別れたのだった。
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